医療情報室レポート
 

bP71  
 

2012年7月27日 
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1505・FAX852-1510 

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特 集 : 医療と消費税

 今年6月、衆議院で社会保障制度改革推進法案を含む消費税関連法案が可決され、今後の消費税率の引き上げが現実味を帯びてきた。政府はこれまで、消費税の増税分は全て社会保障の拡充に充てるとしていたが、昨今の修正協議等において、増税で浮いた一般会計からの補填分を公共事業の拡充に振り向けると受け取れるような動きもみられており、今後の動向を注視する必要がある。
 医療に関しては、従来より“控除対象外消費税”の取扱いが問題となっているが、これは診療報酬という公定価格が定められている医療特有の仕組み上、本来負担する必要のない消費税を医療機関が担っているところにある。いずれにしても、控除対象外消費税の仕組みが放置されたまま増税が現実のものとなれば、社会保障の充実を謳ったはずの政策によって医療の崩壊を招く恐れがある。
 今回は、控除対象外消費税の実態とその問題点をまとめ、控除対象外消費税解消に向けた方策を考察してみたい。


現状:医療と消費税のかかわり
 消費税は、社会政策的な配慮等によって一部課税対象とならないサービスや取引が存在する。
 一般的には、土地の譲渡や貸し付け、火葬料、学校教育などといった公共的性格の強いサービスが消費税の課税対象外となっており、医療に関しては、“社会保険診療”が非課税(健診や自由診療等は課税)とされている。
 通常、事業者は受けとった消費税から仕入れにかかった消費税を控除できるが、消費税の課税対象とならない取引については控除ができないため、事業者側はサービスの価格を設定する段階で、消費税相当分を価格に転嫁することがある。
 一方、医療機関での社会保険診療においては、“診療報酬”という公定価格が定められ前記のような措置ができないため、医薬品等の仕入れにかかった消費税の控除対象外分については、実質、医療機関が負担しているといえる。
○医療機関が負担する控除対象外消費税に対する国の対応
社会保険診療における消費税の仕組み
※日本医師会「消費税率アップが、私たち医療機関の負担アップにならないために」より転載
 国はこのような医療機関の負担を解消するため、控除対象外消費税分の補填として、医療機関に支払われる診療報酬の増額(上積み)を2回に亘り実施した。増額率は、消費税導入時の平成元年に診療報酬全体の0.76%、平成9年に0.77%となっており、国は合計1.53%の診療報酬上積みにより解決を図ったとしている。

○控除対象外消費税の医療機関負担の現状(日本医師会実態調査)
  実際に医療機関が負担している控除対象外消費税は、金額ベースでどの程度の規模になるのだろうか。日本医師会が過去に行った実態調査によれば、医療機関が負担している控除対象外消費税は、国全体で年間約2,300億円と試算されており、1施設あたりでは、私立医科大学病院が約3億6千万円、有床診療所が約430万円、無床診療所が約200万円などと試算されている。

○患者の認知度(日本医師会実態調査)
  日医は、医療機関に支払う一部窓口負担金が非課税であることについて、患者自身がどの程度認知しているのか調査を行った。その結果、『非課税と思う』と回答した割合は4人に1人となっており、国民の認知度があまり高くないことがわかる。
ひとことCommentary
  “控除対象外消費税”と“損税”
 医療関係者の間で消費税問題を語る際に、“損税”という言葉が使われるが、これは、医療機関が負担する控除対象外消費税から診療報酬の補填分(1.53%)を差し引いた、実質的な医療機関の自己負担部分の額を指している。正式な税制用語ではない。

問題点:医療における控除対象外消費税の実態

 前述のとおり、国は診療報酬上の補填を行い、医療機関が負担する控除対象外消費税を解消したとしている。しかし日本医師会の実態調査では、医療機関が負担している控除対象外消費税は社会保険診療報酬の2%以上に相当すると試算されており、国の補填分とされる1.53%を大きく上回っているとみられている。即ち、この差額分は医療機関が実質的に負担する“損税”にあたる(上コラムを参照)。さらに、国が行った診療報酬の上積みの際に対象となった項目は、数千にも及ぶ診療報酬の項目の内わずか36項目のみであるが、現在は多くの項目が包括化や減点、消失しているほか、もともと消費税と関係ない項目も対象に入っており、補填の仕組みそのものが不適切だとの指摘がある。
 これらのことから、現行制度が放置されたまま消費税率が10%に引き上げられた場合、医療機関に圧し掛かる“損税”の負担も倍になり経営に多大な影響が及ぶことが懸念されるが、日本医師会は、診療報酬による補填の仕組みはそもそも問題の解決にならないと指摘しており、根本的に控除対象外消費税が発生しない仕組みに改める必要性を強調している。

○参考:医療機関における控除対象外消費税
 右図は、“社会保険診療と自由診療をあわせた年間の売り上げが10億円の医療機関”を例に挙げ、控除対象外消費税の流れを具体的に示したもので、医療機関は仕入れに支払った2,000万円の消費税のうち、わずか200万円しか控除できないことがわかる。
 
医療機関における控除対象外消費税
※日本医師会「消費税率アップが、私たち医療機関の負担アップにならないために」より転載

控除対象外消費税問題の解消に向けて
 日本医師会は、控除対象外消費税問題の解消策として、社会保険診療を“非課税取引”から“課税取引”に改めるよう求めているが、患者側に新たな負担を生じさせないよう考慮し、かねてから“ゼロ税率”による課税取引に改めることを第一に要望している。ただし、現実的にゼロ税率の導入は困難との見方が大きく、次善の案として“軽減税率”による課税方法が実現の可能性があるのではないかと考えられているが、財務省は、日医などが提唱する非課税制度の見直しに否定的な見解を示している。
 一方で、診療報酬上の補填とは別の手当として、医療設備や建物など高額な仕入れに対する税額を、何らかの形で還付する特例措置の議論が行われている。諸外国の多くは、日本と同様に社会保険診療が非課税となっているが、設備投資に対する手厚い補助金などにより、医療機関の消費税負担問題が生じにくい医療提供体制と支援策の組み合わせが採られている。
 いずれにしても、現在の診療報酬上の補填は仕組みそのものに問題があるため、このような特例措置も含めながら、医療における課税のあり方を早急に考えていく必要がある。
○問題解消に向けた課税方法の比較
普通課税
 社会保険診療報酬を、普通税率(現在は5%)により課税。
 医療機関における損税問題は解決するが、患者側に相応の負担が生じてしまう。
軽減税率
 患者側の負担を少しでも軽減するため、医療機関に支払われる窓口負担金の税率を一般の税率(現在は5%)と区別し低く設定する。
 諸外国では、食料品など一部の生活必需品等に軽減税率を適用する複数税率の仕組みが導入されているが、日本では、抜本的な消費税の制度改革が必要となる。
ゼロ税率
 社会保険診療そのものは課税扱いとするが、患者窓口負担金にかかる消費税率を0%にする。
 ゼロ税率と非課税は、患者側の負担が生じないという点では全く変わらないが、医療機関にとっては仕入れに係る消費税を控除できるかできないかという大きな違いがある。



※今村聡日本医師会副会長講演「医業経営セミナー」配布資料より

<医療情報室の目>
 医療における控除対象外消費税の問題は、以前から日本医師会や病院団体等が仕組みの改善を求めているが、多くの医療者の間では、医療の公共性・非営利性等を理由に、損税の発生を黙認する傾向があるのではないだろうか。確かに、医療機関の規模や提供する医療の内容により影響は大きく異なるため、然したる関心を持たない医療者もいるかもしれない。しかし、現行の診療報酬による補填の仕組みは、上積みした額や項目の設定の甘さもさることながら、仕組みそのものに問題があることは明らかとみられる。国は今年3月の社会保障・税一体改革における税制改革法案において、医療機関等の消費税負担について定期的に検証し、課税のあり方を引き続き検証することを明記したが、今後、消費税が10%に引き上げられることを見据えれば、どのような形にせよ、患者と医療機関への影響が大きくなることは必至である。私たちは医療と消費税の関係にもっと強い関心を持ち、国民とともに抜本的な制度改革を求めていく必要があると感じる。
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   (事務局担当 情報企画課 下田)

担当理事 今任信彦(情報企画担当)・松尾圭三(広報担当)・寺坂禮治(地域医療、地域ケア担当)


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