医療情報室レポート
No.196

2014年8月29日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集:地域に根差す医師会立看護学校の存続に向けて

 現在、国内には約1,300の看護師養成校が存在するが、その設置主体は大学や医療法人、医師会立などがあり、資格取得までの養成課程・年数も様々である。近年の傾向として、平成8年(1996)に浮上した准看養成廃止論を機に、准看養成課程および准看取得後の進学コースである2年課程が減少しており、准看養成課程を扱う医師会立養成校も、実習先病院の減少や行政からの補助金が縮小するなど苦境に立たされている。
 今回の医療情報室レポートでは、看護師養成の現状に触れるとともに、医師会立看護学校が直面している問題や地域に果たしている役割などをまとめてみた。

●看護師養成機関の現状

  我が国における看護師は、下表に示すように様々な機関により養成されている。近年の傾向としては、看護大学が右肩上がりで増加する一方、准看養成課程および准看取得後の進学コースである2年課程が減少している。(図1)

 区 分 H25国試合格率    傾向と特徴
 看護大学(4年制) 96.90% 近年大幅に施設数が増加
 短期大学(3年制) 90.30% 全国に少なく、募集人数も少ない
  看護師3年課程養成所
(全日制)
96.90% 従来からの主要な看護師養成機関
 看護師2年課程養成所
(夜間定時制は3年)
95.10% 准看護師資格を有するものが看護師を目指すため、さら に2年(夜間定時制3年)教育を受ける課程。准看養成校 減少に伴い、志望者数、施設数は減っている
 高校専攻科
(5年一貫教育専攻)
 93.20% 高等学校衛生看護科から、さらに2年間の専攻科を加えた 5年一貫教育校
准看護師養成校    − 働きながら資格取得可能な「准看護師」志望者は増加しているが、それに反して施設数は減少傾向

    

●看護師・准看護師の就業状況

○准看養成課程は狭き門
看護師の数は年々大幅に増加しているが、准看護師の数は、平成16年以降減少傾向にある。(図2)これは平成8年の厚生省「准看護婦問題調査検討会報告書」により、看護職養成の一本化が唱えられるようになったのを機に、「准看護師」への将来不安が広がり、医師会・医療法人等の准看養成所廃止が続いたことなどが影響している。
一方、准看課程の入学者は長引く不況の影響などを受け、平成20年度から急激に増加している。ここ数年は若干減少傾向にあるが、医師会立全体では、2.8倍と高い応募倍率を維持している。養成所の減少と相まって、准看護師の入学が狭き門となっているといえる。
※日本医師会「平成25年医師会立助産師・看護師・准看護師学校養成所調査」より


○出身課程で異なる看護職の就業場所
 看護師は大病院へ多く就業し、准看護師は診療所、さらに在宅医療、介護の領域へ就業していることがわかる。(図3)
看護師の就業場所は、その出身養成施設ごとにも著しく違いがあり(図4)、看護大学、3年課程卒業者が大病院へ就業し、2年課程卒業生は地元の病院、診療所で働いている。図5は中四九加盟校の状況であるが、同様の結果であり、3年課程卒業者の就業先として医師会員施設の私的病院が多い。
  ※中四九地区医師会看護学校協議会:中国・四国・九州地区の医師会看護学校36校が加盟し、緊密な連絡・協調
    を深め、各校の現状と問題点を検討・協議し、学校運営と看護教育の発展向上を図ることを目的とした協議会




○養成所別看護師の就業場所(県内、県外別)
 平成18年に導入された7:1看護体制の影響により、都心部の病院がその施設基準を満たすために、多くの看護師が地方から集められた。このことで看護師資格取得者が、売り手市場として引く手あまたの状態になり、条件の良い都心部の病院へと卒業生が流れたため、地方に深刻な看護師不足を招くこととなった。当医師会の看護学校、近隣の大学からヒアリングしたデータを基に、養成所別に福岡県内、九州、その他地域への就職状況をまとめたところ(図6)、以下のような傾向が確認できた。付属病院を持たない看護大学は、公立私立を問わず、県内はもとより九州内にも留まらず、大都会へ就職してしまう。これは地元で活躍してもらうために多額の公金をつぎ込みながら、結局は、他の地域で活躍するといった不合理な状況であるといえる。


傾 向: ・医師会立出身の看護師が地元によく残っている。
     ・付属病院を有する大学は当然の事ながら、自病院で卒業生を吸収するため、地元に就職している。
     ・付属病院を持たない看護大学は、公立私立を問わず、県外へ多く就職している。
                                          

●看護師養成のコストは?

  図7は近隣の大学からヒアリングしたデータや当医師会の看護学校の状況ををまとめ、各養成機関における、学生一人あたりに換算した総収入と、運営交付金・補助金、学生の負担金の比較をしたものである。医師会立への補助金は看護大学よりはるかに少ないにもかかわらず、学生一人あたりの校納金については、医師会立は国公立大学並みの負担に抑えている。看護師養成だけに限れば、補助金に関しては差がつくべきものではない。看護大学の設立意義が、単に看護師養成だけではなく、看護師教育者の養成や研究にも重きを置いており、それに対する公費負担が加算されているとしても、大きな差である。私立大学は高額の校納金をもって運営に資している。
 
                             

●医師会立看護学校が抱える課題とこれからの存続に向けて

  医師会立看護学校は、他の養成所と同等の国試合格率を達成しており、優秀な看護師を地域の医療施設に就業させ、地域医療の発展に尽くしている。今後も、看護大学の激増、看護師の都市集中という逆風の中、地域の医療環境整備のためにも、看護師育成に医師会が大きな役割を果たさなければならないが、今後の存続のためには、学校側の問題(教育体制の整備)と学生側の問題(経済的援助)の両面から課題を克服する必要がある。

○学校側の問題
・実習病院確保
 文科省管轄の看護大学(特に付属病院を持たない)による強引な実習病院確保に対する指導が必要と考える。また、地域の公的病院にも、地域医療を支える意味で、医師会の看護師養成事業への支援を期待する。
・専任教員確保
 現場の看護師就業時の卒後研修の中で、専任教員としての単位取得に運用できるような教育体制を整えることで、現場の看護師から、教育現場へスムーズに行き来できるようなシステムを構築することが必要と考えられる。これには看護協会の協力を強く望 むものである。

○学生側の問題
  医師会立看護学校を選択する生徒は、看護大学のような金銭的負担を避けるために入学してくるものが多く、その点でも、経済的援助が必要となる。医師会本体も、かなりの財政的負担を負いながら学校運営をしている。しかし、昨今の厳しくなるばかりの医療機関の経営事情等を背景に、会員の中にも、医師会の看護師養成事業そのものに疑問を呈する声もある。
  一方、慢性的な看護師不足を受け、地域の私的病院は、看護師紹介業者を介してでも、その確保に苦渋している。時に、医師会立看護学校の卒業生が、業者を介して、地元の私的病院に就職するという妙な現象もみられるが、医師会立の看護学校は会員のものであり、その卒業生が会員施設に就業するというのが理想形である。その形を堅固なものにするために、会員と看護学校生徒との関係をより密接にする必要がある。

○学生の経済的援助に新たな提案
   学生の経済的援助には、公的な奨学金制度と、当医師会独自の奨学金システムがあるが、利用できるのは少人数に限られている。そこで、来春新設の昼間全日制3年課程学生へ対する奨学金システムとして、医師会会員の新しい奨学金システムを提案したいと思う。例えば、3年間学費を援助し、卒後その施設で3年間就業すれば返済を免除されるという制度である。もしくは、当看護学校後援会会員となり、当校卒業生との就職面接優先権を与えるといった制度はどうだろうか。このことにより、当校看護学校は会員の身近なものとなり、看護師不足も解消できると考える。              
 

医療情報室の目

★看護師養成において補助金格差は不公平
  医師会立の看護師養成所は、他の養成機関と同等の国試合格率を達成しており、その卒業生たちは地元の医療施設へ就業し地域医療に大きく貢献している。一方で、レポートの中でも示したとおり看護大学と医師会立との補助金には大きな差があり、看護師養成にかかるコストの赤字部分を地域の医師会が補填しているのが現状である。看護大学の設立意義が、看護教育者の養成や研究にも重きを置いているなどの理由で公費負担が加算されているとしても大きな差である。看護師養成だけに限れば、補助金に関しては差がつくべきものではないはずである。

★実習病院の確保に公平性を
  医師会立の看護師養成所が直面している問題は、実習病院の確保である。実習に関しては、従来受け入れて頂いていた病院が、 看護大学生を受け入れるようになり、医師会立の学校が締め出されつつある。実習病院としては、実習費も高く、実習指導の引率教員も豊富で、自病院の負担が少なく、さらに医師会立と違い、そのまま就職してくれる率の高い看護大学学生を受け入れるのは当然かもしれない。しかし、その潤沢な実習環境の原資が看護師養成に対する公金だとしたら、果たして競争は公平といえるであろうか。合格率も遜色なく、地域に根差す看護師を多く送り出している医師会立養成校への公金は減額されるのに、その養成を圧迫する養成施設へ多大な公金を与えているのは、大変不合理に思う。

編 集  福岡市医師会:担当理事 今任 信彦(情報企画担当)・松尾 圭三(広報担当)・西 秀博(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))
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