医療情報室レポート
No.223

2018年3月23日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集:診療報酬・介護報酬同時改定のポイント

  いよいよ新年度から、新たな診療報酬改定・介護報酬改定がスタートする。
今回の診療報酬改定率は、全体では1.19%引き下げられたものの、医師の技術料などに当たる「医療本体」の部分については0.55%のプラス改定、また、介護報酬も0.54%のプラス改定とされるなど、一定の評価が得られた改定率となった。また、改定項目に関しては、団塊の世代が後期高齢者となる2025年を見据え、在宅への移行をより鮮明に打ち出した内容となっており、入院料全般に亘る大胆な評価体系の見直しや、かかりつけ医機能の強化、更には目新しい項目として、オンライン診療料の新設など、多岐に亘る改定項目が盛り込まれている。
 今回の医療情報室レポートでは、2018診療報酬・介護報酬改定の大きなテーマである「地域包括ケアシステム」の構築や医療機能の分化、連携の推進に焦点を当て、改定のポイントを確認するとともに、今後、大きく変わる医療・介護提供体制の中で、それぞれの医療機関や介護事業者がどのような役割を担っていくべきなのか考えてみたい。

●かかりつけ医機能の強化と医療機能の分化

○外来・在宅医療で、かかりつけ医機能を強化
 
今改定の柱の一つである、かかりつけ医機能の強化に関しては、在宅医療の推進をより確実なものとするため、地域包括診療加算等における24時間対応や医師配置基準の要件が緩和されるとともに、これらのかかりつけ医機能に係る診療報酬を届け出ている医療機関については、初診時における評価として「機能強化加算(80点)」が新設された。
 また、在宅医療のニーズ増加に対応するための量的整備も図られる。まず、在宅時医学総合管理料・施設入居時等医学総合管理料については、より多くの患者への診療を促すため、「月1回訪問」の点数を引き上げる一方で、「月2回以上訪問」の評価は一律100点引き下げられた。さらに、在宅療養支援診療所(以下、在支診)を届け出ていない診療所にも在宅医療への参入を促す措置として、「継続診療加算(216点)」等の新しい加算が新設された。(右図参照)

○入院医療は大胆な見直し、新たな評価体系に
 
入院医療に関しては、将来の入院医療ニーズの変化に弾力的に対応可能とするため、看護配置要件等の基本部分に、診療実績に応じた段階的な評価体系が加わることとなり、さらに、評価区分については、急性期から慢性期までの3つの機能に大別(下表)されるなど、大幅な見直しが行われた。
 
 
  特に、一般病棟入院基本料の「7対1」と「10対1」は、これまで報酬上のギャップが課題となっていたため、新たに「急性期一般入院基本料(入院料1〜7)」として点数の格差を緩和する一方で、最も点数の高い入院料1の看護必要度等を引き上げるなど、「7対1」からの退出をこれまで以上に促す内容となっている。

○「地域包括ケア病棟」への期待と自宅等への退院推進
 
 回復期から慢性期を担う地域包括ケア病棟や療養病棟についても、それぞれの機能・役割がこれまで以上に明確にされ、自宅等からの受け入れや在宅復帰を推進するための見直しが行われた。
 例えば、地域包括ケア病棟においては、200床未満の中小病院に絞った入院料の導入や、認知症患者の増加に対応するための夜間看護配置加算(55点)が新設される一方、退院時の評価から、療養病棟や老健施設が外されることとなった。
 また、療養病棟では、急性期と同じく、入院料が基本部分と実績部分を組み合わせた新たな評価体系となり、基本部分の看護配置要件が「20対1以上」に一本化されるとともに、夜間看護加算(35点)の新設や、在宅復帰機能強化加算、事務作業補助者加算などが引き上げられた。
 
 
○遠隔診療の評価の拡充

 今改定での目新しい項目としては、「オンライン診療料(70点/月)」が新設された。対面診療が原則の上、有効性や安全性等への配慮を含む一定の要件を満たせば算定できる。ただし、特定疾患療養管理料や地域包括診療料などを算定し、初診から6ヵ月以上経過した患者が対象となっており、3ヵ月に1回は対面診療を行うことなど、かなり限定的な要件が設定されている。この他、対面診療とオンライン診療を組み合わせた療養計画を評価した「オンライン医学管理料(100点/月)」など、オンライン関係の項目が複数新設されているが、いずれも算定要件のハードルはかなり高いため、現時点では、一気に普及は進まないと考えられる。
 
○国民の希望に応じた看取りの推進

 今改定での基本方針では、具体的方向性の一つに「国民の希望に応じた看取りの推進」が盛り込まれた。訪問診療や訪問看護のターミナルケアにかかる評価について、厚生労働省の「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」などを踏まえた対応を要件化し、評価が拡充された。同ガイドラインは、人生の最終段階を迎えた患者や家族と、医師をはじめとする医療従事者が、患者にとって最善の医療とケアを作り上げるための流れを示すもので、患者の意思決定を尊重することを重要視している。(右図参照)
 

●2018介護報酬改定の概要

  2018年度の介護報酬改定は、診療報酬との整合性を図りながら、看取りや自立支援・重度化防止を軸として、多くのサービスで医療や看護、リハビリの視点が強化され、また、医療・介護の複合ニーズに対応するサービスとして介護医療院が創設されたことなどが特徴である。サービス種別ごとにメリハリのある内容となっており、医療と介護の連携がより一層推進されることが期待される。ここでは、サービス種別ごとの主な改定内容をまとめてみた。
 主なサービス 主な改定内容 
 通所系 【通所リハビリ】
・4時間以上のサービス提供時間区分を2時間単位から1時間単位に見直し、おおむね基本報酬引き下げ
・リハビリテーションマネジメント加算は、「医師の詳細な指示」を要件とした上で、2区分から4区分に再編
【通所介護】
・サービス提供時間区分を2時間単位から1時間単位に見直し、大規模型事業所は基本報酬引き下げ
・アウトカム評価を導入、ADL維持等加算が新設
 訪問系 【訪問看護】
・要支援者と要介護者で異なる基本報酬が設定。理学療法士等の訪問は、基本報酬引き下げ
・ターミナルケア加算算定者が年5名以上の訪問看護事業所は、「看護体制強化加算」が2倍に
【訪問介護】
・基本報酬は、生活援助が微減、身体介護は引き上げ
 施設系 【特別養護老人ホーム】
・基本報酬を引き上げるとともに、入所者の看取り対応や、たんの吸引などのケアに対する評価を新設
【介護医療院】
・介護療養病床の転換先として同病床強化型相当の「T型」と介護老健施設相当の「U型」が新設、住まいの機能を持つことから居住系 介護施設(自宅等)とみなされ、在宅復帰の受入先としても期待
・同病床に比べ基本報酬は一律25単位引き上げ、届出日から1年限定で「移行定着支援加算93単位/日」も新設(2021年3月31日迄)
  地域密着型 【認知症対応型共同生活介護】
・基本報酬は据え置き、看護職員を常勤換算1人以上配置した場合等の「医療連携加算」の拡充や、入院後3ヵ月以内の早期退院時の受入体制を評価(246単位/日)
  居宅介護支援 ・基本報酬は、1.0〜2.8%引き上げ
・ターミナル期に頻回にわたり利用者の状態変化の把握等を評価する「ターミナルケアマネジメント加算」(400単位/月)の新設
・退院・退所時のケアプランの初回作成を評価

医療情報室の目

★「2025年改革」の成功には、医療提供側と国民の一体となった取り組みが不可欠である。
 

 2018診療報酬改定は、前回、前々回の改定と同様、在宅医療・介護への移行促進と、地域包括ケアシステムの完成を大きなテーマに進められたものだといえるが、今回は、入院医療の評価体系の大胆な見直しや24時間対応の要件緩和と連携の強化、更には、紹介状無し定額負担の対象病院の拡大など、これまでの流れを、より確実なものとするための実効性のある項目が並べられた。これにより、医療提供体制の機能分化が進むとともに、在宅医の大きな課題となっている24時間対応の負担が軽減され、今後、かかりつけ医の担い手が増えることなどが期待されるが、これらの施策が成功に導かれるためには、医療提供側の努力はもちろん、医療を受ける側の国民一人ひとりが、我が国が誇る国民皆保険制度の大切さやかかりつけ医制度の必要性について、改めて、強い認識を持っていただく必要があると考える。
 いずれにしても、日本が他国に類例のないレベルで少子高齢化が進んでいることは間違いのない事実である。私たちはその危機的状況を理解し、一体となって「2025年改革」に向けた取り組みに協力していかなければならない。

編 集  福岡市医師会:担当理事 庄司 哲也(情報企画担当)・岡本 育(広報担当)・一宮 仁(地域医療担当)
 ※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))
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