医療情報室レポート
No.231

2019年5月31日発行
福岡市医師会医療情報室
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特 集 : 外 国 人 労 働 者 受 け 入 れ で
        介 護 の 現 場 は ど う 変 わ る か

 
 急激な少子高齢化が進む我が国において労働力人口の減少は深刻な問題であり、なかでも介護人材の不足は大きな課題の一つである。厚生労働省の推計によると、団塊の世代(ベビーブーム世代)が後期高齢者に達する2025(令和7)年には介護人材の需要が253万人に達し、現状のままだと約37万人が不足するとされている。このような人材不足を背景に、国は新たな在留資格を創設し、外国人労働者の受け入れを拡大する「改正出入国管理法」を2019(平成31)年4月1日より施行した。今後5年間で14業種において最大約34万人の受け入れを見込み、介護分野については最多の6万人の雇用を想定している。
 今回の医療情報室レポートでは、介護現場に外国人労働者の受け入れが進むことで、どのような影響が出るのか考えてみたい。

●介護施設の外国人労働者雇用の現状

  
 (公財)介護労働安定センターが2017(平成29)年度に17,638事業所を対象とした調査によると、外国人労働者を雇用している事業所や採用に前向きな介護事業所の数は非常に少ない。
 なお、受け入れている外国人労働者の国籍の内訳は多い順から「フィリピン」、「中国」、「ベトナム」とアジア圏の国々が中心となっている。
 「外国人労働者を受け入れている施設」 「外国人労働者の国籍内訳」
   「(公財)介護労働安定センター 平成29年度介護労働実態調査の結果より」

●「改正出入国管理法」で外国人労働者受け入れの仕組みはどう変わるのか?

○「特定技能」が加わり、受け入れの仕組みが4つに
 永住権等を持たない外国人が、日本で就労するにあたっては何らかの在留資格を得る必要があるが、介護分野では従来から在留資格「介護」、EPA(経済連携協定)、技能実習制度の3種類の制度が存在している。そして今回、出入国管理法が改正され新たな在留資格である「特定技能1号・2号」が加わり、専門的・技術的な分野に関する資格等を持っていない外国人の雇用拡大が可能となったが、介護分野については、当面「特定技能1号」のみが適用されることとなり、「特定技能2号」については数年導入が見送られるとされている。

○新たな在留資格「特定技能1号」で可能なこと

 従事する業務内容:身体介護等(利用者の心身の状況に応じた入浴、食事、排泄の介助等)の他、これに付随する支援業務(レクリエー (介護分野において) ションの実施、機能訓練の補助等)※訪問介護系サービスは対象外
  
・介護福祉士の資格がなくても就労による滞在が可能
 従来、就労目的で在留資格を持つ者はその職業に関する資格を持つなど専門的・技術的分野に関する労働者のみに認められるため、日本での長期の就労はハードルが高かった。しかし、特定技能では介護福祉士の資格がなくても介護の現場での就労が可能となっている。

・就労と同時に施設の人員配置基準として算定可能
 技能実習制度等で来日した外国人は、日本語能力試験で高い語学水準をクリアした場合を除き、働き始めてから6カ月間は介護施設の人員配置基準の対象にならない。これに対し、新在留資格「特定技能1号」で働く外国人介護職員については就労時から算定する方針としている。ただし、介護の安全性確保を徹底するため一定期間(6カ月間を想定)、日本人職員とチームで介護に当たることを求めている。
従来からの介護分野の外国人就労にかかる制度等 
在留資格「介護」 EPA
(経済連携協定
技能実習制度
2017年度に導入

介護福祉士の資格を持 っていること

日本語能力試験で「N2(広い場面である程度の理解ができる)」以上の資格を持っていること
2008年度に導入

介護福祉士候補者として就労

4年の間(要件を満たせば5年目まで可能)に介護福祉士資格を取得しなければ継続して就労ができない

日本語での試験はハードルが高く本制度による外国人の介護人材は5千人未満
技能資格を持っている必要はないが、日本語能力試験で5段階レベルの「N4」を取得している必要がある

実習2年目でワンランク上の「N3」が取得できない場合、帰国しなければならない
   国家試験の合格や高い日本語能力が求められる→帰国者が増加

新たな在留資格「特定技能1号・2号」の創設(2019年度〜)
特定技能1号 特定技能2号
介護や建設など14業種が対象

相当程度の知識・経験があり、日本語がある程度話せること

在留期間は最長5年
熟練した技能を持っていること
 (現時点では、介護分野では適用されない)

○海外の高齢化・介護について


世界の高齢化率の推移 
 世界の高齢化率の推移(右図)を見ても分かるとおり、諸外国の殆どが高齢化に向かっている。欧米圏ではドイツ(高齢化率21.1%)、アジア圏では韓国(高齢化率13.0%)などをはじめ、その他の国々も今後、急激な高齢化を迎えるとみられており、各国で介護人材の需要が高まることから互いの国々に影響を与える可能性がある。
 ここでは、このドイツ、韓国の2国について、介護をめぐる現状や施策について触れてみたい。

【 ド イ ツ 】
 2019(平成31)年1月に介護職員の人員配置や教育の支援、賃金引上げ等を行う「看護介護人材強化法」が施行。介護職員の増員を図る。また、外国人労働者の受け入れも積極的に行っており、介護分野における割合は11%となっている。また近年、ヨーロッパ各国での高齢化が進んでいるためアジアへも外国人労働者の募集を積極的に行っている。例えば、供給過剰で失業率が高いフィリピン等の国々の看護師を、ドイツの介護分野に受け入れる「トリプル・ウィン・プロジェクト」(ドイツ、外国人、人材を送り出す国の三者にとって利益となることを意味する)という二国間協定を実施している。これは、母国で看護師や介護士の資格がある外国人がドイツで介護職員として働きながら、専門職である「高齢者介護士」を目指す仕組みであり、教育費用などは主に雇い主が負担することとなっている。
  
 【 韓 国 】
 元々、儒教文化が色濃く残る韓国では、親の面倒は子が見るものという考え方が強いが、核家族化、女性の社会進出が進み、家族による介護が困難な状態となり、2008(平成20)年から、介護保険制度(老人長期療養保険制度)が開始しており、今後、高齢化が進むにつれ介護サービスの需要が高まると考えられる。また、韓国も外国人労働者の受け入れを行っており、ベトナム、フィリピンなど16カ国と二国間協定を締結し、サービス業(介護を含む)等の5業種を対象に国内で人材確保ができない企業に対し政府が外国人労働者の雇用を許可している。

●外国人労働者が介護現場にもたらす影響・課題

・特定技能外国人の支援
 特定技能外国人を受け入れる企業・事業所は、外国人労働者に対して各種の支援を行う入管法上の義務を負うこととなる。義務として課される支援としては、「住居の確保・生活に必要な契約に係る支援」、「日本語学習の機会の提供」といったものがあり、そのための人員や経費がかかり、日本人職員の雇い入れに比べてコストがかかる。 
・言語の違いによる弊害
 厳密な健康チェックが要求される介護現場においては、日本語での介護記録が必要となるが、利用者の健康状態等を分かりやすく日本語で記録を取ることは外国人労働者にとって非常にハードルが高いといえる。また、利用者とのコミュニケーションに関しても利用者は多くが高齢者であり、理解力の低下、外国人が学んでこなかった方言や昔の言い回しなど不慣れな日本語が理解できないことも想定される。うまく理解できないことや伝えられないことがあれば、利用者の健康や身体を危険にさらす可能生もあり、綿密なサポートが必要になると考えられる。

医療情報室の目

 ★介護職の環境改善により人手不足の解消を
 

 新たな在留資格「特定技能」が設けられたが、介護分野においては従来の制度を利用した外国人労働者の雇い入れは進んでおらず、外国人を受け入れる体制が整っている介護事業所は少ない。各事業所が外国人の雇い入れを進めるにあたっては、外国人労働者への研修や支援にかかる新たなコストや労力が発生するなど、介護事業所にとっての負担があるだろう。そもそも近い将来には、アジア圏でも、少子高齢化が進むことが予測されており、日本での就労率の高いアジア圏の外国人が減っていくのではないだろうか。さらに、介護人材不足が深刻なドイツでは従来、周辺諸国から人材を確保してきたが近年ヨーロッパでも高齢化が進んでいるためアジアからの人材獲得へシフトしつつあり、人材確保の競争が激化する可能性もある。これに加えて、介護職員及び介護分野が含まれる「医療・福祉」における一般労働者の賃金水準は全産業平均を下回っている。「特定技能」では日本人と同等の給与水準を外国人労働者に適用することになっているが、介護職全体の待遇を改善していかなければ、日本人の労働者はもちろん外国人にも長く安心して働いてもらうことはできないだろう。そもそも今回創設された「特定技能1号」では外国人労働者の業務は訪問介護系サービスは対象外となっており、現時点では在宅の柱となる「地域包括ケアシステム」に関与することはできない。このままでは、更なる介護離職の増加等により日本の経済成長にブレーキがかかることも危惧されるため、国は、介護職の雇用環境の改善とそれを裏付ける財政支援の整備を急ぐべきではないだろうか。地域包括ケアシステムの整備はまさに目前に迫っているが、今後、介護・医療の現場でも人手不足解消のため、ICT、AI、IoTの利用が急速に進むと思われ、在宅療養においてもコンパクトシティ化、集住化を行うなど限られた労働力を効率的に運用することでこの困難を乗り越えていくことも考えるべきである。


編集  福岡市医師会:担当理事 庄司 哲也(情報企画担当)・清松 由美(広報担当)・松浦 弘(地域医療担当)
 ※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。
(事務局担当 情報企画課 石橋)
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