医療情報室レポート
 

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2010年3月26日  
福岡市医師会医療情報室  
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特集 : 平成22年度診療報酬改定その1〜経緯〜
 

  昨年8月の衆院選で民主党が圧勝し政権交代が実現した結果、平成22年度の診療報酬改定は、中央社会保険医療協議会(中医協)の委員から日医執行部が外される等、政治主導が前面に出て、従来の手法から大きく様変わりした。
 改定率は、小渕政権下の平成12年度改定以来10年ぶりとなるネットで0.19%のプラス改定となったが、その幅は民主党が掲げている「OECD加盟諸国並みの医療費確保」には程遠い。
 今回の改定では、入院においては、救命救急センターや二次救急医療機関、小児・周産期医療の評価充実、手術料の大幅引き上げ等、急性期医療が重点的に評価された。外来においては、200床未満の病院の再診料が引き上げられた一方、診療所の再診料は引き下げられ、開業医にとって厳しい改定内容だが、加算項目の新設により、診療所の再診料引き下げをカバーする形となった。厚生労働省は今月5日に平成22年度診療報酬改定を官報告示し、来月より新診療報酬が適用される。今回は、民主党新政権の下で、日医、政府、厚生労働省、その他関係団体が論戦を繰り広げた診療報酬改定率決定までの経緯と改定の告示までをまとめた。

平成22年度改定までの経緯
中医協における改定の基本方針
平成21年12月、中央社会保険医療協議会(中医協)は、我が国の医療費が国際的に見て低水準にあるにもかかわらず、医療現場の努力により質の高い医療が維持されてきたとした。また、前回の改定は、医療現場の疲弊・医師不足等の課題が指摘される中での改定であったが、これらの課題が必ずしも解消しておらず、我が国の医療は未だ危機的状況にあることを示した
このような状況を踏まえ、今改定の重点課題を(1)救急・産科・小児・外科等の医療の再建、(2)病院勤務医の負担の軽減(医療従事者の増員に努める医療機関への支援)とし、改定の視点として以下の4点をあげた。
日医の要望とその論拠
平成14年度改定以降、改定率は連続して引き下げられている。その結果、医療機関は厳しい医業経営を強いられており、それが医療崩壊を招く一因となっていることは明らかである。
政権与党は対GDP比の医療費をOECD加盟諸国平均まで引き上げるとしている。その為には医療費を10%引き上げなければならない。
医療は急性期・回復期・慢性期・通院・在宅医療等、どれかひとつが綻びても国民は行き場を失ってしまう為、地域医療全体が健全化し、より連携を強めることができるようにしなければならない。
経済環境・雇用環境に回復の兆しが見られない中、国民が早期受診を控えている可能性がある。
社会保障は平時の国家安全保障であるとの認識の下、大胆な医療政策に転換し医療再生を実現しなければならない。
改定率と医療費の数年の推移
診療報酬改定率は当時の経済状況を勘案して設定されて来たが、改定率は、実際の医療費の伸びを構成する要素の1つである。医療費の伸びは、改定率以外に人口の増減、高齢化率等の人口構成の変化、診療報酬以外の制度改正の影響、医療の高度化等、様々な要因が影響する。
改定率は前年の医療費と当年の予測される医療費との比率であるが、改定率を決定する際に使用される当年の医療費は予算であり決算ではない。
  また、医療費は改定があった次年度には医療機関の改定内容に対する体制整備等の理由により上昇傾向にある。しかし、平成20年度改定においては、医療機関が改定内容に対して体制を整えても、医療費を上昇させる要因となる改定内容は少ないのではないだろうか。
例えば、改定率決定の際に改定率のみが医療費の動向にインセンティブを与えると仮定する。(表−1)を見てみると、平成19年度医療費の対前年度比は3.1%であり、平成20年度改定率はマイナス0.82%である。これは平成20年度医療費の対前年度比を2.28%にすることを目標にするものであったが(3.1% − 0.82% =2.28%)実際には医療費は対前年度比1.9%にまで抑えられ、これは予測と比較して0.38%低くなったと解釈できる。ここに高齢化率等の医療費の自然増(ここ10年は医療費ベースで約2.5%〜3.0%増加傾向)の要因があることを加味すると、平成20年度改定は改定率マイナス0.82%により数字以上の医療費抑制効果があったことがわかる。粗い概算ではあるが、過去の改定も同様の方法で検証が可能で、これは改定率を決定する際のマクロ的なアプローチとして有用ではないだろうか。厚生労働省・中医協は、診療報酬改定に伴う項目毎の検証を行っているが、シーリングありき、財源付け替えの改定ではなく過去の改定と医療費の動向を十分に検証し、医療現場の実情に沿った診療報酬の設定を最優先すべきである。
診療報酬改定の告示
平成21年の秋口時点では、政権与党は10%以上の改定率引き上げを目指していたが、財政難や子ども手当等の財源不足から、財務省は「デフレ下において引き上げはあり得ない」と20年度改定に引き続き薬価を中心に医療費全体の引き下げを実施する方針を示した。 〜診療報酬の決定と中医協の歴史〜
  我が国の診療報酬は政府が決定している。その歴史は1927年(昭和2年)の健康保険法施行まで遡り、当時は、支払側と診療側との契約によって決められていた。
 1943年(昭和18年)に、日本医師会・健康保険組合連合会・国民健康保険組合等の関係団体の協議の上、厚生大臣(現:厚生労働大臣)が決定するシステムに変更され、1944年(昭和19年)に、学識経験者を含む「社会保険診療報酬算定協議会」が設置された。そして、1950年(昭和25年)に、「社会保険診療報酬算定協議会」と保険診療の指導・監督を行っていた「社会保険診療協議会」が統合される形で、中央社会保険医療協議会(中医協)が誕生した。
 診療報酬改定率の決定は、1970年代当初に、物価・賃金の変動に対応させるスライド方式を採用していたが、その後、1980年代から、予算の元締めである大蔵省(当時)の意向が大幅に反映されるようになり、国の医療費抑制策が本格化していった。それ以降、国家財政が捻出可能な財源の範囲内での改定が慣例化し、1980年〜90年代初頭のバブル景気と、バブル崩壊後のデフレの状況下においても、診療報酬の改定率は引き下げられてきた。その底流には「市場原理主義」の考えが一貫してあったと言える。
政務三役は診療報酬改定分として改定率で、約4%引き上げ相当を来年度予算で概算要求し、足立厚労政務官は、「本体部  分は1.73%前後の引き上げを求める」と言及した。
しかし、実際は本体部分1.55%の小幅な引き上げで決着し、また、この年末の予算編成過程において、今回初めて、閣僚折衝の段階で改定財源を入院に4,400億円(うち約4,000億円は急性期入院医療)、外来に400億円配分することが決定された。政権与党は、官僚依存からの脱却を目指し「政治主導」をアピールしているが、まさに「財務省主導」の下、中医協は診療報酬配分の大枠まで決められてしまい、その存在感は一気に低下した。
<医療情報室の目>
 政権交代後初めてとなった平成22年度診療報酬改定は、入院4,400億円、外来400億円の財源配分が初めて政府側で決定された。診療報酬配分の段階で財源の大枠が決められるという出来レースの結果、具体的な点数付けの場面でも、中医協が議論する余地が少なく存在感が薄れてしまった。鳩山内閣は、これまで日医が政権与党に診療所優遇を働きかけて来た結果、病院勤務医が冷遇されてきたとする勤務医と開業医の対立構造を作り上げ、中医協からの日医執行部外しという暴挙に敢えて踏み切った。診療報酬財源4,800億円の内、入院に4,400億円、外来に400億円を充てる道筋は、中医協からの日医外しの段階で出来上がってしまっていたと言っても過言ではない。また、医科1.74%引き上げに対する歯科2.09%の引き上げについては、夏の参院選での民主党支援を表明した日本歯科医師連盟の動きに敏感に反応した小沢一郎民主党幹事長の「ツルの一声」の効果ではないかとの報道もある。
 改定の内容については、改定率の大幅引き上げが実現されなかったことや、診療所の再診料引き下げというマイナス要因から、実質ゼロ改定ではないかとの声もある。「ネットで改定率0.19%引き上げ」は医療現場に光明をもたらす程のものではなかった。衆院選前、民主党がマニフェストの中で謳った「医療崩壊を食い止め、国民に質の高い医療サービスを提供する」に対し、医療現場はもとより、医療崩壊の被害者である国民は大きな期待を寄せていたが、政権交代後、改定率決定までに至る中で、診療報酬の配分が「事業仕分け」の対象となる等、医療費増額の公約は大幅にトーンダウンしてしまった。
 診療所の再診料が引き下げられた代わりに「地域医療貢献加算」や「明細書発行体制加算」の項目が新設され、また、「事業仕分け」の結果を踏まえ、検査・処置の項目を適正化するとなったが、これらが今後の医療現場にどのような影響を与えるかは、しばらく様子を見る必要があるだろう。いずれにせよ、「医療崩壊を食い止める」とした政府の公約が履行されるよう、「病院・診療所の開設者の医師8万5千人、勤務医8万人」を代表する組織である日医は、医療政策の提言等、引き続き国政への積極的な働きかけを行い、日々、地域住民と向かい合っている郡市医師会も、医療現場でのエビデンスを活用し、国民の理解と共感を得られるような医療の姿を示していかなければならない。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・竹中 賢治(地域医療担当)・徳永 尚登(地域ケア担当)


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