厚生労働省は、医療等分野のICT化推進に向けて、2016年度に7億円だった予算を大幅に引き上げ、2017年度は250億円を計上するとともに、医療情報データベースの基盤整備や医療情報ネットワークの広域化、医療保険のオンライン資格確認、医療等IDの制度確立等について具体的な取り組みを掲げている。 紙面の関係上、ここでは、いくつかの項目のみを取り上げることとし、今後の課題や見通しなどについて考えてみたい。 |
|
T.医療等分野におけるICT化の推進 ○医療データの完全デジタル化には、中小医療機関の電子カルテ普及が課題 医療データのデジタル化については、電子カルテ等のデータ化が大前提となるため、厚労省は取り組みの中で、400床以上病院への電子カルテの普及率について、2020年度迄に90%以上を目指すとしている。しかし、電子カルテの普及率が3割程度とされる診療所や中小病院に対しては、普及拡大に向けた目標値や方策は示されていない。最近は、導入・運用コストが安価なクラウド型電子カルテが広がりつつあるといわれているが、医療データの完全デジタル化には、中小医療機関に向けた電子カルテ導入によるインセンティブを付与し普及拡大を図るなど、実質的な方策を考えていく必要があるのではないだろうか。 ○病歴等を含む個人情報の取扱い −「認定事業者」の創設− 医療ビッグデータの利活用をめぐっては、医療機関等が保有する個人情報を収集し、匿名化するための枠組みや規制などを定めた「次世代医療基盤法」が今年4月に閣議決定された。これは、今年5月30日に施行される改正個人情報保護法にて、病歴等を含む個人情報が「要配慮個人情報」と定められること等を受けたもので、今後、特別な安全基準を満たした「認定事業者」と呼ばれる機関がこれらの個人情報を匿名加工することで、本人から拒否がなければ、個人情報を提供できるという仕組みである。認定事業者の要件や匿名化の方法などは、今後の省令等で定められる予定とされている。 |
|
U.医療等分野のネットワークに関する取組 ○地域医療連携ネットワークの維持・定着には、運用コストの継続的な確保が課題 地域医療連携ネットワーク(NW)は、地域医療再生基金がスタートした2011年以降、全国に200以上立ち上がったとされる。また、最近では、これら地域医療連携NWの広域化に向けた動きが広がっており、総務省のクラウド型EHR(医療情報連携基盤)高度化事業(予算20億円)の実施や、厚生労働省による地域医療連携NW相互接続の研究事業など、全国規模のNWの整備が具体性を帯びてきている。しかし、既存の地域医療連携NWの多くは、機器の保守や更新といった運用コストの問題等により継続が困難になっているともみられており、NWの維持・定着に向けた利用者コストの負担の在り方なども、今後の大きな検討課題ではないだろうか。 |
|
V.ICT・AI等を活用した医療・介護のパラダイムシフト ○遠隔診療の位置付け −完全解禁を目指す政府、対面診療の原則を主張する日医− 遠隔診療については、平成27年8月の厚生労働省医政局長事務連絡にて、医師の判断で実施可能である旨明確化されたが、各地方厚生局・保健所により未だ適切な法解釈がなされていないとの指摘がある。このような状況を踏まえ、政府の規制改革推進会議は5月23日、遠隔診療の取扱いの明確化や2018年度診療報酬での評価拡充などを盛り込んだ第一次答申を安倍首相に提出した。答申では、遠隔診療の取扱いについて、離島・へき地に限定されず、初診時でも実施可能であることや、遠隔診療を実施する具体的症例として、禁煙外来や1回の診療で完結する疾病が想定されることなどを明確に周知するとしている。 なお、日医は、遠隔診療はあくまでも対面診療の補完であると主張し、エビデンスに基づいた議論を行うよう政府に要求している。 ○AI(人工知能)による診療支援 −最終的な責任は医師が負う− AI(人工知能)に関しては、様々な企業や研究機関において診療現場での活用が研究され、厚労省の取り組みの中でも、将来的にAIを診療支援やビッグデータの分析に活用することが想定されている。しかし、3月に開催された「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」では、AIを用いた診療支援の際の責任の所在に関し、AIの推測結果には誤りがあり得ることから、最終的な意思決定は医師が行い、その責任を負うべきとの見解が示されている。また、その前提として、医師に対するAI教育の必要性や、保健医療分野におけるAI開発への医師の関与の必要性が指摘されるなど、将来的な医療現場におけるAIの位置付け等について、一定の大きな方向性が示されたといえるのではないだろうか。 |
日本医師会は、高度なセキュリティを確保した公的広域ネットワーク「医療等分野専用ネットワーク」構想を打ち出している。 同ネットワークは、厳格な機関認証を受けた医療機関等や接続要件を満たしたAP(アプリケーション)事業者のみを接続可能とし、公益性を担保するだけでなく、全国の医療機関等をカバーする広域性を有するとともに、コスト効果に優れたネットワークとされている。 実現に向けては、最大60万もの医療機関や関係機関を結び、必要な機関に必要な情報のみを確実に流通させるよう厳格な機関認証を行う必要があることから、今後、様々な技術面・運用面での課題をクリアしていく必要がある。だが、このネットワークが現実のものとなれば、これまでにない医療等分野のナショナルネットワーク基盤として、医療情報の効率的な運用や、医療機関、患者の利便性をより高めることがきるものとして大きな期待が寄せられている。 今回は特別に、この医療等分野専用ネットワーク構想の中心的存在の一人でもある日本医師会総合政策研究機構の矢野一博氏より、右記のとおりコメントを頂いた。 |
|
医療等分野専用ネットワークのイメージと利用シーン例 | |
<利用シーン例> @地域医療連携ネットワーク間の相互接続 地域医療連携NW間を相互接続し、地域を跨いだ情報の連携を行う A医療等分野のサービス利用 許可された医療機関等が医療等分野の様々なサービスを共通利用する B用途別VPN構成 任意の医療機関間で用途別のVPNを構成し、拠点間・グループ間通信を行う |
医療情報室の目
|