医療情報室レポート
 

bP78
 

2013年2月28日 
福岡市医師会医療情報室  
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特 集 : “地域包括ケア”の現状と課題 −その2−

 地域包括ケアシステムが、医療・介護・予防・住まい・生活支援の5つのサービスを包括的かつ継続的に提供可能とする仕組みであることは前号で述べたが、施策上の大きな目標としては、「自立支援」をはじめとする介護予防の推進、そして「在宅医療」の機能強化といった2つが挙げられる。これらに関しては、いずれも2006年度の改正において、“介護予防事業”の創設等による予防重視型システムへの転換や、診療報酬上の“在宅療養支援診療所”設置など様々な具体的施策が打ち出されたが、制度の開始から6年が経過した現在、十分に機能している状況とは言い難い。地域包括ケアシステムには、これら2つの課題を克服する大きな使命が課せられてるといえるが、今回の医療情報室レポートでは、特に現場の視点に立ち、多職種がスムーズに協働できるポイントを探るとともに、地域包括ケアシステムの先駆的モデル事業といわれている「尾道方式」、「京都式地域包括ケア」の2つを紹介し、地域包括ケアシステム成功の鍵を考えてみたい。


地域包括ケアにおける“多職種連携”の課題
 地域包括ケアシステムは、医療・介護・福祉に関し、様々に異なる職種のスタッフが密接に連携を図ることが大きな前提となっている。このような背景を踏まえ、今回の診療報酬・介護報酬同時改定や介護保険法改正では、強化型在宅療養支援診療所や訪問介護・看護の巡回サービス創設といった「在宅医療」に重点を置いた改正が実施された。しかし、以前から、医療と介護のシームレスな連携については、その必要性が叫ばれてきたものの、制度の違いや各職種における意識の隔たり、また患者に関する情報共有の環境が整備されていないなど多くの課題が指摘されており、今後、十分な具体的検討が重ねられる必要がある。さらに、地域包括ケアシステムでは、サービスの提供範囲を“地域”に区切るとしているが、人口構成や生活環境等、地域の実状に応じて求められる体制や資源も大きく変わるはずである。
 「地域単位」、そして「多職種連携」を柱とする地域包括ケアシステムを成功に導くポイントは何だろうか。


先駆的モデル事業の紹介
 多職種による理想的な地域医療連携のあり方は、世界の先進国でも一つの課題となっているが、特に、開業医が個人で診療を行うソロプラクティスが基盤として根付いている日本では、真に実効性ある連携システムの実現に向けて大きな意識改革が必要となるのではないだろうか。
 ここでは、地域包括ケアシステムの先駆的モデル事業かつ成功事例として取り上げられることの多い、広島県尾道市の「包括的地域連携システム」と「京都式地域包括ケアシステム」の2つを紹介し、医療・介護の連携のあり方について考えてみたい。

○尾道市医師会「包括的地域連携システム」
 約15万人の市民が生活する広島県尾道市は、65歳以上高齢者が総人口の30%を超えており、従来から、高齢者の割合が高い地域となっている。(全国平均:約23%)
 「尾道方式」は、1994年、尾道市医師会が主体となって、医療と看護・介護連携のソフト部分の充実を盛り込んだ包括的医療ケアシステムの構築を目指すための基本コンセプトを策定し、多職種協働の具体的仕組みを確立した独自のシステムである。
 最大の特徴としては、急性期から回復期への転院時や在宅への移行時など、各ステージにおける「ケアカンファレンス」の実施の徹底が挙げられる。メンバーは、訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャー、ヘルパー等多数で構成され、患者や家族が同席することも珍しくない。
 また、カンファレンスの主催は主治医が中心で、既に2004年の時点で94.3%の医師がカンファレンスを主催したとされている。
 カンファレンスの開催にあたっては、極力時間的な負担を減らすため、ケアマネジャーが資料を事前に周到に準備し、原則、15分間という短時間で集中して終了させることとなっている。
 なお、尾道の連携システムを通じて医療と介護の包括的な提供体制整備に寄与した功績が高く評価され、2007年、尾道市医師会が第59回保健文化賞を受賞している。

○「京都式地域包括ケアシステム」
 京都府は、平成23年度に「京都式地域包括ケアシステム」を立ち上げ、行政たる京都府が主体となって、各自治体の取り組みを強力に推進する以下のような各種施策を進めている。

・総合交付金制度の創設、市町村の自主的な地域包括ケアへの取組支援
 財政面に関しては、事業開始当初の平成23年度、府全体で約58億円と巨額の地域包括ケア推進費を予算化し、そのうち約36億円を各自治体の取り組みを支援するための「地域包括ケア総合交付金」とした。交付金の目的としては、地域密着型小規模介護施設等の整備や高齢者向けサロンの設置等が想定されているが、その他、各自治体からの積極的なアイデアや構想を募っている。

・39団体の参画による「京都地域包括ケア推進機構」の設置
 地域包括ケアに関する事業検討の場として、京都府医師会館内に「地域包括ケア推進機構」を設置。「京都地域包括ケア推進機構」では、“オール京都体制”をキャッチフレーズに、医療・介護関係者はもとより、大学、弁護士会など39もの機関が協働・連携するチームケア体制を構築している。なお、高齢者(家族)と推進機構の調整役には「地域包括支援センター」が窓口として位置づけられており、情報サービスのワンストップ化を図っている。

・在宅医療の充実
 在宅療養中の高齢者に対し、体調急変時等のバックアップ病院を事前に登録できる「在宅療養あんしん病院登録システム」を全国に先駆けて稼働。万一の際の、早期診断や一時的な入院治療が可能となり、退院時には、かかりつけ医を含む在宅チームが連携して退院支援を行う。

・「あんしんサポートハウス」の創設
 介護認定が軽度で、所得も低く有料老人ホーム等に入居できない高齢者等の受け皿として、24時間の見守りや食事、介護サービス等を低料金で提供可能とする「あんしんサポートハウス」の展開を推進。平成25年までに500室の設置を目指す。

住まいにおける“医療”の役割
 地域包括ケアシステムでは“住み慣れた地域で暮らす”ことを本質としており、住まいについては既存の施設に囚われず、「住居とケア」を分離したサービス付き高齢者向け住宅についての取り組みが進められている。とはいえ、高齢者の生活と医療・介護は密接不可分であり、住まいの提供に関しても医療界からの積極的な関与が期待されている。
 ・高齢者住まいの整備
 高齢者住まいの確保に向け、国は10年間で60万戸の整備を目標にサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の整備を進めているが、その背景にはケア付き住居へのニーズの高さがある。特別養護老人ホーム(特養)の入所申込者は42.1万人いるといわれているが、そのうち、特養への入所の必要性が高いと考えられる「在宅で要介護度4以上」の申込者は6.7万人であり、入所申込者全体の57.6%に当たる24.3万人は要介護度3以下の中軽度者となっている。このことから、入所希望者の多くは必要に迫られてというよりは終の住処として、安心感が得られる特養の入所を希望していると推測される。そこで、外付けの医療・介護サービスを利用することにより、施設を利用しなくても地域での生活を可能とするサ高住の整備が進められているのである。
 国が推進するサ高住であるが、重度の介護が必要な入居者に対し、外付けのサービスで対応が可能かといった課題が指摘されている。 また、住宅供給業者によっては、サ高住の設置登録基準である「安否確認」・「生活相談サービス」といった最低限のサービス提供のみ となっており、入居者の容態急変時の対応に不安を抱える施設も少なくない。サ高住の整備が民間の住居提供業者中心に進められれば 在宅医療・介護サービスの提供が困難な住まいが整備される可能性がある。利用者が求めているのは“安心して最後まで住み続けるこ とが出来ること”であり、住まいを含むまちづくりに医療が関わっていく必要がある。

特別養護老人ホームの入所申込者の状況
(厚生労働省:報道発表資料(H21.12.22)より)

<医療情報室の目>
 今回の特集では、地域包括ケアシステムのモデル的事例として取り上げられることの多い「尾道方式」、「京都式」の2つを紹介した。特に尾道方式は、「ケアカンファレンス」を関係者の間に根付かせることによって、地域包括ケアの“核”ともいえる多職種間の連携や情報共有といった仕組みをスムーズに実現しているといえる。さらに、尾道市の殆どの在宅主治医がカンファレンスを主催しているという点からも、ケアカンファレンスという一つのシステムが尾道の医療・介護関係者の間に定着していることがわかる。同じ尾道市では昭和50年頃に公立みつぎ総合病院の医師が独自の包括ケアシステムを構築し、その中で「地域包括ケアシステム」という言葉が誕生したとされている。もしかしたら、尾道では医療・介護従事者にシステムの重要性が認識されていただけではなく、地域住民の間にも、ケアや医療に対する理解が古くから醸成されており、独自の風土も相まって現在の成功に結びついているのかもしれない。
 教育制度や組織が根本から違う多職種が連携するためには、お互いの文化が相互補完的であることを理解するとともに、連携を調整するコーディネーター的な役割を担う存在が必要である。地域保健・医療を通じて、住民の生活を支え地域社会の活性化に寄与してきた医師にこそ、その責務が課せられているといえるのではないか。
  福岡未来医療塾講演会のご案内

 日 時:3月27日(水) 19時
 場 所:福岡市医師会館 8階講堂
 講 演:「医療政策の動向と
              地域包括ケア」
     九州大学大学院医学研究院
      医療経営・管理学講座
          教授 尾形 裕也 先生
ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
   (事務局担当 情報企画課 下田)
担当理事 今任信彦(情報企画担当)・松尾圭三(広報担当)・寺坂禮治(地域医療、地域ケア担当)

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