医療情報室レポート
 

bP42  
 

2010年2月26日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集 : 職場におけるメンタルヘルスケア〜その1〜
 
 
近年、メンタルヘルスの不調が出現する要因は多様化しており、従来までの対応や治療法では十分と
言えず、メンタルヘルスケアへの新しい対策が必要とされている。

  経済のグローバル化に伴う企業間競争の激化・経済効率の追求等を背景に、近年、社会の様々な分野で構造改革が進められ、企業や労働者の労働環境が大きく変化している。このような状況の下、職場において強い不安、ストレスを感じる労働者は増加傾向にあり、休職や退職、さらに最悪の場合には自殺にまで追い込まれるケースが跡を絶たない。昨今の世界同時不況はこの傾向に拍車をかけ、労働者のこころの健康問題は、職場にとって大きな課題となっている。
 うつ病に代表されるメンタルヘルスの不調は、職場の上司・同僚や周囲との人間関係、過重労働や過大なノルマ、配置転換や職場への不適応、また家庭での家族間の問題等がストレスとなり、身体にも症状が出現する病気で、その治療には職場と医療側との緊密な連携が特に求められる。
 今回は、社会現象とも言えるメンタルヘルスの問題について、社会を取り巻く現状、身体やこころ、そして職場への影響や我が国での対策などをまとめた。

メンタルヘルスの不調とは?
社会情勢と現状
1990年代のバブル崩壊後に、大規模なリストラ、市場のグローバル化、年功序列・終身雇用の崩壊、派遣社員等の非正規社員の増加による雇用形態の変化等の様々な要因により、労働者のストレスは増加している。また、近年のサブプライムローン問題から端を発した世界金融危機や、ドバイショック、我が国における継続的なデフレ傾向等の経済不安により、企業はさらなる人員削減を進めており、労働者のメンタルヘルスが一段と脅かされている。
企業において、メンタルヘルスの不調を抱える労働者は、半数を超える企業で増加しており、(※表−1参照) 従業員が多い企業になる程この傾向は顕著となる。従業員を1,000人以上抱える企業では、70%を超える企業でメンタルヘルスの不調を抱える労働者が増加している。
メンタルヘルスの不調を抱える労働者を年代別に見たところ、30代が最も多く、次いで20代、40代の順となっている。
この傾向は、企業の規模には関係なく同じである。(※表−2参照)
症状と種類
メンタルヘルスの不調は、主に感情の障害が現れるが、多くの場合、身体症状も現れ、原因は、職場の人間関係等様々である。(※裏面表−3参照)また、自分ではストレスを感じていなくても症状が出現することがある為、内科等の医療機関を受診するも治らない場合や、検査結果に異状がないにもかかわらず、身体症状が改善されない場合はメンタルヘルスの不調でないかを疑ってみる必要がある。
症状として睡眠障害は殆どの人に起こり、さらに頭痛・めまい等の神経症状、食欲低下・味覚の鈍麻・痩せ・便秘・下痢・嘔吐等の消化器症状、動悸等の循環器症状、性欲減退、生理不順等の症状も現れる。
職場のメンタルヘルスケア
自分の仕事や職業生活に関して強い不安・悩み・ストレスがあるとする労働者は58.0%に上り、メンタルヘルスの不調により1ヵ月以上休職している労働者がいる企業は62.7%存在する。(厚生労働省「平成19年度労働者健康状況調査」及び財団法人労務行政研究所「2008年調査」による)
厚生労働省は、増加傾向にあるメンタルヘルスの不調に対し、うつ病対策や休職している労働者の職場復帰支援等、こころの健康の保持・増進の体制整備に取り組んでおり、また、33.6%の企業・事業所がこころの健康対策(メンタルヘルスケア)を実施している。(厚生労働省「平成19年
度労働者健康状況調査」より)
企業・事業所がメンタルヘルスの不調の労働者を抱えることは、こころの健康問題の枠を超え、様々な経営面でのリスクや生産性の低下をもたらすことに繋がる。厚生労働省の調査によると、我が国におけるメンタルヘルスの不調による経済損失は約9,500億円に上ると試算されている。
メンタルヘルスケアの取り組み
労働安全衛生法において、「事業者は労働者の健康の保持・増進を図る為、必要な措置を継続的かつ計画的に講じるよう努めなければならない。」と定められており、厚生労働省は、平成12年に「事業場における労働者の心の健康づくりの指針」を作成したり、平成16年に休業した労働者に対する職場復帰を促進する為の事業場向けマニュアルとして、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を周知する等、職場におけるメンタルヘルスケアや自殺防止対策を進めている。
併せて、うつ病対策の具体的な方策として、都道府県・市町村職員、保健医療従事者を対象としたうつ病対策マニュアルを取りまとめ、実際にうつ病や抑うつ状態を抱える住民に接する際に必要な具体的なノウハウを示したり、国民向けの啓発用パンフレットも策定している。これらにより、地域におけるうつ病対策の一層の充実が期待されている。
企業においても、職場内の管理者・社員に対する教育研修や産業医等の専門スタッフを配置する等、メンタルヘルスケアへの具体的な取り組みを実施している。福岡市医師会では、メンタルヘルス対策においてプライマリーケア医の役割が重要との認識から、平成16年度から「プライマリーケア医のためのうつ病研修会」を開催している。また、福岡市と協同で市民フォーラムを企画する等、一般市民に対してもメンタルヘルスに関する知識の普及・啓発に取り組んでいる。
福岡市医師会が福岡労働局より委託を受けて運営している福岡東産業保健センターでは、福岡市東区・宗像市・古賀市・福津市・糟屋郡の小規模事業所で働く人々を対象に、夜間相談窓口を設置し、仕事上のストレスや悩み等、メンタルヘルスに関する相談に精神科医が応じている。
<医療情報室の目>
 「うつ病」等のメンタルヘルスの不調は、6人に1人が悩まされていると言われており、症状が出現するきっかけは人により様々である。厚生労働省は、過労死や過労による自殺に対する労災補償基準の公開、過重労働対策の法制化、こころの健康の保持・増進の為の指針公表、自殺防止対策、メンタルヘルス対策モデル事業の推進等、メンタルヘルス対策に本腰を入れはじめたが、ストレス研究・対策を実施する機関や研究者、経験のある産業保健スタッフが少なく、また、情報交換の機会やメンタルヘルスケアのネットワーク化も緒に就いたばかりで、まだ十分な成果が出ていない状況だ。
 職場でメンタルヘルスの不調が出現する要因には、「職場不適応」、「仕事中毒 workaholic」がある。前者は職場内の人間関係や仕事の行き詰まり等の個人的要因に私生活の問題等が複合してストレス状態に陥いるもので、後者は仕事に対する過剰適応状態を言い、「アルコール依存」、「薬物依存」等を伴うこともある。また、「燃え尽き症候群」と言われるものも一種の過剰適応状態とされる。
 職場環境において、メンタルヘルスの不調の症状出現を予防するには、企業側は労働者の身体症状を含めた様々な徴候に早めに気づき、カウンセリング等を繰り返し、心理的要因を明らかにしながら、当人の抱える精神的な負担を軽減させるとともに、労働者も自分自身が抱えるストレスに気づき、それに自ら対処する「セルフケア」が必要である。
 こころの健康問題に関しては、まだ社会の偏見や無理解が少なくないので、医療側からは正しい知識の普及と、偏見があればそれを是正する教育が重要であり、企業側も積極的にその環境づくりに取り組むことで、医・職あいまったメンタルヘルスケアの効果増進を図らなければならない。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・竹中 賢治(地域医療担当)・徳永 尚登(地域ケア担当)


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