No.191
2014年3月28日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
特集:調剤薬局の現状と未来
医薬分業の進展に伴い調剤薬局の市場規模は大きく拡大している。現在、約38.5兆円にものぼる国民医療費の約17%を調剤医療費が占めているが、調剤薬局の数は、現在、約5万5千軒と日本薬剤師会の想定をはるかに上回る数にまで増加し、既に院外処方の約7割が調剤薬局によるものとなっている。この背景には、調剤薬局のチェーン展開や相次ぐ異業種からの調剤事業への参入といった市場競争の激化などがあげられるが、特に昨今は、大手調剤薬局が買収・合併や店舗拡大等を通じて著しく業績を伸ばし巨額の利益を得ていることなどが問題視されている。一方、この4月から施行される診療報酬改定では、特定の医療機関からの処方せんが集中する薬局への調剤基本料を減額する「例外規定」が強化されるとともに、今改定で新設された「地域包括診療料」では、院内での処方を算定の前提とするといった調剤薬局には厳しい内容が盛り込まれている。これらの改定は、いわゆる「門前」中心となっている調剤薬局全体のあり方にメスをいれたものといえるかもしれないが、経営体力に乏しい中小薬局の淘汰がますます加速し、地域医療の提供バランスが崩壊する懸念もある。
今回の医療情報室レポートでは、調剤薬局の現状に触れるとともに、2014年診療報酬改定における調剤薬局の評価を紹介し、今後の医薬分業の方向性について考えてみたい。
●調剤薬局をめぐるいくつかの論点
○営利追求が拡大する調剤市場
医薬分業の進展に伴い、現在の分業率は70%に達し、院外処方を行う調剤薬局は5万5千軒にまで増加した。これは、1997年に日本薬剤師会が「国内の適正な薬局数」として試算した2万4千軒をはるかに上回る数である。
調剤薬局は医療機関と同様、医療法上の“医療提供施設”として位置付けられているが、大きく異なる点は開設主体の多くが営利企業という点である。特に近年は、医薬品の大量購入や価格交渉力に強い大手調剤チェーンの買収・合併が加速するとともに、医薬品卸やドラッグストアなど隣接業種の調剤事業の強化、さらには商社やスーパーといった異業種からの参入が目立つなど、まさに「調剤ビジネス」とも呼べる苛烈な市場競争が進んでいる状況といえる。
○国民医療費を圧迫する“調剤医療費”
国民医療費に占める調剤医療費の割合は、年々、増加している。薬剤師が医療の担い手(医療者)として医療法に規定された1992年頃から薬剤師の数は急激な伸びを見せるが、同時に医薬分業も飛躍的に進展し、これに比例するかのように調剤医療費の伸び率も増加していることがうかがえる。右図の国民医療費の推移を見ると、病院、一般診療所にかかる医療費はここ20年ほどは概ね横ばいであるのに対し、調剤医療費の幅が年々、顕著に増加していることがわかる。
前項でも述べたとおり、調剤事業には現在多数の営利企業が参入しており、各企業がより多くの利益(調剤報酬)追求を図ることは当然である。しかしこの状況は、非営利である医療行為の医療費を圧迫し、相対的に医療本体の給付範囲を縮小しているといえるのではないだろうか。
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出典:日医総研ワーキングペーパーNo.291(2013年7月) |
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出典:日医総研ワーキングペーパーNo.291(2013年7月) |
●調剤薬局に対する診療報酬の評価と今後の役割
○平成26年度診療報酬改定における調剤薬局への評価
今回の診療報酬改定では、院外処方に対するいくつかの評価の見直しが行われた。中でも、門前薬局の縮小を狙った調剤基本料の特例 規定の追加や、医薬品の価格交渉がまとまらない病院や薬局の調剤基本料などを引き下げる「未妥結減算ルール」など、調剤薬局の経営
に影響を与える内容が含まれている。特に、今改定での目玉のひとつとされている「地域包括診療料」については、主治医機能を持った 中小病院及び診療所の医師が、複数の慢性疾患を有する患者に継続的な医療を行う場合に高い点数を算定できるものであるが、その要件
は「院内処方」が前提とされており、調剤薬局が応需する場合には24時間開局(対応)などの厳しい条件が課されている。これは、これまで医薬分業政策を推進してきた国が、調剤薬局全体のあり方に一石を投じたという見方もできるのではないだろうか。
<調剤基本料の特例規定の追加>
現在、処方せんの受付が4,000回/月を超え、特定の医療機関からの受付が7割を超える「門前薬局」には、調剤基本料を大幅に引き下げる特例規定が設けられているが、今回の改定では処方せんの受付がより少ない薬局にも特例の範囲が拡大され、処方せん受付回数が2,500回を超える薬局も、一カ所からの処方せん受付が9割を超える場合は調剤基本料が41点から25点に引き下げられる。
出典:厚生労働省
<地域包括診療料(新設)>
高血圧、糖尿病、脂質異常、認知症の4つの病気のうち2つ以上の疾患を有する患者が算定の対象。診療所または200床未満の中小病院の「主治医」が、患者がかかっている全ての医療機関の服薬内容を把握し、介護保険や在宅医療に対応できることなどが要件。通常の再診料に代わり、月1回1,503点を算定することができる。なお、対象患者に対して院外処方を行う場合は、24時間開局している薬局と連携することとされている。
○調剤薬局の今後の役割
近年、医療用医薬品のスイッチOTC化や後発医薬品の使用促進といった施策の拡大とともに、薬剤師の業務拡大に向けた議論が進んでいる。この4月にも、厚生労働省は調剤業務の範囲拡大などを盛り込んだ薬剤師法施行規則の改正省令を予定しており、処方薬の飲み 残しがある場合などに、薬剤師が処方医に疑義照会したうえで患者の居宅等で調剤量を変更できるものとしている。
これらの動きは、今後、在宅を中心とする“地域包括ケアシステム”の整備等が進められる中で、薬剤師(薬局)に対しても現場への 関与を求めようとしているものと考えられる。ただし、多職種連携を柱とする地域包括ケアシステムでは、地域スタッフとの密接な情報
共有や信頼関係の構築が欠かせない。門前型の大手調剤チェーンが地域包括ケアにふさわしい役割を担えるのかは、今後の一つの重要な テーマといえるだろう。
医療情報室の目
★調剤市場のあり方が、いま問われている
そもそも医薬分業は、医療費抑制の声が高まりだした1980年代当時、医療機関の薬価差益収入が過剰な投薬治療に繋がっているのではないかとの批判が広まったことなどから、院内の薬局機能を分離し、膨張が見込まれる薬剤費を抑制しようと始まった国の政策である。しかし現在、調剤市場の規模は約7兆円にも達し、コンビニエンスストアを上回る数の薬局が乱立し、大手調剤チェーンによる経営戦略的な買収・合併などが繰り広げられている。
調剤薬局は、病院・診療所と同様、医療法上の「医療提供施設」に位置づけられているにもかかわらず、そのほとんどが営利企業による運営である。企業である以上、様々な経営戦略により利益を上げようとする動きは当然であるが、その原資の多くは国民医療費である。
かつて、院外処方が少なかった時代は、調剤薬局の経営を支えるために相応の調剤報酬点数を設ける必要があったかもしれない。しかし、現在のように調剤市場が巨大化し、一部の大手薬局チェーンの利益偏重等が問題視されてる現状を踏まえれば、調剤報酬システムの仕組みや妥当性を考えていく必要があるのかもしれない。
調剤薬局に対する今回の診療報酬改定の内容は、ビジネスとしての側面が顕在化している調剤薬局の市場システムに対するひとつの警鐘ともとれるのではないだろうか。
編 集 福岡市医師会:担当理事 今任信彦(情報企画担当)・松尾圭三(広報担当)・寺坂禮治(地域医療、地域ケア担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))