私ももう80歳になってしまった。3年前に脳梗塞になったが、救命センターで一命を取り留めた。右半身はもう動かないものと諦めていたが、嬉しいことに脳細胞再生医療とリハビリによって杖で歩行できるまで回復できた。車いすだったら、自宅で独り暮らしは難しかったと思うが、3年間はホームヘルパーが1日に一回来るだけで、なんとか暮らしていけた。しかし、やはり徐々に弱ってきて要介護「1」になった時点で福岡介護局から高齢者マンションへの入居を勧告された。住み慣れた自宅を売るのではなく、リバースモーゲージ(※)にしてその収入で高齢者マンションの入居費用が相殺されるファイナンスを介護局が作成・運営してくれた。このマンション、福岡市中央区にあって築40年、平成2年のバブル経済のころに建てられたものだが、新築のように見える。古い建物を改装するリノベーション技術が進歩したためで、車いすでも問題なく生活ができる。若者の減少にともない介護職員も減っているのは仕方がないが、日本独自のロボット技術の進化によって、本当の人間と見分けのつきにくい介護ロボットが力仕事をするようになった。医師や看護師は人間だが、トイレや風呂の介助、認知症患者の見守りはロボットでも問題なく可能なようだ。息子夫婦はこのマンションから20kmほど離れた郊外に住んでおり、10年前から実用化された飛行自動車に乗れば20分ほどで行き来ができる。
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平成36年から始まった医療介護保障制度によって75歳以上の高齢者は自己負担なく医療介護を受けることができる。昔、老人医療費無料化というものがあり、自己負担がないと病院が老人のサロンのようになり、不必要な受診や、行き場のない老人が長期間入院することが問題となっていた。いまは医療介護保障制度では自分たちのための制度という事がよく理解されており、限られた資源である医療介護を無駄に使う高齢者は皆無である。どんな制度もそれを使う人のモラルが重要という良い例であろう。ところでこの高齢者マンションは入居者の8割が女性である。再生医療技術やアンチエイジング技術が進化し、80歳近くになっても昔の40、50歳ぐらいにしか見えない女性も多い。当然、数が少ない男性は人気が出る。最近は人生100年が当たり前になってきたので、私もあと20年は楽しい生活がおくれそうだ。
(※)リバースモーゲージ‥‥保有している住宅や土地などの
不動産を担保にした融資のこと。元金の返済や利息の支
払いは基本的に必要なく、死亡時に不動産を処分して一
括返済する形となる。
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