医療情報室レポート
 

bP57  
 

2011年5月27日 
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1505・FAX852-1510 

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特 集 : 医療と政治の関わり −医政活動の意義−

 政治活動について語るとき、医療界においては「医政なくして医療なし」といわれることがある。これは現在の医療提供体制が、政府(厚労省)が定める「医療制度」の下で行われており、政治との関わりなくして医療制度の改善を成し遂げることができないことを表現したものといえる。医師会における医政活動は、国民医療における様々な政策提言や警鐘、選挙時における議員の支援活動など多岐に亘っている。一方、特に選挙活動に対する反感により、医政活動には非協力的な会員も徐々に増えてきている現状がある。
 医療崩壊が叫ばれる昨今、我々は医政活動の本質を再認識し、これまで以上に国民のためとなる医療制度の確立へ向けた活動が必要となる。今回は医政活動の意義についてまとめた。


日本医師会の医政活動
 日本医師会は医療・保健・福祉の推進および医療政策の提言を行っている団体であるが、かつては保険医総辞退や一斉休診といった強攻策を敢行した歴史もある。当時は社会保障の充実よりは産業政策が優先されており、医療保険制度や診療報酬のあり方はまさに政治活動を通さなければ改善される見込みのない状況だったためである。そのため、このような日本医師会の強い政治活動が、国民やマスコミに対し、政治団体、圧力団体とのイメージを強く植え付けることになったが、当時は会員一丸となって医政活動を行っていたともいえる。
 現在では、日医の医政に関する活動は選挙協力だけでなく、平成9年に「日本医師会総合政策研究機構」を設立し、科学的根拠に基づいた「医療のグランドデザイン」を策定するなど国民の目線に立ったより良き医療政策の実現に向けた具体的な施策を提言している。

『医師連盟』について
○「福岡市医師連盟」の成り立ち

 「福岡市医師連盟」の始まりは昭和8年の「福岡市医政連盟」であり、健保問題や国保問題を自由に論じ、政治面でも活発に活動することを目的に結成、昭和16年に一度は解散したが、戦後、政治活動の必要性から「福岡市医師連盟」として再結成(公的記録では昭和23年の臨時総会の議事報告が最初となっている)された。
 「政治的信条や立場の違いを越えて、医師会員の医業経営の安定と国民医療の健全な発展を目的に、国政・県政・市政に直接的な働きかけを行う」ことを基本理念として掲げ、継続的な啓発活動を行っている。
 公益法人たる医師会では選挙支援などの政治活動が制限されているため、側面から支援する政治団体として、「医師連盟」が昭和23年に組織された。日本医師連盟は、6万3千人の連盟員を抱え、相互の全国的連携・協調の下、日本医師会の目的を達成するために必要な政治活動を行うこととしている。近年は、特に若手会員の間で医師会における政治活動の必要性の認識が希薄化していることから、全国の医師連盟の中で若いリーダーの育成や政治に志のある医師の育成を図るため、「日医連医政活動研究会」を平成22年10月に立ち上げ、各都道府県医師連盟から2名の会員を選出し、国会、県議、市議レベルでの各種政治活動を展開することとなっている。
 一方、福岡市医師連盟においては、上部政治団体である「福岡県医師連盟」、「日本医師連盟」と三位一体となった活動を続けているが、現在の連盟員数(A会員)は840人、加入率は72%となっており、この数値は県医連(84%)、日医連(75%)のそれを大きく下回っている。医療制度を始めとする「国民の健康」を守る枠組みやシステムをより良いものに構築していくためには、まず地域の会員が医療人としての使命の下に一致団結して行動することが重要であり、すべての会員に医政活動への理解を求めている。

医療関連政治団体
 全国には様々な政治団体が存在しており、各団体、母体組織においてそれぞれの理念や課題は異なるものの、特定の政党・政治家の支援や政治上の主義・主張の展開に向けた政治活動を行っている。ここでは主な医療関連の政治団体を紹介する。

日本医師会総合政策研究機構の役割
 日本医師会総合政策研究機構(日医総研)は平成9年4月に発足し、日本医師会の医療政策提言を側面からサポートするシンクタンクとしての役割を担っている。それまで医療に関する調査機関はなく、厚生省の統計情報部のデータを基に政策提言を行うしかなかったが、当時の坪井栄孝日本医師会長は自前のシンクタンク設立の必要性を訴え、日本医師会は独自の調査・研究機関を持つことになった。これにより、日本医師会は政府へ科学的な根拠に基づいた説得力ある医療政策を提示することができるようになった。

 <日医総研の設立目的>
  1)国民に選択される医療政策の企画・立案  2)国民中心の合意形成過程の創出  3)信頼ある情報の提供

 日医総研が取り扱うテーマは医療費問題、医療政策の検証、他国との医療形態の比較など多種多様に及んでいる。医療の現状を把握する際の貴重な資料となっており、是非参考にしていただきたい。

   日医総研ホームページアドレス http://www.jmari.med.or.jp/

医政活動の意義・理念
意義
安心と安全を確保できる医療制度の確立と発展
安全で質の高い医療を提供できる医療環境の整備
社会保障の諸施策に医療現場の声を反映させる
理念
医政活動における選挙活動は国民のための医療、国家的立場に立脚した医療という日本医師会が目指している医療政策を政治の場で反映させ、実現するための手段
医政活動は思想運動ではなく医療従事者の生活闘争であり、より良い医療の確立には団結と積極的な運動が大切
活動
地域住民・国民に対して、医師会が目指す在るべき医療制度の姿について、日常的に啓発活動を行い、理解を深めてもらう
医系議員、地元選出議員への現場意見の説明
より良き医療政策の提言
医療に精通している人、医療に理解を示す人を医療現場の声の代弁者として国政の場に送り出す
連載Column「政治家になった医師」vol.1

      後藤 新平 (1857〜1929没)


 本コラムは、今回より医師でありながら政治の世界で活躍した人物を紹介いたします。第1回目は関東大震災(1923年)において、帝都復興院の創設等をはじめ、陣頭に立って復興に尽力したことで有名な後藤新平です。
 後藤新平は明治から大正時代に活躍した政治家で、現在の岩手県奥州市に生まれました。須賀川医学校を卒業後、医師として愛知県病院に赴任、岐阜事件(1882年)では負傷した板垣退助の手当てもしています。その後、内務省衛生局長、台湾総督府民政長官、逓信大臣、内務大臣、外務大臣等様々な要職を歴任し、公衆衛生、都市政策など多くの事業に業績を残しました。
 形式に囚われず、大胆な発想により打ち出される政策は「大風呂敷」と揶揄されることもありましたが、その強烈なリーダーシップは現代の政治家にこそ求められる素質であったと高く評価されています。

<医療情報室の目>
 我が国の医療が崩壊の危機に直面しているとの認識はすべての医療関係者が抱えているところであるが、一方で、いわゆる“医政活動”に関心を持たない医師が増えている実態もある。とりわけ現在の混沌とした政局に鑑みれば、より良い医療制度を構築し、国民の健康を守るために、私達医療を担う者の主張や活動はこれまで以上に必要になってきている。そのためには、地域医療の担い手である医師及び医療関係者が、医政に関心を持ち、医政活動に参加し、政府に働きかけていくことが重要である。そして医療に深い理解を示す代表者を一人でも多く国政・県政・市政の場へ送り、医療現場の意志を反映させる医政活動が必要不可欠であり、ただ手を拱いて不満と批判ばかりしていても大きな医療政策の流れは変えられない。ひとりひとりの声では届かない大きなうねりの中、医連という組織の中に会員の声を結集してこそはじめて力となり得る。
 かつて、故武見太郎元日本医師会長が「医師会員の3分の1は放っておいても勉強して進歩する医学についていき、それを国民に還元できる人。3分の1は指導者によりどちらにも行く人。残りの3分の1は“欲張り村の村長”で自分の利益にしか興味を持たない人」と表現したように、自らは医政からは目を背け、望ましい政策の恩恵に預かるだけの医師こそ“欲張り村の村長”と批判されても仕方がない。
 医師会員の支持政党も様々かもしれないが、小異を捨て大同につき、会員が一丸となり我が国の医療提供体制の確保に向けて動く必要がある。
 医療崩壊は10年、20年先の問題ではなく目前の問題である。会員一人ひとりが、自身の問題として“医政”に向き合わなければならない事態に至っていることを自覚する必要があるのではないか。
ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
   (事務局担当 情報企画課 下田)

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原村耕治(広報担当)・竹中賢治(地域医療、地域ケア担当)


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