医療情報室レポート
No.232

2019年8月1日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
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特 集 : 「平成」から見る医療提供体制の変化

 
 2019年5月1日、約30年間に亘る「平成」という一つの時代が終わり、新たな時代「令和」が幕を開けた。平成を振り返ると、30年の間に様々な社会的課題や変化があったが、その代表的なものの一つとして「少子高齢化」があげられるだろう。平成元年には、総人口に占める65歳以上の割合は11.6%であったが、平成7年には「高齢化社会」と称される目安である14%に達し、平成30年には27%と急増、30年の間に2.5倍にも増加している。このような状況を踏まえ、国は、加速する少子高齢化と目前に迫る「2025年問題」を見据え、医療・介護の大きな政策転換を進めてきた。
 今回の医療情報室レポートでは、これまで昭和の終わりから平成にかけて重ねられてきた医療法改正を振り返り、医療提供体制の変化を中心に、どのように変わっていったのか確認してみたい。

●『医療法改正』にみる医療提供体制の変遷

○終戦後から昭和50年代までの医療提供体制は…
 医療法は昭和23年に制定され、当初は、感染症など急性期疾患への対応が求められ、公的な医療機関を中心に、病院の「量的確保」が急がれた。その後も、昭和36年の国民皆保険の達成やフリーアクセスによる受診のし易さ、医師の自由開業制などが相まり、経済の成長とともに医療機関数は増加していった。さらに、日本の高齢化が進む中、昭和48年に老人医療費の無料化政策が実施されたことで高齢者の受療率は急激に増え、国民医療費に占める老人医療費の割合も上昇していった。しかし、昭和50年代当時は、高齢者を支える介護は行政による措置制度として行われていたため、家庭での介護が難しい高齢者の受け皿としての病院・病床が増大し、必ずしも入院医療を必要としない「社会的入院」も問題となった。それから現在までの間、医療法は8回に亘る改正が重ねられてきたが、ここでは、紙面の関係上、医療提供体制に関わる部分を中心に流れを振り返ってみたい。
 
 施行年  主な改正の内容  改正のポイントと趣旨
 第一次改正
1986年
(昭和61年)
  • 医療計画制度の導入
  • 二次医療圏ごとに必要病床数を設定
 第一次改正の大きなポイントは、病床の量的規制と病院の地域偏在の解消等を柱とする『地域医療計画』が策定されたことである。医療法の制定以前は、病院数は増えるものの、その配置について調整を行う仕組みがなかったが、国は、都道府県が設定する「医療圏」単位で必要な病床数を定め許可制とするようにし、病床数が基準を超えている地域については、原則、新たに病院設置ができないこととした。この規制が発動されるまでの猶予期間中、いわゆる『駆け込み増床』が発生したが、これを機に、病院・病床数の増加に歯止めがかかることとなった。なお、1989(平成元)年に、いわゆる「ゴールドプラン」が策定され、その後、介護サービスの整備も本格化していく。
 第二次改正
1993年
(平成5年)
  • 特定機能病院の制度化
  • 療養型病床群の制度化
 「平成」最初の改正である第二次改正以降は、それまで曖昧だった医療機関の機能・役割を制度上明確にしていくことが大きなテーマになったといえる。
 まず第二次改正では、病院への新たな「機能」が加えられ、大学病院など高度医療を担う「特定機能病院」と、生活面も含めた長期療養の場となる「療養型病床群」が制度化された。続く第三次改正では地域の医療機関間の「連携」も重視。第3の機能分化として、かかりつけ医からの紹介外来制を原則とする「地域医療支援病院」が創られ、病床数200床以上で、医療機器の共同利用や救急医療の提供、医療従事者の研修実施など高い公益性と都道府県知事の承認が要件とされた。さらに、「療養型病床群」制度は診療所にも拡大。それまで、入院期間が原則48時間以内だった診療所で、長期療養が可能となったことは大きな政策転換といえる。さらに、医療法人の附帯業務が拡大され、ホームヘルプ事業やデイサービス、ショートステイ事業がつけ加えられるとともに、特別医療法人には、厳しい条件付きながらも収益事業が認められた。これらは、2000(平成12)年から始まる介護保険制度のニーズへの対応に向けた基盤整備の施策だったといえよう。
 第三次改正
1998年
(平成10年)
  • 診療所への療養型病床群の設置
  • 地域医療支援病院制度の創設
  • 医療法人の業務範囲の拡大
 第四次改正
2001年
(平成13年)
  • 療養病床、一般病床の創設
  • 病院における人配置及び構造設備基準を設定
  • 「初期臨床研修」の必修化
  • 医療における広告規制の緩和
 第四次改正は病院にとってインパクトのある改正となった。それまで混在していた急性期と慢性期の区分を明確にするため、従来の「その他の病床」を『一般病床』と『療養病床』に分けるとともに、これに合わせた人員配置及び構造設備基準が設けられ、病院開設者は2年半のうちにそのいずれかを選択し、都道府県知事に届け出なければならなくなった。また、医師の臨床研修については、それまで事実上「努力義務」扱いだったが、卒後、2年以上の臨床研修を義務付ける「初期臨床研修」が制度化された。同時に、研修先の病院を自由に選べるようになったが、これを機に若い医師が都心部に集中するようになり、地方の医師不足が指摘されるようになる。一方、広告規制の緩和に関しては、それまでも広告可能な標榜科目の追加等が進められてきたが、今改正では、医師の略歴や年齢、治験に関する事項、窓口負担金の支払い方法、紹介できる介護サービス事業者、健康診断の実施など多くの項目が広告可能となり、患者が主体的に医療機関を選択できるよう大幅な規制緩和が実施された。
 第五次改正
2007年
(平成19年)
  • 4疾病5事業の具体的な医療連携体制を位置付けることによる医療計画制度の見直し
  • 地域医療対策協議会の創設
  • 医療に関する情報提供の推進
    (医療機能情報提供制度の創設)
  • 有床診療所に対する規制の見直し
  • 「社会医療法人」の創設
 第五次改正では、医療連携の推進と地域完結型医療の実現を目指し、様々な施策の制度化と医療計画制度の見直しが実施された。まず一つは、切れ目のない医療機能の分化・連携を推進しするため、脳卒中・がん・小児救急医療等事業別の具体的な医療連携体制を構築する「4疾病5事業」への取り組みが医療計画に組み込まれ、医療機関には、退院時における療養計画書の作成等を努力義務化し、退院後の保健・福祉サービス等との連携など在宅医療を強化するための施策が実施された。また地域や診療科による医師不足に関しては、都道府県の「地域医療対策協議会」が制度化され、より実効性のある協議を行う仕組みが創設されるとともに、へき地医療、小児救急医療等公益性の高い医療を担うべき新たな医療法人類型「社会医療法人」が創設されたのも大きな特徴だろう。
 第六次改正
2014年
(平成26年)
  • 地域医療構想の策定
  • 病床機能報告制度の創設
  • 医療事故に係る調査の仕組み等の整備
  • 医療法人制度の見直し
  • 医療機関における勤務環境の改善
 第六次改正の目玉は、2011年に「社会保障・税一体改革」の方向性が示され、その後、「社会保障制度改革国民会議」によって具体的な構想が打ち出された「地域医療構想」の策定が掲げられたことであろう。国は、二次医療圏における医療機能の需給予測を算出し、地域の実情に沿った医療提供体制を実現させるため、医療機関に対して病床機能の報告を義務付ける「病床機能報告制度」を設け、都道府県には、それらの情報をもとに当該医療圏の医療提供体制を検討することを定めた。また、長時間労働や当直など厳しい勤務環境による医療スタッフの離職を防ぐため、環境改善を支援するガイドラインを策定、各都道府県に支援センターを設置した。なお、第六次改正は介護保険法の改正と一本化で行われ、地域における医療及び介護の総合的な確保を図った。
 第七次改正
2016年
(平成28年)
  • 「地域医療連携推進法人制度」創設
  • 医療法人制度の見直し(医療法人の経営の透明性の確保及びガバナンス の強化)
 第七次改正では、医療機関同士の機能の分担及び業務の連携を推進するために、新たな医療法人として「地域医療連携推進法人」が創設される。地域医療連携推進法人とは複数の病院や診療所などの参加法人(非営利法人に限る)が参画し、統一的に地域医療を推進する法人である。病院、診療所などをグループ化することで、一体的な経営を行い、地域包括ケアの充実及び推進することを目的としている。
 第八次改正
2018年
(平成30年)
  • 特定機能病院におけるガバナンス体制の強化
  • ホームページ等における医療広告制度の見直し
 第八次改正においては医療に対する安全性の確保が図られた。複数の特定機能病院において、重大な医療事故が発生し医療安全に関する病院のガバナンス不足が指摘されたため、特定機能病院における組織運用体制及び安全管理体制の見直しが行われた。また、医療機関のウェブサイトの規制強化が行われ、虚偽・誇大な広告により、国民の医療への信頼・安全性が損なわれないように、この様な広告に対しての是正命令、罰則付与などの規制を設けた。

○国の医療政策や財政状況に影響を受ける診療報酬改定率

 診療報酬は2年毎に、中央社会保険医療協議会(中医協)の議論を踏まえて改定されるが、その内容や改定率は、時の政権による医療政策の方針や政府予算編成の影響を受ける。特に平成では、2001(平成13)年より小泉内閣が強力な医療費抑制政策と医療分野への市場原理導入を推し進めた結果、診療報酬本体は国民皆保険制度が始まって以来、初めてのマイナスに転じ、2006(平成18)までの間、診療報酬全体が大きく落ち込んだ。2010(平成22)年には、ネット改定率が10年ぶりにプラスとなるが、平成初期に比べると診療報酬の改定率は全体的に下がっており、現在の医療界が厳しい状況に置かれていることが分かる。
 

医療情報室の目

 ★まだまだ医療界の課題は山積み
 

 医療・介護の分野からみると「平成」という時代は、「超高齢化」という大きな課題を突き付けられ、それまでの制度の転換と実効性のある施策の整備に追われた時代だったといえる。昭和の終盤に実施された医療法第一次改正では、地域医療構想の礎になる「医療計画制度」が導入され、以降、医療機能の分化や地域偏在の解消に向けた様々な施策が進められてきたが、上述したように、2014年の第六次改正において、医療計画の中に「地域医療構想」と「病床機能報告制度」の策定が明記され、各都道府県の協議の場である「地域医療対策協議会」と、二次医療圏単位での検討を行う「地域医療構想調整会議」において、地域における効率的な医療提供体制の実現に向けた検討が進められ、同時に、その受け皿として多職種が連携する「地域包括ケアシステム」の整備も各地域で着々と進められてきた。
 一方、現在、医療界では「地域医療構想」、「医師の偏在」、「医師の働き方改革」が大きな課題となっており、厚生労働省は「三位一体」の問題として対策を進めようとしているが、この3つの課題はそれぞれ、医療圏単位の病床調整、外来(診療所)も含む医師の偏在、各医療機関での必要医師数や労働量、と解決すべき対象や論点が異なっており、一律に片付けられる問題ではないといえる。とはいえ、これらの課題が解決されなければ、「地域包括ケアシステム」の完成にも影響が及ぶことは間違いないだろう。
 今後も、医師会、行政が一体となってこれらの問題に対応していかなければならないが、地域の実情に応じた問題の是正を進めていくための役割を担えるのは、地域医師会とそれぞれの医療機関であり、地域からのボトムアップによる医療政策への提言が今まさに必要とされているのではないだろうか。
 2019年は「平成」から「令和」へと一つの大きな時代の区切りを迎えたが、超高齢社会への対応については、これからが大詰めといえそうだ。

編集  福岡市医師会:担当理事 庄司 哲也(情報企画担当)・清松 由美(広報担当)・松浦 弘(地域医療担当)
 ※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。
(事務局担当 情報企画課 石橋)
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