医療情報室レポート
 

bP69  
 

2012年6月1日 
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1505・FAX852-1510 

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特 集 : 福岡市医師会と福岡県弁護士会とのパートナーシップ協議会

 平成19年2月、福岡市医師会と福岡県弁護士会は、互いの専門的知識の共有を図り市民へのサービス向上に繋げるため、「福岡市医師会と福岡県弁護士会とのパートナーシップ協議会」を立ち上げた。当初の活動の狙いは、近年増加傾向にある児童虐待や成年後見制度等へのより円滑な対応を目指すものだったが、発足からこれまでの間、多岐に亘るテーマについて協議を行い、会員向けの研修会や意見交換会の開催、各種情報提供等を行ってきた。
 医師と弁護士は、医療過誤訴訟などの場面で時として対立する立場にあり、同協議会のような組織的な取り組みは珍しいといえるが、各々が有する医療、法律両面の情報を共有することで組織としての連携が強化され、市民への新たなサービス提供の可能性が生まれる。
 協議会では、今後更なる活動の活性化を図ることとしているが、発足から5年という一つの節目を迎えたことから、これまでの活動を紹介する。


『福岡市医師会と福岡県弁護士会とのパートナーシップ協議会』とは?
 『福岡市医師会と福岡県弁護士会とのパートナーシップ協議会』は、両会が組織的に連携し、相互の専門的知識、研究成果等の情報交換により、それぞれの公的な職責の遂行と専門業務の円滑な運営を図るとともに、市民に対する公的サービスの一層の充実を図ることを目的としている。

◎設置に至るまでの経緯     ◎組織形態
 本パートナーシップ協議会の設置に向けて、医師会と弁護士会の間で平成18年10月から延べ5回に亘り準備会が開催された。準備会では協議会の基本要綱の策定や児童虐待に対する医師と弁護士の協力のあり方の検討、成年後見制度に関する医師・弁護士向けの勉強会の準備などが行われた。
 平成19年2月28日に福岡県弁護士会館にて「パートナーシップ協議会」の調印式を執り行い、医師会と弁護士会が組織的に協力する取り組みは全国的にも珍しいことから、翌朝の新聞4紙に採り上げられた。また、調印式同日に協議会活動の一環として「成年後見制度における鑑定書に係る講演会」を福岡市医師会館にて開催、福岡家庭裁判所の書記官並びに調査官を講師として迎え、鑑定書の役割等について講演を行った。
 福岡市医師会、福岡県弁護士会各5名の委員から成る幹事会を土台として、具体的な事案の検討は個別に設置している委員会(部会)で行っている。協議会設立当初は「高齢者障害者部会」と「児童虐待防止部会」が設置され、現在は「高齢者障害者権利擁護委員会」と「児童虐待防止対策委員会」と名称を変え活動している。その他、若手会員による意見交換会や相互相談窓口の設置に向けた検討なども行っている。
パートナーシップ協議会組織図
Column「弁護士会」について
 弁護士会は全国の各地方裁判所の管轄区域ごと(例外として東京のみ3つの弁護士会がある)にあり、その上部組織として日本弁護士連合会がある。日本では、弁護士として活動する場合は事務所を置く地域の弁護士会を通じ、日本弁護士連合会に登録することが弁護士法で義務づけられている。
 日本弁護士連合会は全国各地の弁護士会、個々の弁護士、沖縄特別会員等6つの会員種別から成り立っており、約3万2千名(福岡県弁護士会986名・平成24年5月1日現在)が所属している。因みに、日本弁護士連合会会長を除き役員の任期は1年間となっている。
 なお、弁護士会では前記の通り加入が義務づけられていることから、会員間での思想的な温度差が生じることもあり、例えば国政選挙などの際に組織としての方向性が一致しにくいことなどがいわれている。

これまでの主な活動
 協議会では平成19年2月28日の調印以降、医師・弁護士向け研修会の開催や「子どもの虐待防止月間」における市民への啓発など様々な活動を行っている。特に児童虐待に関しては、死亡事例を含む痛ましい虐待が繰り返されていることなどから、医師、弁護士、行政機関の協働による対策を図るために専門委員会を設置し、関係者向けの研修会等を重ねてきた。
− 「児童虐待」への対応 −

 近年社会問題となっている児童虐待に焦点を絞り、有用な対策等を検討するための下部組織として「児童虐待防止対策委員会」を設置している。児童虐待問題の他、妊産婦支援や医療ネグレクトなどをテーマにとりあげ、弁護士、医師、行政機関の役割についての研修会の開催や乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)に対する注意喚起を行うなど多岐に亘る活発な活動を行っている。

<児童虐待防止対策委員会構成メンバー>
小児科医・産婦人科医・精神科医、福岡県弁護士会、福岡子どもの虐待防止センター(※F・CAP−C)、福岡市子ども総合相談センター(児童相談所)

 ※F・CAP−C(Fukuoka Child Abuse Prevention Center)

  家庭内で起こる子どもの虐待を早期に発見し、必要なら介入、援助をするために創立された民間ボランティア団体。平成15年にNPO法人として認証を受ける。主な活動内容は電話相談や研修会の開催、弁護団による危機介入など。(代表:松本小児科医院理事長 松本寿通 医師)

・定例研修会の開催
(H20.3) 「医療ネグレクトを防ぐ 〜子どもたちの医療を受ける権利を守るために〜」
※68名出席
(H21.3) 「虐待死亡事例の検証結果から見える課題」
※59名出席
(H22.3) 「『こうのとりのゆりかご』を通して考える妊産婦の支援」
※69名出席
(H23.3) ※東日本大震災の影響により中止
(H24.3) 「児童相談の現状と課題 〜虐待対応の現場から〜」
※61名出席
− 「成年後見制度」への対応 −

 高齢化に伴い、認知症などで財産管理等の判断能力が不十分な人を支援する「成年後見制度」の鑑定が増えるものと見込まれている。しかし、鑑定を引き受ける医師は限られており、その内容、程度にもばらつきがある。また、精神科以外の医師が鑑定書を作成する場合に、“うつ病”や“せん妄”を認知症と誤認するケースが見られること等から、協議会の発足と同時に医師の知見拡大を目的に研修会を開催した。現在は、成年後見用の鑑定を引き受けていただける医師のリスト作成等について検討しており、家庭裁判所や弁護士会と情報共有を図ることで市民の利便性向上に繋げたいとしている。

・講演会の実施
(H19.3) 「成年後見制度における鑑定書に係る講演会」
※67名出席

− その他の活動 −

・「子どもの虐待防止月間」における協力活動
 国が定める「子どもの虐待防止月間(11月)」において、福岡市で開催される同月間に係る講演会や街頭キャンペーンでのチラシ、ティッシュ配付等の協力活動を行っている。

・治療費未払い問題に関する研修会の開催
 治療費の未払いは医療機関の経営難にも直結する問題で、低所得者層の増加や国民のモラルの低下、更には医療制度の変化に伴う患者自己負担額の増加等の影響により深刻化している。そこで、本会が行った未払い問題に関するアンケート結果の報告や実際に発生した事例を参考とした具体的な対処法などについての研修会を開催した。
<研修会>
(H20.11) 「治療費未払い 傾向と対策に関する研修会」
※256名出席

・若手会員による意見交換会の実施
 初の試みとして、平成24年3月に医師会、弁護士会相互の若手会員による意見交換会を実施した。忌憚のない意見を交わし、より密接な連携体制の推進を図ることを目的に、今後も年1回の開催を予定している。
今後の取り組みに向けて
○高齢者障害者権利擁護委員会の開催
 前身である「高齢者障害者部会」から名称を変え本年度より設置された委員会で、去る5月21日に第1回が開催された。委員の多くは実務担当者が就任している。第1回の委員会では成年後見制度や認知症の鑑定といった高齢者にまつわる事例などをテーマに年に2回の勉強会を開催することが決定、第1回の勉強会を9月に開催するとしている。
○“相互相談窓口”の設置
 医師会、弁護士会相互の会員が抱える様々な問題を解決するための一つの手段として、会員が気兼ねなく相談できる窓口の設置を検討している。想定される相談内容として、医師側からは医療訴訟関連や事業継承といった相続問題等、弁護士側からは医療制度に関する相談や認知症鑑定医の照会などが考えられる。
  窓口に相談があった内容や結果については両会にフィードバックすることとし、情報共有できる内容についてはレポートとしてとりまとめ、両会の会員に周知することなども想定しているが、そのことにより会員が窓口の利用から遠ざかることがないよう考慮することや本会の顧問弁護士への相談との棲み分けを図るなど、実施に向けた課題は残されている。


<医療情報室の目>
 「福岡市医師会と福岡県弁護士会とのパートナーシップ協議会」の設置から5年が経過し、研修会の開催、子どもの虐待防止月間における啓発活動への参加など、一定の実績を上げてきた。特に協議会の下部組織である児童虐待防止対策委員会の活発な活動は、行政、児童相談所、F・CAP−Cなど多様な関係機関との連携強化にも繋がっており、地域一体となった防止対策活動の推進に一役買っているといえる。協議会では、本義ともいえる“市民サービスの充実”を目指し、高齢者障害者権利擁護委員会での検討や相互相談窓口の設置に向けて更なる活動を図っていくが、実効的な組織として機能させるためには、両会会員の協力が不可欠である。
 今後の周知拡大や活動の活性化は医師会・弁護士会双方の協力体制強化にも繋がる。是非会員一人ひとりにパートナーシップ協議会の活動に関心を持っていただき、先例のない本協議会の取り組みが広く発展していくことを願ってやまない。
ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
   (事務局担当 情報企画課 下田)

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原村耕治(広報担当)・竹中賢治(地域医療、地域ケア担当)


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