医療情報室レポート
 

bP72  
 

2012年8月31日 
福岡市医師会医療情報室  
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特 集 : 准看護師制度を考える

 厚生労働省が発表した「衛生行政報告例結果の概況」によると、平成22年末における全国の就業看護師数は95万3,521人で10年前に比べ約1.5倍になるなど年々増加しているのに対し、准看護師は36万6,593人で平成16年以降減少傾向が続いている。これは受験者の高学歴志向に加え、近年の医療の高度化や専門化を背景に、看護職にもより高度な能力が求められている現状を反映しているものといえる。しかし一方で、准看護師課程の募集定員に対する応募倍率は平成21年から高まっており、平成23年の応募倍率は約3倍であったことを踏まえると、准看護師希望者が減少しているというより養成施設の減少によって就業者数が減っているとも考えられる。
 慢性的な看護師不足が叫ばれる中、昨今、看護師国家試験と准看護師試験の同一日実施の問題が取りざたされるとともに、神奈川県における准看護師養成停止の方針が公表されるなど、准看護師をめぐる問題について再び注目が集まっている。ここで改めて准看護師制度について考えてみたい。


准看護師の現状

○就業者数と准看養成校応募者数の対比
 右の図でわかるとおり、現に施設等で働いている就業看護師の数は年々大幅に増加しているが、一方で就業准看護師の数はこの10年間ほぼ横ばいで、平成16年以降は減少傾向にある。(図1)これは看護職の資格を目指す者が近年、高学歴志向に傾いている影響等により、高度化する医療に対応するため准看護師を経て看護師資格を取得する者が年間約1万人いることなどが大きな要因とみられる。
 しかし、准看護師試験の応募者数は、平成20年度以降急激な増加傾向にあり、平成23年11月に日本医師会が実施した「平成23年医師会立助産師・看護師・准看護師学校養成所調査」によると、医師会立の准看護師養成校への応募者数は平成23年には29,058人にまで増えている。これは長引く不況の影響等により、安定した雇用が見込まれる看護職への関心が高まりつつあるものと思われる。それにも拘わらず就業看護師数が減り続けている背景には、看護師養成校の数や定員数が減少傾向にあるためと考えられる。なお、平成23年の定員に対する入学者の応募倍率は約3倍と、過去6年間の中で最高倍率となっている。(図2)したがって、近年の就業准看護師数の減少は、養成校定員削減による准看護師課程への入学者減少の影響を受けた結果とも考えられる。


○入学者の最終学歴の変化
 准看護師課程の最終学歴における短大卒・大卒の割合は増加傾向にあり、平成23年度は18.8%であった。(図3)このことから、准看護師志望者の高学歴化は准看護師制度が社会人からの再チャレンジの際の受け皿となっていることがうかがえる。また、平成22年以降高校新卒の割合が増加しており、高学歴志向にあるといわれる現代においても、准看護師課程が看護職養成コースの1つとして重要な役割を担っていることがわかる。


○准看護師課程卒業後の進路
 准看護師課程卒業者の就業率は、医療機関に就業しながら進学する者を含め約75%となっており、准看護師課程卒業者が即戦力として地域医療を支える力となっていることがわかる。また一方で、進学率が4割を超えていることから、准看護師課程が正看護師へのキャリアパスという位置付けにもなっていることが読み取れる。(図4)

就業看護師・准看護師数(図1)
厚労省「平成22年衛生行政報告例結果の概況」より
准看護師養成定員数並びに試験応募者数(図2)
日医「平成23年度医師会立助産師・看護師・准看護師学校養成所調査」より
准看護師課程入学者の最終学歴割合(図3)
日医「平成23年度医師会立助産師・看護師・准看護師学校養成所調査」より
准看護師課程卒業後の進路(図4)
日医「平成23年度医師会立助産師・看護師・准看護師学校養成所調査」より

慢性的な看護師不足における准看護師の役割
 厚生労働省は「第七次看護職員需給見通しに関する検討会報告書」で平成23年から5年間に亘る看護職員に関する需給見通しを公表しており、平成27年には150万人余りの看護職需要に対し、ほぼ99%にあたる148万6千人の供給を見込んでいる。この予測からすれば、看護職員の供給が需要を満たすことはなく、依然として看護師不足は続くものと捉えられるため、EPA(経済連絡協定)に基づく海外からの看護師受け入れも期待通りの成果を上げていない現状等から見れば、准看護師の需要は続くと見られる。
厚生労働省
「第七次看護職員需給見通し」

○看護師と准看護師の就業場所別割合
看護職員の就業場所の現状を割合別に見てみると、看護師が病院74.1%、診療所12.5%であるのに対し、准看護師は病院46.4%、診療所32.8%となっており、特に地域医療を支えている診療所において、准看護師が看護職員として重要な役割を果たしていることがわかる。(図5)また、准看護師は今後ますますの人手不足が懸念されている介護保険施設等への就業割合も高い。この傾向は新卒看護師・准看護師の就業場所割合に顕著に表れている。(図6)
平成22年看護師・准看護師就業状況(図5)
厚生労働省:「平成22年衛生行政報告例」より
平成22年度新卒看護師・准看護師就業状況(図6)
厚生労働省医政局看護課調べ

今後の准看護師養成のあり方
 今年6月、神奈川県における准看護師養成停止の方針が公表され各所で議論を呼んだが、一方で、各地域における看護師国家試験と准看護師試験の同一日実施について、問題視する声があがっている。日本医師会は、今月8日の定例会見で、既に12都道府県で実施されている正看・准看の同一日試験実施に対し「合理的な理由がない」との見解を示した。厚労省は、経済連携協定(EPA)に基づき受け入れた海外からの看護師候補者が准看護師の免許を取得することを認めたばかりだが、同一日試験が今後他の地域で進むとすれば、その間口を狭めることにも繋がる。
 准看養成は、平成8年に正看との統合を図るとの提言が一旦はなされたが、現実には、看護職全体の3割近くに相当する約37万人もの准看護師がいずれかの施設で働いており、国の方針として一律に停止することは困難とみられる。しかし、7対1入院基本料が診療報酬に組み込まれて以降、各病院は看護師の確保を優先する傾向にあり、これに伴い准看護師の実習施設も減少しつつあるため、今後各都道府県の動向が注目される。
 今も准看護師が地域医療を支える大きな力となっていること、未だ看護師数の需要に供給が追いついていないことを踏まえると、早急な准看護師養成の停止は医療現場の混乱や更なる看護師不足の拡大を招く恐れがある。就業中の看護師に占める准看護師割合の地域差も考慮に入れ、准看護師養成のあり方を考える必要がある。

<医療情報室の目>
 准看護師制度が創設された昭和24年当時の女性の高校進学率は35%程度であり、高卒以上が条件である看護師国家試験を受ける資格を持たない者も多かったため、看護師不足になることが懸念されていた。そこで、「医師、歯科医師または看護師の指示を受ける」ことを前提に医療行為をすることができる、より簡易的な資格をつくり、人手不足を補うことを目的に准看護師制度が確立した背景がある。
 現代の高校進学率は男女併せて97%を超えており、その観点からいえば准看護師制度の当初の役目は果たされたともいえる。しかし、近年の准看護師課程入学者の割合を見ると、短大・大学卒業者の割合が増えており、准看護師制度が社会人からの再出発の受け皿として新たな役割を担っていることがうかがえる。また、全日制で養成される4年生大学や看護師3年課程は金銭的な負担が大きく、長引く不況の影響により、働きながら看護資格を取得することが可能な准看護師を志望する社会人が増えていることは周知の事実である。准看護師志望者の高学歴化は、准看護師制度を見直す必要性を示しているといえよう。
 超高齢化・少子化時代に突入した日本では、今後介護分野においてのマンパワー不足も懸念されており、一定水準の看護知識を備えている准看護師には医療機関における初期医療はもちろんのこと、在宅医療での介護リーダーとしての役割を担うことも期待されている。
 日本看護協会は医療の進歩とともに看護職に求められる知識や技術も高度化しており、看護師全体のレベルアップが必要との観点から准看護師養成停止や制度の廃止を求めている。しかし、医療全体が多様性を強め、看護職に求められる業務範囲も多岐に亘っている今、各医療施設によって求められる看護レベルも様々である。高度化された医療に対応できる看護師の養成も必要だが、幅広い看護需要に対応できる准看護師の養成も必要ではないだろうか。
 平成8年(1996年)の「准看護婦問題調査検討会報告書」は現状に即していない以上、この報告書の見直しが求められると共に、国には改めて看護職員の質と量の折り合いも考慮に含めながら、看護師確保に向けた議論を始めてもらいたい。
ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
   (事務局担当 情報企画課 下田)

担当理事 今任信彦(情報企画担当)・松尾圭三(広報担当)・寺坂禮治(地域医療、地域ケア担当)


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