医療情報室レポート
 

bP82
 

2013年6月28日 
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1505・FAX852-1510 

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特 集 : 医療事故調査制度を考える −その2−

 長年に亘って検討されてきた医療事故調査の仕組みについて、厚生労働省の検討部会は先月29日、民間の第三者機関への届出と院内調査の実施を柱とする制度の概要を取りまとめた。今後、厚労省は検討部会の案を踏まえ、必要な法案やガイドライン策定に取り掛かり、早ければ2015年4月からの制度の運用開始を目指すとしている。一方で日本医師会は、医療事故調査に関する検討委員会の答申『医療事故調査制度の実現に向けた具体的方策について』を受けて、今月12日に日医としての医療事故調査制度のあり方を示した。両者が描く仕組みは大枠の流れでは一致しているが、第三者機関の構成や警察への届出義務等に相違があり、今後の流れの中でどのように制度が構築されるのかが注目される。
 医療事故調査制度特集の第2弾となる今回のレポートでは、検討部会が示した仕組みと日医の提案の違いを確認するとともに、昨年6月から福岡県医師会が取り組んでいる医療事故調査分析支援事業等について紹介する。


医療事故調査制度:厚生労働省検討部会案と日本医師会案のポイント
<厚労省検討部会が示した制度案のポイント>
検討部会で示された医療事故調査制度の流れ
<調査の流れ>
医療機関は、診療行為に関連した死亡事例(行った医療又は管理に起因して患者が死亡した事例であり、行った医療又は管理に起因すると疑われるものを含み、当該事案の発生を予期しなかったものに限る。)が発生した場合、まずは遺族に十分な説明を行い、第三者機関に届け出るとともに、必要に応じて第三者機関に助言を求めつつ、速やかに院内調査を行い、当該調査結果について第三者機関に報告する。(第三者機関から行政機関へ報告しない。)
院内調査の実施状況や結果に納得が得られなかった場合など、遺族又は医療機関から調査の申請があったものについて、第三者機関が調査を行う。
※厚生労働省HP「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方について」より一部転載
検討部会と日医の「第三者機関の構成のあり方」の違い
○第三者機関への届け出と院内調査実施の義務付け
 医療事故死が発生した場合、全ての医療機関は「第三者機関」に届け出なければならない。

○調査の対象事例
 診療行為に関連した死亡事例(行った医療又は管理に起因して患者が死亡した事例であり、行った医療又は管理に起因すると疑われるものを含み、当該事案の発生を予期しなかったものに限る)

○院内調査に対する外部支援の原則化
 院内調査は中立性や透明性を保つため、原則として外部の専門家の支援を受ける。また、都道府県医師会や大学病院などが主体となる支援組織を設置する。

○第三者機関による調査
 遺族からの要請などによる第三者機関の調査も想定されている。

○調査にかかる費用
 院内調査の実施費用は医療機関負担。第三者機関の調査については国の補助金のほか、調査を申請した者(遺族や医療機関)にも一部負担を求める。

○警察への届出
 第三者機関からの警察への通報は行わない。(医師が検案をして異状があると認めたときは、従前どおり、医師法21条に基づき、医師から所轄警察署へ届け出る)

<日本医師会案のポイント>
○第三者機関を中央・地域の二段構成に
 第三者機関については、医療事故に素早く対応する必要があることから、都道府県医師会や大学病院などが参画する「地域医療安全調査機構(仮称)」を設置し、院内調査の支援や原因究明にあたる。地域で原因究明に至らなかった事案については、日医や関係学会等で組織する「中央医療安全調査機構(仮称)」が全国レベルの検証や再発防止に向けた提言を行うことを想定。

○医師法21条の拡大解釈の是正
 上述の厚労省検討部会の制度案では触れられていないが、『医師法21条』の誤った拡大解釈について、法改正及び解釈の整理に向けた働き掛けを行っていく。

※日本医師会 医療事故調査に関する検討委員会答申
 『医療事故調査制度の実現に向けた具体的方策について』

  (資料掲載URL:http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20130612_1.pdf

厚生労働省補助事業「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」と福岡県医師会の取り組み
厚生労働省「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」
 平成17年から、厚生労働省の補助事業として全国11地域において「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」(以下、モデル事業)が実施されている。これは、死因の医学的調査や診療内容の評価を行う“第三者委員会”を設けることで、医療事故調査の透明性や再発防止を高めることを目的に始まった取り組み。当初は内科学会等が設立母体となり各団体に参画の輪が広がっていったが、平成22年に「日本医療安全調査機構(※)」が発足し同モデル事業が移管された。

・モデル事業対象地域(平成25年6月現在)
 北海道、宮城県、茨城県、東京都、新潟県、愛知県、大阪府、兵庫県、岡山県、福岡県、佐賀県

・調査にかかる費用
  医療機関、遺族の負担なし。調査等に要する費用は日本医療安全調査機構が負担。

・これまでの実績
 約160事例について評価終了。(平成25年3月時点)
 ※HP上に評価結果公表

・福岡県地域におけるモデル事業の状況
 福岡県医師会並びに県内4大学(九大、福大、久留米大、産業医大)が母体となり実施中。現時点で9事例について評価終了。

※一般社団法人日本医療安全調査機構について
日本内科学会等の日本医学会基本領域19学会、臨床部会学会、日本医師会、日本看護協会等の約70団体が一体となり運営する組織。
(ホームページアドレス:http://www.medsafe.jp
モデル事業の流れ
福岡県医師会「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」
 福岡県医師会は昨年6月から、福岡県における上記モデル事業への参画を支援するため新たな取り組みを展開している。これは、モデル事業には個人開業医等の小規模医療機関の参画が容易でないと指摘されていることなどを受け、県内の全ての医療機関がモデル事業に参加できる体制を構築するため、以下の支援を行う独自の取り組み(福岡方式)である。

・支援事業の概要
 医療死亡事故が発生した医療機関からの要請を受け、医師や看護師等の調査分析支援チームを派遣し、主に以下の行為を支援する。
 ・剖検の取得(遺族との協議)の支援
 ・争点整理、院内事故調査委員会の手順など事前調整の支援
 ・院内事故調査委員会開催の支援
 ・調査報告書作成の支援

・これまでの実績

  本年6月現在で3事例。

※本事業への問い合わせ窓口
平日 9時〜17時、土曜日 9時〜12時の申込等は福岡県医師会まで
 TEL 092(431)4564 FAX 092(411)6858
上記以外の時間帯については、福岡県メディカルセンターまで
 TEL 092(471)8599 FAX 092(415)3126

福岡県医師会事業の流れ

<医療情報室の目>
★行き過ぎた刑事責任追及は、医療事故の「原因究明」と「再発防止」を阻む
 刑事処分の目的は、基本的に個人の責任追及にある。例えば院内の連携が不十分だったために起こった医療事故も、現場に司法権力がみだりに介入すれば結局は犯人捜しに終始してしまい、真の“原因究明”と“再発防止”に繋がらないだろう。

★個人の過失とシステムエラー
 医療事故には、時として医療水準を大きく逸脱し、医療倫理の観点からも許容されないケースがあるが、多くは、確認不足や誤認といったヒューマンエラー、また医療機関の機器や医薬品の問題、労働環境といったシステムエラーに起因するものである。これらのミスが繰り返されないためには、不幸にして起こった事例が専門家の目で的確に分析・整理され、速やかに医療関係者にフィードバックされるシステムが必要である。

★全ての医師が“プロフェッショナルオートノミー”を意識した医療事故対策を
 医師は、自らの職業的行為を厳しく律する行為、すなわち“プロフェッショナルオートノミー”が求められている。医療事故の防止についても、医師自らが専門的見地からの自律的教育プログラムや積極的な事故防止策を実践することが必要である。医療界におけるプロフェッショナルオートノミーの理念や医師一人ひとりの医療事故に対する真摯な姿勢が認知されれば、必然的に国民からの理解と信頼が寄せられるはずである。
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   (事務局担当 情報企画課 下田)
担当理事 今任信彦(情報企画担当)・松尾圭三(広報担当)・寺坂禮治(地域医療、地域ケア担当)

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