医療情報室レポート
 

bP68  
 

2012年4月27日 
福岡市医師会医療情報室  
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特 集 : 『社会保障・税の番号制度』を考える

 国民背番号ともされる“番号制度”の導入については、これまでも何度か議論が繰り返されてきたが、今年2月、個人識別番号法案が閣議決定され、社会保障・税一体改革とセットとも言える「社会保障・税の番号制度(マイナンバー法)」の導入に向け動きが加速している。国は2015年の利用開始に向けて、現在国民向けのシンポジウムを全国47都道府県で順次展開しており、社会保障や税制の公平化、行政手続きの簡素化による負担の軽減など、国民のメリットを強調している。しかし、昨年11月に内閣府が行った国民意識調査では、制度の内容に対する国民の認知度は2割にも満たず、国民の理解を得るにはほど遠い状況にある。また、多くの国民が懸念する個人情報の漏洩や悪用については、政府は制度上・システム上の保護措置を講じるとともに、“第三者機関”の設置により対策を施すとしているが、個人情報の流出や改ざんといった報道が絶えない昨今の社会背景に鑑みれば、国民が安全性の担保に不安を抱くのも無理はない。
 今回政府が導入を目指す「社会保障・税の番号制度(マイナンバー法)」とはどのようなものなのか。現段階で示されているマイナンバー法の概要を整理するとともに、医療への影響等についても考えてみたい。


社会保障・税番号制度(通称:マイナンバー法)の導入背景とその概要
 
 ◎導入の背景
 今回の「マイナンバー法案」の閣議決定までの経緯については、平成21年12月、当時の鳩山政権下において纏められた「平成22年度税制改正大綱」において、社会保障・税共通の番号制度導入の必要性について言及されたことに始まる。大綱ではその必要性について、社会保障制度の効率化や所得税の公正性、正確な所得把握体制の環境整備が必要不可欠であるとされている。その後、政府は「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」、「政府・与党社会保障改革検討本部」、「番号制度創設推進本部」等での検討を重ね、今年2月の個人識別番号法案及び関係法律の整備法案等の閣議決定に至った。

 ◎“マイナンバー”という名称
 “マイナンバー”という名称は、一般公募の結果800件余りの応募の中から選ばれたものである。最終候補には「国民サービス番号」や「日本国民番号」などの提案も残ったようだが、“国民”という言葉が取り上げられなかった理由として、今回のマイナンバー法が住民票コードを軸とした仕組みになっているため、日本国籍を持たない外国人住民も付番対象者となること等に配慮されたものと考えられる。

 ◎制度の特徴
 我が国では2002年に住民基本台帳ネットワークシステムが導入され「住民票コード」が一斉に割り当てられた。社会保障・税番号制度では、この最も広く国民をカバーしているとされる「住民票コード」を対に新たな番号を生成し、全国民(中長期在留者や特別永住者等の外国人も含む)に付与することとなっており、機能面でも、現行の住基ネットや住基カード等のインフラを可能な限り活用・改良するとしている。住基ネットとの大きな違いは、社会保障・税番号制度ではより秘匿性の高い個人情報が扱われるとともに、各機関同士でのデータマッチング(個人情報の名寄せ・突合)が想定されていること等である。これらのことから、以下のような情報連携基盤の提供や第三者機関の設置等による安全対策措置を講じるとしている。

○「情報提供ネットワークシステム」の活用
各機関同士は、直接、“マイナンバー”による個人情報の照会・提供ができるわけではない。「情報提供ネットワークシステム」へのアクセスを介し、それぞれの機関が管理している同一人の情報を紐付けし相互活用することを前提としている。また、このアクセス情報は逐次記録されるため、国民は「マイ・ポータル」を通じて確認することができる。

○「マイ・ポータル」の提供
国民一人ひとりに提供され、特定個人情報をインターネット上で確認できるシステム。国民は自身の個人情報をいつ、誰が、なぜ提供したのかを確認したり、保険料等の納付状況を確認することができる。また、行政機関等への手続きを一度で済ませたり(ワンストップサービス)、行政機関等からのお知らせを表示する(プッシュ型サービス)機能も想定されている。

○「個人番号情報保護委員会」(第三者機関)の設置
「情報提供ネットワークシステム」や「マイ・ポータル」を通じて、情報漏洩や不正利用を防止するための監視・監督を行う機関。

○「個人番号カード」(ICカード)の提供
「氏名」「生年月日」「性別」「住所」といった基本4情報に加え、「写真」、「社会保障・税番号(マイナンバー)」が印字されたICカード。今のところ、全国民への交付が想定されている。
番号制度における情報連携のイメージ
(内閣官房:マイナンバーシンポジウム政府説明資料より)

 ◎運用開始までのスケジュール
 2014年6月 番号通知(個人にマイナンバー、法人等に法人番号を交付)
 2015年1月 マイナンバー運用開始(社会保障、税、防災等各分野のうち、可能な範囲から運用)
 2016年1月 情報提供ネットワークシステム、マイ・ポータルの運用開始

諸外国における番号制度の運用
 諸外国では既に多くの国が“共通番号制度”を導入しているが、その利用目的や運用方法は様々である。個人の所得や資産に関する情報の管理といった「税務」を目的とするものから、年金や児童手当など所得に応じた給付制度の施行を目的とするもの、また、全ての国民に対し、住民登録に基づき番号を付与する国もある。番号制度が国による国民の管理のための制度ではなく、国民サービスの向上や行政の効率化のための制度として機能している。
 以下の5ヵ国について、番号制度の利用開始年、導入目的、利用範囲、民間利用の状況をまとめてみた。

  アメリカ スウェーデン ドイツ オランダ カナダ
利用開始年 1962年 1947年 2009年 2007年 1964年
導入目的 社会保険料の徴収、受給者管理、給付 住民登録、それに基づく行政事務・サービス執行 税務管理の一元化による課税の公平性の確保 国、州、地方自治体の行政手続・サービスのワンストップ化 社会保険料の徴収、受給者管理、給付
利用範囲 税務、年金、医療、選挙等 特に制限はない 税務 全行政分野で利用可能 法令・政策上認めている範囲に利用可能
民間利用 制限はない
(銀行、保険会社、企業のマーケティング等で広く使われている)
制限はない
(銀行、保険会社、病院、学校等で広く使われている)
税務や社会保障を目的とする場面では、特定の用途に限り利用可能。その他の目的では利用禁止 税務や社会保障が目的の場合は利用可能。その他の目的では社会的便益を勘案して個別に法整備をしたうえで利用可能 本人に告知義務を課す民間利用は法で定められている。その他の利用は、禁止しないが利用自粛が求められている

番号制度導入に向けた今後の課題
 冒頭でも触れたが、“番号制度”に対する最大の課題はプライバシー保護、個人情報漏洩の対策である。しかし、現代のIT社会において100%安全な情報管理対策は現実には厳しい。政府も制度上・システム上の安全措置や第三者機関の設置等による監視など右図のような制度の構築を想定してはいるものの、番号制度の盲点を突いた不正申告や不正受給を完全に無くすことは難しいとしており、国民に制度を理解・納得させるだけの更なる安全対策の設計が求められる。

 ○医療分野への活用・懸念
 医療分野においては、今国会に提出されている「マイナンバー法」の対象に含まれていないが、政府が昨年6月に纏めた社会保障・税番号大綱では「機微性の高い医療情報については個別の法律を番号制と併せて整備する」としており、現在、厚労省は2013年の通常国会提出を目指し、医療分野における個別法の議論を開始している。
 これに対し、日本医師会は、公平性の担保に向けた所得や保険料を捕捉するシステムとして、その基本といえる番号制度の導入は必要だとする一方で、受診抑制等の管理医療に繋がる懸念など様々な問題があるとして、番号制度が社会保障の現物サービス給付に拙速に持ち込まれることを危惧している。
番号制度における安心・安全の確保
(内閣官房:マイナンバーシンポジウム政府説明資料より)

 <日医が提唱する医療分野における懸念事項>
(1)プライバシーの問題
   多くの国民は、自己の関知しないところで、自己の情報が収集・分析されることに対して肯定的には捉えない。
(2)個人情報保護の問題(法的な問題)
   医師の守秘義務と不均衡が存在する。
(3)受診抑制等の管理医療に関する問題
   所得の把握、社会保障に関する徴収額の把握が出来れば、現物給付の抑制・制限も不可能ではなくなる。

<医療情報室の目>
 政府は“マイナンバー”の運用により行政手続きの簡素化・利便性の向上、税収上の公平性の実現といった利点が生まれると主張している。しかし、大きな問題はプライバシー保護や個人情報漏洩に対する安全対策だろう。これまで繰り返し検討されてきた番号制度も、これらの問題に対する国民の不安が払拭されず、頓挫してきた経緯がある。今回の“マイナンバー”では、平成20年3月に出された住基ネットに係る最高裁合憲判決を踏まえ、高度な安全措置を講じるとしている。しかし、システムが複雑になるほど、結局は利用する国民の利便性は失われるのではないか。もう一つの大きな懸念は、今後、電子上の手続きが当たり前となり、行政や民間機関による個人情報の紐付けが容認される社会になった場合、無機質な管理国家を生み出す恐れも否定できない。
 “マイナンバー”の導入を拙速に進めようとする政府の真意はどこにあるのか。国のための“マイナンバー”ではなく、国民のための“マイナンバー”となるような制度の構築を求めたい。
[参考文献:どうする?どうなる!共通番号(日本経済新聞出版社)、マイナンバー(株式会社きんざい)]
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   (事務局担当 情報企画課 下田)

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原村耕治(広報担当)・竹中賢治(地域医療、地域ケア担当)


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