近年、日本を観光などで訪れる外国人旅行者の数は増え続け、今年は3000万人を突破すると見込まれているが、国は観光先進国の実現に向けて、2030年までに年間6000万人の外国人旅行者を呼び込む目標を掲げている。また政府は、少子高齢化や深刻な人手不足を背景に外国人労働者の受け入れ拡大に向けた動きを見せており、今後、日本国内における外国人の数はますます増えるものと予想される。
しかし一方では、昨今、外国人による公的医療保険の不正利用等が疑われる問題が表面化しているほか、医療現場においては、外国人患者との言語コミュニケーションや医療費に関するトラブルが顕在化しており、国や日本医師会は、複数の外国人観光客等に対する医療プロジェクトチームや検討会を立ち上げ対策を急いでいる。
今回の医療情報室レポートでは、厚生労働省の調査結果等をもとに外国人医療の諸問題を整理し、医療現場における対応の現状や国の動向などを確認してみたい。
政府の健康・医療戦略推進本部「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に関するワーキンググループ」は、今年6月に総合対策を策定し、入国前、入国時、日本滞在時に分けたそれぞれの段階における具体的取り組みを示している。日本滞在時の取り組みについては、医療現場での適切な対応に向けた具体的取り組みが記されているが(右表)、特に殆どの医療機関において外国人医療に係るマニュアル等が整備されてないことから、今年度中に医療機関向けマニュアルが作成されることとなっている。 |
・医療機関マニュアルの整備
・訪日外国人に対する保険加入の勧奨促進
・医療機関のキャッシュレス化の推進
・医療コーディネーターの養成
・外国人患者への「応召義務」の考え方の整理
・医療費の不払い歴がある人物の入国審査の厳格化
・行政、医療機関、消防、旅行業者、宿泊業者等が連携
する地域「対策協議会」の設置 |
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医療情報室の目
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日本の医療への信頼を損なわないような制度の実現を
近年、訪日外国人の増加に伴い医療機関を受診する外国人は増えており、受け入れの課題は、特定の地域の医療機関に限った話ではなくなりつつある。
外国人医療で最も大きな障壁は、言語の違いによる意思疎通の問題とされるが、そこには文化や思想、母国と日本の医療制度の違いなど様々な要因が複雑に絡み合っている。突如、医療機関を訪れた外国人患者に、初診受付から問診票の記入方法、外国語での診断書の発行、会計、薬局の案内といった一連の対応について、誤解やトラブルが生じないよう終始させるためには、通常の数倍の時間と労力を要することは言うまでもない。医療通訳の利用も一つの策ではあるが、そもそも外国人が少ない地域では、通訳者の人員や質の担保が課題であるし、そのための予算や体制を確保していない医療機関がほとんどであろう。
未収金の問題に関しては、医療費の事前支払いやクレジットカード払いのシステム導入等が一定の効果を上げるとされているが、クレジットカード決済手数料負担の問題がある。また、「応召義務」は外国人患者にも適用されるため、医療費が用意できないと言われたとしても、診療を求められれば医師としてはこれを拒むことはできない。
いずれにしても、これらの問題は個々の医療機関や地域での対応には限界があり、国を挙げた体制づくりが不可欠であるといえよう。
外国人医療の問題は、医療側だけではなく、医療を必要とする外国人当事者にも大きな不利益をもたらしかねない。国は、地域や経済の活性化に向けてさらなる外国人観光客の増加や外国人労働者の受け入れ拡大を目指すという以上は、日本の医療への信頼が損なわれないよう、十分な財源の確保と制度の実現を図ってもらいたい。
編集 福岡市医師会:担当理事 庄司 哲也(情報企画担当)・清松 由美(広報担当)・松浦 弘(地域医療担当)
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(事務局担当 情報企画課 大西)