医療情報室レポート
No.195

2014年8月1日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
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特集:在宅医療への課題と期待〜その2〜

 前号NO.194では、在宅医療をめぐる現状や課題、そして、“団塊の世代”が一気に後期高齢者となる2025年の節目に向けて動き出した国の施策である「医療・介護総合推進法」の概要などを紹介した。
 今回の医療情報室レポートでは、今後それぞれの医療機関が担うであろう役割や選択肢を考えるとともに、円滑な在宅医療提供体制を実現するうえでの医療機関同士の連携のポイントなど踏まえ、「今後のあるべき在宅医療の姿」を展望してみたい。

●在宅医療推進に向けて医療機関に求められる役割

2014診療報酬改定や医療・介護総合推進法の成立を受け、医療機関には、地域における役割や機能の見直しが迫られている。
ここでは、今後、在宅医療において医療機関に期待される役割や機能などを整理してみた。

 種別 在宅医療において、今後期待される役割と機能   在宅医療に関連する施設基準など
 無床診療所 ・往診・訪問診療等の実施によるかかりつけ医機能の強化
・緩和ケア、ターミナルケアへの対応
・24時間対応(周辺診療所等や訪問看護ステーションとの連携)
・患者の状態に見合った医療に繋げるための緩やかなゲートキーパー機能  など
在宅療養支援診療所

機能強化型在宅療養支援診療所
 有床診療所 ・小規模多機能など介護施設等の併設
・病院からの早期退院患者の在宅・介護施設への受け渡しとしての機能
・在宅患者等の急変時の受け入れ機能
・外来と入院機能を併せ持ち小回りが利くフレキシブルな機能 
・終末期医療を担う機能 など
  中小病院
(200床未満)
・急性期後の患者の受け皿としての機能
・緊急時の患者の受け入れ機能
・急性期と慢性期の間を繋ぎ、在宅、生活復帰を支援する機能 
※平成26年度から「在宅復帰率」が新たな要件に加えられた
在宅療養支援病院
地域包括ケア病床(病棟)
回復期リハビリテーション病棟
在宅復帰機能強化加算の算定(療養病棟)
 大 病 院
(200床以上)
・緊急時入院病床の確保
・在宅医療を提供している医師と共同での訪問診療の実施 
※専門的医療、急性期に対する入院医療の提供が基本
在宅療養後方支援病院
          

●大都市における在宅医療提供体制のあり方

  在宅医療は、地域の人口密度や医療機関数といった様々な実情によって、都市部と地方において提供体制も異なってくる。開業医が一人で在宅医療を行い、24時間365日対応するには限界があり、個々の医師の負担を減らし持続可能とするためにも、訪問看護ステーション等との連携、医師のグループ化や後方支援などのシステム整備が急務である。日本医師会の地域医療対策委員会報告書(H26.3)では、在宅医療実施体制の例をいくつか示しているが、ここでは、連携が構築しにくいと思われる都市部の実施体制パターン四つを取り上げ、今後の在宅医療を推進するうえでの参考としたい。

 人口20〜30万人以上の大規模都市型の特徴
   
・人口密度が高く、高齢者が集住している
・医療資源も多く、かつ大病院が多い
・今後、高齢者増加に伴い、医療需要も著しく増加
・高齢者の入院数や救急搬送が著しく増加
   
 
 実施体制パターン  期待される効果と役割
 A.複数の開業医同士が連携
(主治医・副主治医制)

   
・基本的には主治医が責任を担い、不在時の緊急対応を副主治医が担う
・1人(主治医) : n人(副主治医)の組み合わせの方が取り組みやすい
(医師会が組み合わせの調整を行う)
・24時間訪問看護、介護との連携、後方病床の確保が必要
 B.一診療所に複数の医師が在籍
(単独強化型在支診型)
・地域の多数の在宅患者を受け持つ役割を担う
・在宅医療を行う周辺診療所(上記Aパターンなど)を支援する役割も期待
 される
 C.複数の診療所や中小病院がグループを組んで
在宅医療を実施
(連携強化型在支診・病型)
   
   
・地域の多数の在宅患者を受け持つ役割を担う
・在宅医療を行う周辺診療所(上記Aパターンなど)を支援する役割も期待
 される
・患者の病状に応じて在宅・入院医療の移行がスムーズに行える
 D.有床診療所や中小病院が在宅医療を実施  ・病床を有し、患者の病状に応じて在宅・入院医療の移行がスムーズに行える
・急性期病院から在宅への橋渡しや在宅の後方支援の機能を担う
・訪問看護、介護サービスとの連携
・無床診療所への多様な支援
・在宅医療中の患者家族へのレスパイト(休息のための支援)機能
・医療介護ミックス機能
                                                            (H26.3日本医師会地域医療対策委員会報告書より一部改変)

●在宅医療推進に向けた地域医師会の役割

  地域包括ケアシステムの「要」となる連携体制については、現場の実情等を集約し、適切にコントロールできる組織・団体が担っていく必要があるだろう。在宅医療の推進においては、地域包括ケアの中心を担う地域医師会が強いリーダーシップをとり、行政や多職種と連携を図りながら、地域に適合した環境等を整備していかなければならない。ここでは、在宅医療推進に向けた地域医師会の役割を考えてみた。

 ○在宅医療に取り組む医師やリーダーの養成
    ・在宅医療に関するスキルアップ研修会等の開催
    ・在宅医療専門医会等の設立による組織強化と意識改革の醸成 等
 ○個々の医師の負担軽減のためのシステム作り
    ・医師をグループ化した主治医・副主治医制のコーディネート 等
 ○多職種連携システム(顔のみえる関係作り)の構築
    ・実用性のある在宅医療実施医療機関名簿等の作成
    ・行政と協働による多職種連携会議の開催 等
 ○国民に対する在宅医療の現状やサービスの活用法等の啓発活動
    ・市民向け講演会の開催 等
                             

●多職種連携ツール『福岡市医師会方式在宅カルテ』

  在宅医療を円滑に進めるためには、多職種間の情報共有が欠かせない。福岡市医師会では多職種の連携を深めるツールとして独自方式の「在宅カルテ」を、平成25年7月より運用している。これは、かかりつけ医や在宅医療に関わる多職種が、訪問時に患者宅に置かれた「在宅カルテ」に処置や容態などを記入し、患者の医療・介護情報等を共有するための連携ツールである。               
福岡市医師会方式「在宅カルテ」イメージ図
<在宅カルテの効果>

・治療の変更や他科の診療内容などが速やかに把握できる
・多職種間で連絡が取りやすくなる
・均質的な看護・介護サービスを提供できる
・入院時に在宅療養の経過、サービスの内容が速やかに把握できる
・リスクマネジメントに繋がる
・医療職と福祉職の距離が縮まる  など

※様式や詳細については、福岡市医師会ホームページをご覧下さい。
 URL:https://city.fukuoka.med.or.jp/zaitakukarute/zaitakukarute.html
 

医療情報室の目

★在宅医療へ『かかりつけ医』の積極的な参加を期待
  
  今後、高齢者の急増と医療提供体制の見直しが相まって、在宅で医療・介護を必要とする人が増加する。この流れを受け、地域の医療機関には、緊急時の往診、看取りなどの役割を積極的に果たす在宅療養支援診療所の整備や機能強化を図ることなどが求められる。しかし、特に高齢者が集住する都市部にあっては、今後、開業医単独での在宅医療の実施はますます厳しくなるものと思われる。
 一方、都市部には、数多くの医療機関や施設、介護サービス提供者といった既存資源が充実しており、その連携体制を確立することができれば、都市部の特性を最大限に活かした「地域包括ケアシステム」を構築することも可能である。
 そのためには、まず、医師一人ひとりが、医療をめぐる国の施策や地域の実情に関心を持つとともに、チームの一員と
いう意識を持って、これからの地域包括ケアシステムに参画していくことが求められるだろう。
 また、実効性のある連携体制を構築し円滑に機能させるためには、医師会が地域に根付いた医療資源の活性化を図り、
行政と協働してマネジメントを行っていく必要がある。

編 集  福岡市医師会:担当理事 今任 信彦(情報企画担当)・松尾 圭三(広報担当)・西 秀博(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))
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