医療情報室レポート
 

bP65  
 

2012年1月27日 
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1505・FAX852-1510 

印刷用

特 集 : 年金問題を考える −その1−

 急速な少子高齢化による人口構造の変化が進む中、医療・年金・介護といった社会保障制度は抜本的な施策の改革が求められている。こうした中、政府は今年1月に「社会保障・税一体改革素案」を示し、将来に亘り持続可能な制度の再構築に向けて協議に乗り出した。とりわけ社会保障の柱とも言える『年金』に関しては、非正規労働者に対する厚生年金の適用拡大や最低保障機能の強化等が盛り込まれる一方で、支給開始年齢の引き上げや高所得者に対する給付額の見直しなど、公的年金の支給総額抑制に向けた内容も組み入れられている。
 『年金』は私たちの将来に関わる最も身近な制度の一つといえるが、反面、その仕組みや用語の複雑さが指摘されている。
 そこで医療情報室レポートでは、2回に亘り『年金』について特集することにした。今回は特に公的年金の種類や加入要件といった基礎的な部分を取り上げ、年金の概念や仕組みを紹介する。


年金制度の概要
 
◎現行制度のあらまし
 日本の公的年金制度は「国民年金(=基礎年金)」、「厚生年金」、「共済年金」の3種類に分けられ、国内に居住している20〜60歳未満までの全ての人は国籍を問わず「国民年金」への加入が義務づけられている。また、サラリーマンや公務員は「厚生年金」や「共済年金」への加入も定められるなど、職域により加入する年金制度が異なることから、被保険者は「第1号」から「第3号」の3つに分けられている。なお「国民年金」や「厚生(共済)年金」、任意選択制の上乗せ給付である「国民(厚生)年金基金」等といった階層的な給付の仕組みを称して「2階建て」や「3階建て」と呼ばれることもある。
 公的年金の支給開始年齢は原則65歳とされているが、それぞれの制度の特例措置により、受給年齢を選択できる場合がある。
年金の制度体系



第1号被保険者
対  象: 自営業者、学生、農林漁業者、国会議員、無職の方など [国民年金]
保険料: 月額15,020円(平成23年度現在)
※保険料は毎年見直され、平成29年度までに16,900円に引き上げられる。
第2号被保険者
対  象: @民間サラリーマン      [国民年金][厚生年金]
A公務員、私立学校教職員 [国民年金][共済年金]
保険料: 4〜6月の給与平均額に基づき決定した標準報酬月額に定められた保険料率を乗じて決定し、その年の9月から翌8月までの保険料を決定する。労使(個人と企業(共済の場合には国など))折半。
※「厚生年金」の保険料率は平成29年、「共済年金」の公務員共済は平成30年、私学共済は平成39年までの間に18.3%に段階的に引き上げられる。
第3号被保険者
対  象: 第2号被保険者の被扶養配偶者(但し、年収130万円未満の者) [国民年金]
保険料: 負担なし(厚生年金、共済年金からの拠出金で賄われる)

※1「国民年金基金」… 第1号被保険者のために、第2号被保険者との年金額の格差解消を目的として創設された任意加入の制度。
※2「確定給付年金」… 加入した期間などに基づいてあらかじめ給付額が定められている年金制度。
※3「確定拠出年金」… 拠出した掛金額を加入者の自己責任で運用する年金制度(「日本版401k」とも呼ばれている)で、運用如何に よって給付額が増減する。このところの低金利、株安により運用利回りはマイナスになっている場合が多いと もいわれている。

◎年金制度の歴史
 “公的年金制度”の生い立ちはそれぞれ異なる。民間労働者を対象とする「厚生年金」は、その前身とされる労働者年金保険法の制定を経て、昭和19年に「厚生年金保険法」として制度が開始された。当初の財政方式は制度の名が表すとおり、現役世代の加入者が自身の将来のために“保険料”を積み立てる「積立方式」(下記参照)だったが、戦後の激しいインフレに耐えられず制度は一時休止となった。その後、昭和29年に全面改定を行い再スタートしたが、財政方式については、高齢世代の給付を現役世代が賄うことを基本としつつ、保険料の一部を将来の給付原資として積み立てる「修正積立方式」となった。
 「国民年金」については、自営業者や農業従事者など厚生年金に加入できない人を救済するため「国民年金法」が制定され、国民皆保険制度が始まった年でもある昭和36年に施行された。財政方式は当初「積立方式」だったが、給付額の引き上げなど段階的な法改正を受け、「賦課方式」(下記参照)に移行された。
 このように現在の公的年金の財政方式は事実上の「賦課方式」となっており、「終身年金」、「物価や賃金に応じた給付額調整」、「国庫負担(税金)投入」などの特色が挙げられる。また、保険料全額の所得控除や、保険料の免除制度が設けられている等の税制優遇措置が与えられている。
 一方、私的年金は銀行や生命保険会社など民間が運営しており、自助努力型の年金といえる。一般的に「積立方式」であるため「受給年金額が明瞭」、「終身や確定年金など受給方法の選択が自由」といった特色がある。ちなみに、日本医師会が運営する「医師年金」も私的年金に該当する。

賦課方式(ふかほうしき)
 そのときに必要な年金原資を、そのときの現役世代の保険料でまかなう財政方式。「賦課方式」の場合、保険料率は基本的に年金受給者と現役加入者の比率によって決まるため、人口の高齢化が進むと現役世代の保険料は高額化していく。一方で、年金の給付水準は物価の上昇や金利の変動などの影響を受けにくい。(例えばインフレなどにより物価や給与が上がれば、現役世代が負担する保険料は増えるが、支給される年金も相応の物価上昇率を加味した金額が支払われる。)

積立方式(つみたてほうしき)
 将来の年金給付に必要な原資を、あらかじめ保険料で積み立てていく財政方式。「積立方式」の場合、将来の受給額ははっきりしており、人口の高齢化が進んでも保険料が高額化することはない。一方、保険料の運用収入を見込んで保険料を決めるため、物価の上昇や金利の変動など経済的要因の影響を受けやすい。(1,000万円の積立をした場合、将来その金額を受け取ることは出来るが、受給時の物価が当初の2倍になったとすると、受給年金の実質的な価値は半分の500万円相当に目減りする。)

◎公的年金における給付
 年金は一定の年齢に達したときに支給される「老齢年金」、病気やけがにより障害者となった場合に支給される「障害年金」、死亡した際に遺族に支払われる「遺族年金」がある。
国民年金 厚生年金 共済年金 概  要
老齢年金 老齢基礎年金 老齢厚生年金 退職共済年金 原則25年以上の加入が受給資格となっており、40年の加入で満額支給の資格を得ることが出来る。加入年数は保険料納付済期間+保険料免除期間+合算対象期間で計算する。(※合算対象期間:ある特定の期間で国民年金に任意加入できる人で加入しなかった期間等。25年の資格を計算する場合のみ使用する)
障害年金 障害基礎年金 障害厚生年金 障害共済年金 障害基礎年金は障害等級1級・2級、障害厚生年金及び障害共済年金は同1〜3級の状態にあるときに支給される。支給を受ける為には@保険料納付済期間+保険料免除期間が初診日の前々月までの全期間の3分の2以上あること、A初診日の前々月までの直近一年間に保険料の滞納がないことのどちらかの条件を満たす必要がある。
遺族年金 遺族基礎年金 遺族厚生年金 遺族共済年金 被保険者が亡くなった時、その方によって生計を維持されていた遺族に支払われる。但し、支払われる対象が年金制度によって異なり、遺族基礎年金は「18歳到達年度の末日までにある子(障害者は20歳未満)のいる妻」又は「子」に、遺族厚生年金及び遺族共済年金は「@配偶者または子、A父母、B孫、C祖父母の中で優先順位の高い方」に遺族年金が支給される。
※国民年金の場合、障害年金及び遺族年金は支給額が固定されている。一方、厚生年金及び共済年金は加入年数等により支給額が変動するが、加入歴が25年に満たない場合には25年加入とみなすなど一定額の年金が保障されている。

世界の年金制度の歴史

 現代のような社会保険制度の仕組みが最初に整備されたのは、1889年、ドイツのビスマルク宰相により制定された障害・老齢保険法であると言われている。1891年には労働者年金保険制度が発足、以後社会保険方式による社会保障は急速に近隣諸国へ広まっていった。1929年に始まった世界大恐慌により失業者があふれ社会不安が増大していくと、各国は社会保障に力を入れていく。1935年、アメリカではルーズベルト政権がニューディール政策の一つとして制定した社会保障法(Social Security Act:医療保険制度の創設が見送られるなど社会保障としては不十分であったが“社会保障”という言葉が初めて使用された法律であった)により、民間労働者向けの公的年金制度が整備された。イギリスでは1942年に「ゆりかごから墓場まで」のスローガンで有名なベバリッジ報告を公表、最低限の生活を保障する全国民を対象とした社会保障構想が打ち出され、1948年に国民年金制度が成立した。第二次世界大戦後は戦後の復興に伴う経済成長の流れを受け、公的年金を含む社会保障の拡大や完全雇用の実現を図り、国民の福祉増進を目標とする福祉国家が登場するようになっていった。
Column「ねんきんネット」

インターネット上で年金に関する様々なサービスが利用出来るサイトで、日本年金機構が提供しています。 (http://www.nenkin.go.jp/n_net/index.html

【主なサービス】
・年金加入記録照会
自身の年金加入記録の確認が出来る
・年金見込額試算
様々な条件を入力することで、将来受給する年金の見込額が試算出来る
・国民年金死亡者記録検索
国民年金の紙台帳とコンピュータ記録に不一致がある記録のうち、亡くなられた方の記録を検索出来る。検索結果を年金事務所等の窓口に提出すると、その記録の持ち主に支払われるべき年金を、遺族が受け取れるか審査される
・私の履歴整理表
これまでの勤務先、住所等を入力することで個人の年金記録を手軽に作成することが出来る。本人用と夫婦用の2種類がある


<医療情報室の目>
 厚生労働省の平成21年国民生活基礎調査によると、年金は高齢者世帯の収入の7割を占め、6割の高齢者世帯が年金収入のみで生活しているとのデータが出ており、公的年金制度は国民生活に不可欠な役割を果たしているといえる。公的年金制度は社会保障の柱の一つであり、国民皆保険同様決して破綻させてはならない制度であろう。しかしながら本格的な少子高齢社会と成熟した低成長経済においてはその財政が圧迫され、安定的な財源確保が急務になった。このことから、政府は俗に言う「100年安心プラン」による年金制度改正を2004年に行い財政安定化を図ったが、早くも破綻を来しているとの声も聞こえ始めている。次号では日本の年金改革の歴史並びに現在検討されている年金改革案の検証を行い、今後の年金制度のあり方を考察する。
ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
   (事務局担当 情報企画課 下田)

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原村耕治(広報担当)・竹中賢治(地域医療、地域ケア担当)


  医療情報室レボートに戻ります。

  福岡市医師会Topページに戻ります。