<医療への市場原理の導入の問題点> |
1) |
財力による医療へのアクセス格差 |
市場原理の下では、弱者(高齢者・低所得者)が排除され、医療保険を購入する財力のない者は「無保険者」となり、医療へのアクセスが閉ざされてしまう。米国政府は、巨額の税を投入してメディケア(高齢者)・メディケイド(低所得者)という公的医療保険制度を運営しているが、国民の7人に1人が無保険と弱者を救済しきれていない。 |
2) |
医療費・保険料負担の逆進性 |
民間医療保険が主体の米国で保険に加入する場合、有病者ほど保険料が高く設定されるなど、医療が必要な人ほど医療へのアクセスが閉ざされてしまっている。また、企業を通じて保険に加入すれば、大口顧客に対する割引価格で医療を受けられるが、無保険者は定価で医療費が請求されるなど、弱者ほど負担が重くなってしまう「負担の逆進性」が発生している。 |
3) |
バンパイア効果 |
サービスの質を下げマージンを追求する悪質な企業がシェアを獲得した場合、それまで「サービスの質を追求」していた企業も生き残りを図るため、悪質な企業の経営手法に追従せざるを得ない状況に追い込まれる。このような現象は、吸血鬼にかまれた者は皆吸血鬼になるという例えから、「バンパイア効果」などとも呼ばれているが、もし、株式会社が医療機関経営に参入した場合、良質な医療を提供していた医療機関も淘汰される危険性をはらんでいる。 |
4) |
市場原理を導入しても医療費が下がる保証はない |
通常、“モノ”を購入する場合、「お金がないから購入を諦める」という選択は往々にしてあるが、医療に関しては簡単に「治療を諦める」訳にはいかないため、患者は医療提供者の言い値で医療を受けざるを得なくなるだろう。例えば米国では薬剤価格を製薬会社が自由に決められることなどから、世界的に見ても高額に設定されている。このように、医療においては価格決定を市場原理に委ねることが適切な価格を生むことには繋がらないといえる。 |
<参考文献> 李 啓充 著「市場原理が医療を滅ぼす」 |