医療情報室レポート
No.204

2015年7月31日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
印刷用

特集:地域医療構想(ビジョン)とは

 今年3月、厚生労働省の「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」により、必要病床数の推計や都道府県の取り組みに関する具体的手法を記した「地域医療構想策定ガイドライン」が示された。現在、各都道府県では、昨年10月から運用が始まった「病床機能報告制度」のデータを活用しながら、それぞれの二次医療圏における医療機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)の需給予測を算出し、地域の実情に沿った医療提供体制の将来像の検討を進めている。しかし、各医療機関の病床のコントロール等に関しては、原則、都道府県には絶対的な権限はないため、地域医療構想では、これらの協議・調整の場ともいえる「地域医療構想調整会議」の活用と、各々の医療機関における10年後を見据えた「自主的な取り組み」が重要視されている。
 今回は、「地域医療構想」の概説と要点を取りまとめ、将来に向けた医療機関の取り組みなどについて考えてみたい。

●『医療計画』と『地域医療構想』

 『地域医療構想』は、医療計画の一環と位置付けられており、2011年7月の「社会保障・税一体改革」で大きな方向性が示され、その後、「社会保障制度改革国民会議報告書」によって、具体的な構想が打ち出された。
 従来の医療計画は、二次医療圏の総量的な基準病床数などが整備の検討材料とされていたが、地域医療構想(ビジョン)は、病院・有床診療所が担う医療機能を「高度急性期」から「慢性期」まで4分類のいずれかで報告させる『病床機能報告制度』により、地域における、より実態的な医療需給を把握するための仕組みを取り入れた点が特徴となっている。

         

●『地域医療構想策定ガイドライン』の要点

 厚生労働省の「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」は、今年3月末、各都道府県が地域医療構想を策定する上での参考となるガイドラインを発出した。同ガイドラインは、策定に係るプロセスをはじめ、理想的な医療提供体制を検討するうえでの「協議の場」の活用、都道府県の取り組みの方向性や病床の整備等に関する知事の権限など、地域医療構想の柱となる重要なポイントに触れられている。
○協議の場…「地域医療構想調整会議」
 都道府県が主催者となり、地域の医療従事者らが自主的に検討する場。設置単位は、二次医療圏を基本とする構想区域。
 ガイドラインでは、メンバー等について、医師会等の団体、市町村、保険者、医療機関の当事者など幅広いものが望ましいとしており、会議の議長等については、地域の実情に応じ、医師会長などが務めることを想定している。

○都道府県知事の権限強化 
 都道府県知事は、地域医療構想調整会議での協議が整わない場合や、病床の整備等について、指示あるいは要請できる権限を持つ。
 また、知事の指示、要請に従わない場合は、医療機関名の公表や補助金の交付停止なども可能とされている。
 
 ○構想区域ごとの医療需要の推計

 ・病床機能の「境界点」は3000点、600点、225点
 地域医療構想は、「高度急性期」、「急性期」、「回復期」、「慢性期」ごとの必要病床数を推計し2025年の目標を設定することが柱。
 ガイドラインでは、各病床機能の範囲を、患者1人1日当たりの診療報酬の点数(医療資源投入量)を基準に右表(表1)のとおり区分している。
 ただし、これはあくまで医療需要を推計するための基準であり、医療機関が自らの病床機能を選択する際の基準になるものではないことに注意したい。
 
 ・「慢性期」は在宅医療等と一体的に推計
 「慢性期」の医療需要の推計については、療養病床の診療報酬は包括評価となっており医療資源投入量を算出しにくいことなどから、上記のような境界点による区分は用いられない。推計の方法として、療養病床の入院患者のうち、医療の必要性が低い医療区分1の患者の7割が在宅医療等に移行できるとの前提に立ち、構想区域ごとに療養病床の入院受療率の地域差を解消するための目標値(表2のパターンAからBの範囲内)を定め、これに相当する患者数を推計することとしている。
 ただし、一定の要件に該当する構想区域については、目標の達成年次を2025年から2030年まで延長できるなどの激変緩和措置が設けられている。
 
                     

●医療需要を踏まえたこれからの医療機関の取り組み

○データを活用した自主的な取り組みが求められる 
 今回の「地域医療構想策定ガイドライン」の策定にあたり、同ガイドライン検討会は、病床機能報告制度を通じて集積されるデータのほか、DPCやレセプトデータ等のNDB(ナショナルデータベース)を推計の材料に用いてきた。今後、地域医療構想をめぐり様々なデータが公開されるため、医療機関もこれらのデータを活用し、10年後の医療需要の変化に対応できるかということを検証し、病棟単位で当該病床の機能に応じた収れんのさせ方や、それに応じた必要な体制の構築や人員配置を検討することが求められる。

○病床機能報告制度の運用の見直しを予定
 7月29日に、厚労省の「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」が再開され、病床機能報告制度の運用の見直し等に関する議論が始まった。前年度の報告では、医療機能の選択を各医療機関の自主的な判断に委ねていたため、判断にばらつきが生じたが、今年度は前回の収集データを分析し、留意事項の整理などが行われる予定とされている。

 

医療情報室の目

★地域医療構想は病床を削減する仕組みではない!
 
先月、政府の「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」が、2025年の必要病床数は現状よりも20万床削減可能との推計値を公表し、医療界に大きな波紋が広がった。この推計値は地域医療構想策定ガイドラインに示されている算定式を用い機械的に算出されたもので、都道府県をまたぐ患者の流入出などは考慮されていないため、政府はあくまでも「参考値」であると説明している。しかし、政府の目論見は、病床の抑制などではなく、その先にある「医療費の抑制」であることを忘れてはならない。「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」は、7月29日から検討を再開し、都道府県別の医療費の推計にも取りかかるとしており、また一方で、5月27日に成立した医療保険制度改革法では、各都道府県が定める「医療費適正化計画」に、地域医療構想と整合性のある医療費の「目標」を設定するよう求める条項を盛り込むなど、今後の診療報酬への影響などが気掛かりとなる動きもある。
 いずれにしても、2018年度は、第7期医療計画が始まり、診療報酬・介護報酬の同時改定、さらには、前述した第3期医療費適正化計画が策定されるなど、様々な改革が同時スタートする大きな節目となっており、医療界にとっては2025年に向けた大きな変革の年となることだけは間違いないだろう。
 医療関係者は、今後の地域医療構想の動向や医療をめぐる改革全体に目を光らせ、早い段階から、地域全体の中で将来を見据えた自院の位置付けを見極めていく必要がありそうだ。

編 集  福岡市医師会:担当理事 今任 信彦(情報企画担当)・松尾 圭三(広報担当)・西 秀博(地域医療担当)
 ※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))
  医療情報室レポートに戻ります。

  福岡市医師会Topページに戻ります。