厚生労働省の「平成28年医師・歯科医師・薬剤師調査」によれば、診療所医師の平均年齢は59.6歳と病院医師より13歳も高く、また年齢構成についても60歳以上が半数近くを占めるなど、診療所医師の高齢化が顕著に進んでいることがわかる(平成28年12月現在)。 さらに、高齢化とともに診療所の休廃院も増えており、帝国データバンクが2015年に公表した「医療機関の休廃業・解散動向調査」では、2007年から2014年にかけて休廃院・解散した診療所の数が急増している。 これらのデータから、既に多くの診療所医師が医業の承継問題に直面していることが読み取れる。 |
医業承継では、相続税や贈与税といった税制上のリスクがある。特に、「出資持ち分あり医療法人」については、長年の経営により剰余金が積み上がり、相続時の評価額が高くなりやすいという性質があるため、適切な税制対策が講じられていない場合、後継者が多額の相続税を請求される可能性もある。 また、現在、「社団医療法人」には、「持ち分あり」と「持ち分なし」の2つの形態があり、ほぼ8割が「持ち分あり」医療法人である。しかしこの「持ち分あり」医療法人は、医療法人の非営利性を徹底するという国の施策に加え、先述したような、巨額な相続・贈与税が生じるリスクに加え、出資持ち分の払い戻し請求のリスクを孕んでいることから、医療法の改正を通じて、2007年度(平成19)以降は新設ができなくなった。なお、国はこの時点で、既存の持ち分あり医療法人を「経過措置型医療法人」として当分の間存続を認めることとし、持ち分なしへの自主的な移行を促すこととした。 |
先述のとおり、国は「持ち分あり」から「持ち分なし」への自主的な移行を促したものの、「持ち分なし」への転換は一向に進まなかった。その理由としては、持ち分なし医療法人への移行時に、「持ち分」の放棄に対して法人に贈与税が発生していたためである。そこで国は、2014年(平成26)10月1日に贈与税の納税を猶予する「認定医療法人制度」を創設し3年間の有期制度を実施したが、それでも移行が進まなかったため、「同族役員の制限等の要件」を緩和し、認定医療法人制度の期限をさらに3年間延長した。 |
少し古いデータではあるが、日本医師会が2012年(平成24)に実施した「医療法人の現状と課題に関するアンケート調査」によれば、 705法人中647法人(92%)が持ち分なし医療法人の「移行意思なし」と回答しており、その主な理由として、「出資持ち分はオーナーシップの源泉であり、放棄できない」、「相続税を支払っても、医療法人を子孫に承継させたい」と答えている。 なお、日本医師会の医業税制検討委員会が今年5月に出した答申の中で、持ち分あり医療法人に対する国の考え方や制度上の取り扱いに不合理性があるとして、以下のような指摘・提言を挙げている。 ・持ち分なし移行時の税制改正について 認定医療法人制度については、適用期間が3年間追加延長されたものの、2020年(平成32)9月30日までの有期措置であるため、持ち分なしに移行する医療法人は限定的であると考えられる。また持ち分なし医療法人への移行後は、6年間は制度で定められた運営要件を維持しなければならないとなっているが、6年が経過した後の課税問題も明確ではない。また、持分を回収する方法で持分なし医療法人に移行する場合には、当該持分を基金へ振り替えたときには、当該基金部分についてみなし配当課税が生じない措置を設けるべき。 ・持ち分あり医療法人と営利法人の間の課税上の不合理性 持ち分あり医療法人は、課税については営利法人と同等とみなされているにもかかわらず、事業承継時の税制においては株式会社等と差別化されている。例えば、中小企業には、後継者に事業を引き継ぐ際に相続税や贈与税が免除される制度(事業承継税制)があるが、持ち分あり医療法人(経過措置型医療法人)にはこのような優遇制度がなく、課税上のバランスを欠いた不合理性が存在している。 |
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・「財産評価基本通達」における出資持ち分の評価の見直しについて 持分あり医療法人は、2007年(平成19)に新規設立が認められなくなり、以降、「経過措置型医療法人」として暫定的な位置づけとなっている。しかし、国税庁の「財産評価基本通達」※では、持分あり医療法人はその永続性を前提として、他の会社の株式と同様に持分の価額が評価されている。持分あり医療法人が、現状のように「経過措置型医療法人」となり、その永続性が将来にわたって否認されるというのであれば、「財産評価基本通達」の根拠が失われることになる。したがって、持分あり医療法人の価額評価については、現状の基準より、せめて2、3 割の評価減を行うような通達レベルの措置が早急に講じられるべきである。 |
医療情報室の目
★資産の把握と周到な承継対策が、後継者を守る
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