医療情報室レポート
No.210

2016年5月27日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集:2016診療報酬改定を振り返る

 2016年度の診療報酬改定は、本体を0.49%引き上げる一方、薬価等を1.33%引き下げ、全体では0.84%のマイナス改定となった。今回の改定は、2014年度改定のように大きなトピックは盛り込まれず、前々回の改定からのテーマである2025年の医療提供体制の構築に向けて、広い範囲に亘り各項目の整理が行われたという印象である。しかし、それらの内容は、「地域包括ケアシステムの推進」と「医療機能の分化・強化、連携」を着実に進めるためのメリハリの効いた評価と見直しが精緻に施されており、医療機関にとっては、2025年の改革シナリオに向けて、地域における自院の役割を見定め、本格的な準備に入らなければならないことを示唆する内容になっているともいえる。
 今回の医療情報室レポートでは、2016年度の診療報酬改定の全体像を振り返り、今後大きく変わりつつある医療提供体制の中で、それぞれの医療機関がどのような役割を担っていくべきなのか考えてみたい。

●近年の診療報酬改定の流れ

 2012年2月に閣議決定された「社会保障・税一体改革大綱」では、団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて、医療機関の機能分化・強化と連携を進め、受け皿となる病床や在宅医療を充実させることなどが提言された。これを受けて2012年度改定では医療法の対応に先駆けて、この一体改革で描かれた「2025年改革モデル」に対応する内容が盛り込まれ、続く2014年度の改定では、7対1病床の絞り込みや地域包括ケア病棟の創設、同一建物訪問診療の大幅減算といった改革を進めるための大きなメスが入れられた。今回の2016年度改定では、広範囲にわたりきめ細かい評価と見直しが実施され、地域包括ケアシステムの構築をさらに推し進めるために、これまでの改定に対するフォローアップが行われた内容と捉えることができる。

    2012年度  2014年度   2016年度 
 改 定 率
 +0.004%
(本体:+1.379%、薬価等:▲1.38%)
 ▲1.26%※
(本体:+0.1%、薬価等:▲1.36%)
 ▲0.84%
(本体:+0.49%、薬価等:▲1.33%)
主な
改定内容
・医療従事者の負担軽減
「小児特定集中治療室管理料」等多項目の新設

・在宅医療の機能分化と看取りの強化
「時間外対応加算」の新設や「ターミナルケア」加算の見直し等

・効率的な入院医療の評価
7対1、10対1入院基本料等の見直し等

・有床診療所における緩和ケア等の推進
「有床診療所緩和ケア診療加算」の新設等
・病床再編を加速
7対1、10対1入院基本料等の見直し等

・主治医機能の強化
「地域包括診療料・同加算」の新設等

・早期の在宅復帰を促進
回復期における「地域包括ケア病棟入院料」等の新設

・在宅医療の適正化
同一建物への訪問診療の厳格化や「在支診・在支病」の実績要件追加等

・リハビリの評価、再評価
維持期リハ引下げ、疾患別リハ引上げ等

・地域医療介護総合確保基金904億円の創設
・病床機能分化・連携の促進
7対1、10対1入院基本料等の見直し等

・主治医機能の強化
「認知症地域包括診療料・同加算」、「小児かかりつけ診療料」の新設等

・外来機能の分化
大病院紹介状なし受診時の定額負担導入

・質の高い在宅医療の確保
重症度・居住場所に応じたきめ細やかな評価等

・質の高いリハビリの追求      
回復期リハビリにアウトカム評価導入等

●2016診療報酬改定の主な改定内容と医療機関の対応

 
  テーマ  改定内容          医療機関の対応
 7対1病床からの転換促進 ・「重症度、医療・看護必要度」の手術・救急を手厚くしたうえ で、重症患者割合の基準を「25%以上」に引き上げ。ただし、200床未満の病院で「病棟群単位」の届出をしない場合は、「23%以上」に緩和。(2018年3月末まで)

・10対1への移行を前提に、7対1、10対1の両病棟を併設できる「病棟群単位」の届出を許可

・「地域包括ケア病棟」の手術、麻酔を包括から除外し、出来高制に変更
・救急患者の受け入れが少ない7対1病院は、10対1または地域包括ケア病床への転換を視野に検討
 慢性期病床の見直し ・療養病棟入院基本料2において、「医療区分2・3の患者が5割以上」という要件を追加 ・医療区分1の患者割合が高い病院は、医療区分2・3の患者の獲得に向けて周辺病院との連携強化を行う必要がある
 リハビリの“質”の向上 ・回復期リハビリへのアウトカム評価を導入
回復期リハビリテーション病棟で、リハビリによる改善実績が一定水準を下回る場合、「疾患別リハビリテーション料」の一部を入院料に包括

・要介護被保険者への維持期リハビリの減算見直し
介護保険リハビリの実績がある医療機関は、現行10%減が 40%減へ(実績のない医療機関は、現行10%減が20%減へ)
介護保険リハビリへの移行は2018年3月末迄延期
・患者の在宅復帰を前提とした、一人ひとりの患者の状態を見極め、効果的・効率的なリハビリの提供が重要

・2年後の同時改定を見据えた介護保険への移行に計画性を持った対応が必要
 外来診療の機能分化 ・特定機能病院と一般病床500床以上の地域医療支援病院における紹介状なし患者への「定額負担(初診5,000円、再診2,500円以上」の導入 ・200床未満の病院、診療所の外来強化・集患につながることを見据えた地域連携への対策が重要
 患者の状態や居住場所等に応じた
きめ細やかな在宅医療の評価
・往診料の「休日加算」の新設

・「外来応需体制を有しない在宅医療を専門に実施する診療所」 の開設認可

・「特定施設入居時等医学総合管理料」の名称変更を変更し、算定対象に有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、認知症グループホームが追加

・「在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料」  
@月1回の訪問診療でも算定できる管理料を新設
A重症度が高い患者をより評価
B「同一建物居住者の場合」について、同一日に診療した人数にかかわらず、単一建物において医学管理を実施している人数「1人、2〜9人、10人以上」に応じた評価に見直し

・「在宅患者訪問診療・指導料」
3段階から2段階の点数設定に
・居宅系、施設等、緩和、小児を含む医療依存度の高い病態の受け入れや早朝夜間・休日、24時間対応など、どのような在宅医療を行っていくかの検討とともに、ケアを担う看護師等の育成が急務

・常勤医師の確保
 認知症の主治医機能の評価と
地域包括ケアシステムをにらんだ
 “かかりつけ医”の評価
・「地域包括診療料・同加算」の要件緩和
常勤医師の配置基準を「3名以上」から「2名以上」に変更

・「認知症地域包括診療料(1515点)、同加算(30点)」の新設

・「小児かかりつけ診療料」の新設
  処方箋交付・・・・・・初診602点、再診413点
  処方箋不交付・・・・初診712点、再診523点
 
 多剤・重複投与防止と残薬解消 ・「薬剤総合評価調整加算・管理料」の新設
6種類以上の処方から2種類以上減薬をした場合に算定

・「連携管理加算」の新設
減薬にあたり他院や薬局と情報交換した場合に算定
・患者の服薬管理におけるかかりつけ医と薬局等の連携強化

医療情報室の目

★2025年改革への道筋は既に明確に示されている。
 
今回の改定は、前回、前々回の改定に引き続き、地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化、連携をテーマに、7対1病床の要件厳格化や在宅医療、かかりつけ医機能の評価など多岐に亘る項目がきめ細かく練り直され、2025年の医療提供体制のあり方を診療報酬上で鮮明に打ち出した内容だといえる。
 一方、昨年実施された介護報酬改定を振り返ると、認知症高齢者や中重度要介護者への在宅サービスの充実が図られるとともに、利用者自己負担の引き上げや特別養護老人ホームの入所要件の厳格化、一部予防給付サービスの市町村の地域支援事業への移行など、地域包括ケアシステム構築に向けた施策がずらりと並んでいる。 
 2年後の2018年は、医療費適正化計画、第7次医療計画及び介護保険事業計画が同時にスタートし、診療報酬と介護報酬の同時改定も行われるため医療界にとっては“激変”の年とみられているが、国が示す「医療・介護一体改革法」に盛り込まれた方向性は、既にこれまでの改定でほぼ出揃っており、2025年改革への道筋は明確に示されているといっても良いだろう。
 医療機関においては、今回の診療報酬改定が示唆する方向性を理解したうえで、自院の外来や入院の実態を分析し、次期改定に向けて地域で担うべきポジションをしっかりと見定めていく必要がある。

編 集  福岡市医師会:担当理事 今任 信彦(情報企画担当)・松尾 圭三(広報担当)・西 秀博(地域医療担当)
 ※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))
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