医療情報室レポート
No.216

2017年3月31日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
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特集:療養病床の現状と将来

  長期療養を必要とする患者に提供される「療養病床」再編のリミットが、いよいよ2017年度末に迫っている。
 療養病床の再編をめぐっては、かつて、既存の介護療養病床および看護配置25対1の医療療養病床を2011年度末までに廃止し、新型老人保健施設に転換することが決められていたが、介護施設への転換を受け入れ難いとする現場の強い反発などがあったことから、6年間の経過措置が設けられ、廃止期限が2017年度末に延期された経緯がある。
 厚生労働省は、このような事態を繰り返さないよう、療養病床の在り方等をより丁寧に検討するための特別部会を設置し、昨年12月、療養病床転換後の選択肢である「新たな施設類型(以下、新類型)」を示した。
 具体的な介護報酬や施設基準等は来年2月頃に示されるものとみられているが、今回の医療情報室レポートでは、今回、取りまとめられた「新類型」の概要等を紹介し、療養病床を持つ医療機関の選択肢や地域医療への影響などを考えてみたい。

●療養病床再編をめぐる背景と歴史

療養病床再編の端緒は、2006年の小泉政権下に遡る。当時、国は社会的入院の解消と医療費の抑制を図るため、比較的医療の必要度が低いとされる介護療養病床を廃止し、新型老健(介護療養型老人保健施設)への転換を促す方針を打ち出した。しかし、新型老健の介護報酬に対する不満や、病院から施設への転換を受け入れ難いとする現場の強い反発などから移行は進まず、介護療養病床の廃止期限は6年間延長され2017年度末となった。
 
一方、医療療養病床については、本来、医療法施行規則で20対1の看護配置と定められているところを、25対1や30対1を認める経過措置が実施されてきたが、介護療養病床の廃止期限の延長に伴い、この経過措置も2017年度末まで延長されることとなった。
 このように、いずれの療養病床も転換までの期限が残り1年となっているが、厚労省は今回、これらの病床の転換が促されるようにするため、医療機関の中に「住まい」の機能を加えることのできる「新類型」を検討してきた。
 

●新類型 「介護医療院」 とは?

  昨年12月、厚生労働省の特別部会は、「医療内包型」と「医療外付け型」と呼ばれる2つの新類型を公表した。まず「医療内包型」は、2つのパターンがあり、現在の介護療養病床に相当する施設基準で、医療の必要度が高い者を対象とするパターンT−(T)と、もう一つは、老健施設並の施設基準で、比較的容体が安定している者を対象とするパターンT−(U)がある。ちなみに、この「医療内包型」に関しては、施設に転換しても病院の名称が利用しやすいよう配慮し、「介護医療院」という名称が付される予定である。
 もう一つのパターンUは、居住スペースと医療機関を併設する「医療外付け型」と呼ばれるモデルで、併設する病院や診療所からのオンコール体制による看取りやターミナルケアを行う点などが「医療内包型」との相違点となっている。なお、新類型の介護報酬や人員・設備・運営基準などについては、今後の介護給付費分科会等で詰めの議論が行われ来年2月頃に決定される見通しである。
 

 

●どうなる? 「介護療養」と「25対1医療療養」の今後の選択肢

 「介護医療院」への転換のポイント

○介護医療院への移行準備期間は「6年間」。一般病床からの新設も。

 新たな介護保険施設となる「介護医療院」への転換のための準備期間は、2024年度の同時改定との整合性なども踏まえ6年間とされた。すなわち、現行の介護療養病床は、経過措置が事実上、再延長される形になったといえる。
 また、準備期間の最初の3年間は、既存の療養病床や老健施設からの転換を優先することとしているが、その後は、新設や一般病床からの転換も可能になるとみられている。

○大規模改修までは6.4uでも可能。「補足給付」の対象にも。

 介護医療院での床面積要件は「8.0u」とされているが、病院から施設への転換を促すため、病床転換助成事業の対象とするほか、大規模改修までの間は、現行の6.4u多床室でも可能とする緩和措置が認められる予定である。また、低所得者を対象とする「補足給付(特定入所者介護サービス費)」の対象にもなる予定であるが、医療機関併設型である「医療外付け型」は、この補足給付の対象外となる見込みである。
 
 
「25対1医療療養病床」の今後

○25対1医療療養病床の経過措置も延長の方向性。ただし、今後は厳しい選択も。

 25対1医療療養病床(療養病棟入院基本料2)は、経過措置が終了した場合、20対1医療療養(療養病棟入院基本料1)を目指して、看護配置の見直しや「医療区分2・3の患者8割以上」の要件を満たす必要がある。しかし、25対1医療療養病床はもともと「医療区分1」の患者が多く、2016年度診療報酬改定で追加された施設基準「医療区分2・3の患者5割以上」の要件を満たせていない医療機関が約3割あるとみられており、現実的に、20対1へ移行することは厳しいだろう。ただし、今後、中医協での議論を踏まえて、25対1医療療養病床の経過措置も、介護療養病床と同様に6年間延長される可能性が大きいとみられている

●新類型「介護医療院」が地域に与える影響

○地域医療(地域包括ケアシステム)への影響は…

 今回示された、新類型「介護医療院」の形態は、医療機関に「住まい」の機能を加えるという新しいものである。すなわち、病院という一つの建物の中で、医療・介護・住まいといった3つのニーズを同時提供することが可能となり、大きな受け皿の一つにはなり得るだろう。しかし、将来、一般病床等の一部を介護医療院に移行出来るようになった場合、医療から介護に関する全てのニーズが自院で完結することが可能となるため、これまでのような、病院から施設への紹介が減ることなどが考えられる。今後、介護医療院への転換が進むことになれば、有料老人ホームなどの地域の高齢者施設(介護事業者)との競合が生まれる可能性もあり、地域の医療機関・介護事業者の連携体制や提供体制に大きな変化が起こり地域包括ケアシステムに大きな影響を及ぼす可能性も否定できないのではないだろうか。 
        

医療情報室の目

★政策の迷走が国民の負担となってはならない。

  
今回の療養病床の再編については、2011年当時の転換の際に現場に混乱をもたらしたことなどを教訓に、療養病床の在り方を協議するための検討会や特別部会が設置され、丁寧な議論が進められた。検討会の委員である日本医師会の鈴木邦彦常任理事は、現行制度の再延長を第一選択肢と主張していたが、今回の新類型の検討にあたっては、一定の準備期間やさまざまな緩和措置が盛り込まれるなどの配慮もあったことから、最終的には、「新類型」への転換という形で落ち着いたといえる。
 ただ、新類型の運営基準や介護報酬などが明らかになるのは2018年2月頃で新類型がスタートする直前である。6年間の準備期間が設けられるとはいえ、これまでの療養病床政策の一連の流れも含めて、何となく場当たり的な印象は否めない。
2006年に示された新型老健をはじめ、地域包括ケア病棟や15対1一般病棟に転換している医療機関も数多くあるわけで、これらの医療機関の立場からすれば、まさに梯子を外されたような感覚といえるのではないだろうか。そして何より、これまで最大限の努力や犠牲をはらい療養病床を維持してきた民間医療機関においても、新類型への移行は無念なことであろう。新類型の名称は介護医療院となり、既存の医療機関名を残せるなどの配慮がなされているが、今後、有料老人ホームなどの介護事業者との競合が生じ、現場から大きな反発が起こり得ることも予想される。
 厚労省は先日、特別養護老人ホームの待機者が36万人にものぼり、受け皿となる施設の不足が依然、深刻な状況にあることを発表した。これ以上、国の政策が迷走し、国民の負担になることがあってはならない。今回、示された新類型がすべての受け皿になるとは思えないが、政府には、経過措置的な整備ではなく、国民の負担と不安を軽減させる将来を見据えた環境整備を、早急に手掛けていくことが求められる。

編 集  福岡市医師会:担当理事 庄司 哲也(情報企画担当)・岡本 育(広報担当)・一宮 仁(地域医療担当)
 ※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))
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