医療情報室レポート
 

bP27  
 

2008年12月19日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510

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特 集 : 平成20年をふりかえって

 平成20年は、未だ解決しない「消えた年金問題」や、4月より施行された後期高齢者(長寿)医療制度に対する批判や見直し論が飛び交ったことなどが影響し、内閣の支持率は大きく低下する結果となった。9月には福田総理が突然の辞任を表明し、後継の麻生太郎新内閣が誕生したが、首相の問題発言や、「定額給付金」等の政策により国民からの批判は多く、早くも支持率が低下し政界は迷走を続けている。
 国民の生活に直結する出来事としては、高騰を続けた原油価格のあおりで、さまざまな商品が値上げされたり、輸入冷凍餃子からのメタミドホス検出や事故米穀が食用と偽り転売された「食の安全」の問題などが上げられる。
 医療界においては、診療報酬点数の改定が実施され、診療報酬本体は8年ぶりに0.38%のプラスとなったが、実際には、全体で0.82%のマイナス改定であり、医療関係者にとって引き続き厳しい状況が続いている。今回は、年末恒例の特集として今年1年間の出来事をまとめ“平成20年をふりかえって”みた。  

●平成20年の主な出来事

医師会関係 厚生・行政関係 トピックス
1月
日医会員数16万5000人(2007.12.1付)、前年比1,000人の微増
日医唐澤人会長、小脳出血の為緊急入院、手術後の経過は順調、竹嶋康弘副会長が会長代行を務める
市医、次期役員等選挙実施
厚労省、勤務医の負担軽減策として、医療 関係職の診療録や処方せん記載等の代行 認める具体例を通知
厚労省、2007年人口動態推計公表、出生数(109万人)前年比3,000人減
舛添要一厚労相、C型肝炎患者に給付金を支給することなど薬害肝炎原告団との和解 内容が記された合意書に調印
世界的原油価格の急騰、7月半ばまで断続的に価格上昇を続ける
モルディブ共和国、マウムーン・アブドル・ガユーム大統領暗殺未遂事件発生
アジア各地の証券市場が軒並み暴落
中国で製造され日本に輸入された冷凍餃子や食材からメタミドホスが検出
2月
日医、「がん医療における緩和ケアに関する医師の意識調査」の実施を発表
市医、「成人病センター将来構想検討プロジェクト」設置
市医、特定健診・特定保健指導実施登録医療機関説明会開催
平成20年度予算で政管健保の国庫補助額1,000億円削減が決まった分を健保組合・共済組合からの特例支援金で肩代わりする「政管健保特例措置法案」が閣議決定
アメリカ大統領選挙予備選挙、「スーパーチューズデー」共和党はジョン・マケイン氏が優勢、民主党はヒラリー・クリントン氏が獲得代議員数で優勢となるも、バラク・オバマが勝利した州の数で上回る
アメリカイリノイ州北イリノイ大学で銃乱射事件発生、6人死亡、犯人は犯行後自殺
アフガニスタン、約80人が死亡する自爆テロ発生
千葉県勝浦市でイージス艦と漁船が衝突
3月
日医唐澤人会長、職務復帰、再選目指し出馬表明
市医、「診療報酬点数改定説明会」開催
第102回医師国家試験合格者発表、合格者7,736人、合格率90.6%、うち女性の割合34.5%で過去最高
厚労省、社会保障審議会分科会に、「介護療養型老人保健施設(療養型老健)」の創設における介護報酬額や施設基準を諮問し了承
東京外国為替市場で1995年以来12年ぶり一時1ドル=100円を割り込む
中国チベット自治区で大規模暴動、中国が鎮圧し、18人が死亡、380人以上負傷、953人が拘束され403人が逮捕
未成年者による自動販売機でのたばこ購入を防ぐ事を目的として、ICカードによる成人識別「taspo」が導入される
4月
日医役員選挙、唐澤人会長再選果たす
400床以上の病院がレセプトオンライン請求へ移行、新たに約300医療機関が請求開始
市医、新執行部で宮ア良春会長体制2期目スタート
市医、「公益法人対策室」、「公益法人改革検討会議設置
市医、「特定保健指導講習会」開催
平成20年度診療報酬改定、診療報酬本体は8年ぶりに0.38%のプラス改定、診療報酬全体で0.82%のマイナス改定
中医協、土田武史氏の会長退任に伴い、新会長に遠藤久夫氏(学習院大教授)が選出
新型インフルエンザ対策の強化に特化した「改正感染症法」が成立
福田康夫首相、後期高齢者医療制度について運用上の問題点を集中点検する方針を示す
広告可能な診療科名を見直す関係政省令施行
40歳から74歳の医療保険加入者(被扶養者を含む)を対象に特定健診・特定保健指導開始それに伴い、福岡市では基本健康診査(ミニドック)終了
後期高齢者医療制度、「長寿医療制度」が通称に
日銀総裁が戦後初の空席に、後に白川方明氏が就任
「消えた年金問題」、該当者不明5,000万件の名寄せ4割が特定困難と判明
山口県光市の母子殺害事件に死刑判決
5月
日医、厚労省の示した死因究明制度の第三次試案に賛成の見解
日医、広報・情報戦略を強化することを目的に広報課と情報企画課を統合し「広報・情報課」設置
市医、「双方向患者紹介システム検討会」設置
市医、福岡市国保の特定健診・特定保健指導を開始
「後期高齢者医療制度廃止法案」が参議院本会議で可決、衆議院に送付される
自民党厚生労働部会・社会保障制度調査会・雇用・生活調査会、社会保障費2,200億円削減への反対決議まとめる
大型サイクロンがミャンマーを直撃、約350人が死亡
プロスキーヤー三浦雄一郎氏、日本人最高齢となる75歳7ヶ月でのチョモランマ登頂を果たす
中国四川省でマグニチュード8.0の地震発生、約40000人が死亡
6月
日医、政府に社会保障費2,200億円抑制を撤回する方針転換を要求
若手勤務医中心の全国組織である「全国医師連盟」発足
市医、福岡東地域産業保健センターにおける夜間相談窓口開設
市医、「福岡市医師会方式脳血管障害地域連携パス」構築
「骨太の方針2008」閣議決定、次年度予算引き続き最大限歳出削減へ
最高裁判所、平成19年の医事関係訴訟事件を公表、前年より32件増加の944件
政府・与党、後期高齢者医療制度の改善策検討を正式決定
厚労省、平成21年度予算概算要求で医師確保対策に過去最高額の約360億円を計上
2007年人口動態推計で出生率1.34、昨年度より上昇
東京秋葉原で通り魔事件、7人死亡10人重軽傷
フィリピン共和国、シブヤン海沖で大型客船が座礁事故、沈没し乗客・乗員約800名の大半が行方不明となる

医師会関係 厚生・行政関係 トピックス
7月
医、「地域医療崩壊阻止のための総決起大会」開催
日医、レセプトオンライン請求義務化に伴うアンケート調査により、対応できず廃院検討の施設が8.6%に上ることが判明
市医、「第41回九州地区医師会立共同利用施設連絡協議会プロジェクト」設置
市医、「福岡市救急医療地域連携検討会」設置
市医、厚生労働科学研究「乳がん検診における超音波検査の有効性を検証する比較検討会」に参加
「第40回九州地区医師会共同利用施設連絡協議会」開催(熊本市)
厚労省、平成24年度の療養病床の達成目標を従来の「15万床」から「約22万床」に見直すことを提案
厚労省、タミフルの服用と異常行動関連を調査した結果、関連を検出するには至らなかったことを報告
日本感染症学会・日本化学療法学会・日本環境感染学会・日本臨床微生物学会、微量採血用穿刺器具の取扱いに関する見解を発表
政府、海上自衛隊のインド洋における補給支援活動の6か月延長を決定
北海道洞爺湖町で第34回主要国首脳会議開催
世界的原油価格の急騰、アメリカ・ニューヨークで一時1バレル=147.27ドルの史上最高値を記録、これを境に景況の悪化もあり価格は下落
8月
日医、『「地域医療、保健、福祉を担う幅広い能力を有する医師」の認定制度』公表
「第39回中・四・九地区医師会看護学校協議会」開催(下関市)
日本への受け入れが決まったインドネシア人の看護師・介護福祉士が来日
平成19年度平均寿命男性79.19歳、女性85.99歳で過去最高を更新
政府管掌健康保険、平成19年度収支決算で5年ぶり1,390億円の赤字
人事院、平成20年人事院勧告で、人材不足が深刻な若手・中堅を中心に年間給与を約127万円引き上げ
福島県立大野病院での妊婦死亡事故で、業務上過失致死などに問われた加藤克彦医師の無罪判決が確定
中国、北京オリンピック開催
南オセチア自治州の独立をめぐり、グルジア共和国とロシアが戦闘状態となる
9月
日医、「医師の職業倫理指針」改訂版発表
茨城県医連、次期衆院選ですべての選挙区で民主党公認候補を推薦することを決定
「第45回九州首市医師会連絡協議会」開催(佐賀市)
厚労省・文科省、新医師臨床研修制度の見直しに向けた議論開始
厚労省、精神科救急体制の確保を都道府県の責任として法律に明示する考えを表明
福田康夫首相が就任後1年で辞意を表明、麻生太郎氏が第92代首相に就任
アメリカ、大手証券会社リーマン・ブラザーズが経営破綻、これを契機に金融危機が世界的に拡大する
原油価格や鉱物資源、穀物などの世界的高騰受け多くの食料品等の値上げラッシュ
大阪三笠フーズ、事故米穀を食用と偽り転売していたことが農林水産省の調査により発覚
10月
三師会、レセプトオンライン請求の完全義務化撤廃を求める共同声明を発表
日医、今後の医師確保対策の検討の為「医師確保実態調査」実施
日医、社会保障国民会議へ「社会保障費抑制撤回、医療費引き上げ、病床数削減撤回」を求める要望書を提出
日医、冊子「高齢者のための医療制度の提案」作成
市医、「がん診療緩和ケア医療連携検討会」設置
市医、「福岡市救急医療市民公開シンポジウム」開催
社会保険庁の改革に伴い、全国健康保険協会(協会けんぽ)発足
厚労省、2025年度の推計医療費は最大で70兆円に上ると報告
政府・与党、3年後の消費税引上げで社会保障財源の確保を表明
野党4党、後期高齢者医療制度の撤廃を求める共同声明を発表
脳内出血で救急搬送された妊婦が都立墨東病院をはじめ8病院に受け入れを断られ死亡
アメリカ、「緊急経済安定化法」成立
南部陽一郎・益川敏英・小林誠の3氏がノーベル物理学賞、下村脩氏がノーベル化学賞受賞
日経平均株価が一時7,568円36銭を付け、バブル後の最安値を5年6か月ぶりに下回った。
11月
日医、裁判員制度で医療従事者の指名辞退に配慮するよう森英介法務相他に申し入れ
日医、平成19年度生涯教育制度申請書の集計結果を公表、申告率74.2%で過去最高の平成17年度と同率
市医、広報活動の一環としてFBS福岡放送にてTV番組「はーとふるドクター」放送開始
市医、「大腿骨頸部骨折ワーキンググループ」設置
「第47回十四大都市医師会連絡協議会」開催(千葉市)
政府・与党、レセプトオンライン請求の完全義務化について、対応は十分可能とする答弁書を発表
厚労省、救急搬送された妊婦が複数の病院から受け入れを断られた問題を受け「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」設置
文科省、平成21年度の医学部入学定員を過去最大の8,486名とする増員計画発表
麻生太郎首相「医師は社会的常識が欠如している」、二階俊博経産相、「何よりも医者のモラルの問題、忙しいだの人が足りないだの言うのは言い訳にすぎない」発言で謝罪
アメリカ大統領選挙実施、バラク・オバマ氏がジョン・マケイン氏に圧勝、次期アメリカ合衆国大統領に当選
インド、ムンバイでイスラム過激派組織によると見られる大規模同時多発テロ事件発生
元厚生事務次官宅が襲撃され3人が死傷、4日後に46歳無職の男出頭
12月
日医、「医師確保のための実態調査」の最終結果を公表
市医、「福岡ブロックがん診療連携協議会」設置
与党、次年度予算概算要求基準(シーリング)で社会保障費2,200億円削減を実質的に圧縮する方向性固める
日銀、金融危機の影響で金融機関への貸し出し条件緩和を検討
タイ、反政府市民団体がバンコクの空港を占拠、邦人を含む大勢の旅行者が足止め
裁判員制度、候補者に通知するも通知拒否や返送相次ぐ

<医療情報室の目>
平成20年は当初、景気は上向き、回復傾向が加速するといわれていたが、昨年から続くアメリカのサブプライムローン破綻の影響が広範囲に及び、9月にはついに、アメリカで4番目に大きな投資銀行のリーマンブラザ−ズが経営破綻し、さらに、景気後退で経営危機に陥った世界最大の持株会社であるシティグループに対し、アメリカ政府は公的資金を投入して救済に乗り出すなど、アメリカの「金融バブル」の崩壊が世界同時不況を招いた。我が国でも、輸出に多くを頼る製造業の生産自粛、過剰反応とも思える人員整理など、年末にかけて一挙に不況感と社会不安が広がっている。内外共に閉塞感が漂う中、第44代アメリカ合衆国大統領に、初のアフリカ系アメリカ人としてバラク・オバマ氏が選ばれた。氏は、「すべてのアメリカ国民に現代医療を」(日本語要約:二木立「医療経済・政策学関連ニューズレター」 http://www.inhcc.org/jp/research/news/niki/)と題した論文を、『ニュー・イングランド・オブ・メディシン』に寄稿し、自らの医療制度改革案を披瀝しているが、アメリカでは社会主義的として忌避感の強い「国民皆保険」という表現を慎重に避けながらも、漸進的に無保険者を減らして全国民をカバーする制度改革を提案するなど、大統領就任後の施策にどのように反映されるか注目される。
我が国では、10月に東京都立墨東病院での妊婦死亡問題を始め、同様の受け入れ不能の事態が、「たらい回し」という扇情的な表現ながらも、医療費抑制政策が回り回って国民の生命を脅かす危機を招いた「医療崩壊」の象徴的な出来事として、マスコミにも大きく取り上げられた。2,200億円の社会保障費の機械的削減への限界論浮上を始め、市場原理主義で進められた小泉改革の負の側面に、今ようやく国民の批判の目が向けられている。こうした危機的状況の中で、就任わずか1年で辞任した福田首相の後を受けた麻生太郎首相の誕生は、変革への期待を抱かせたが、医師や公的医療保険制度の否定ともとられかねない首相の軽率な発言が続き、首相の資質への疑問が、世論調査で野党民主党の小沢代表への支持率を下回る結果となって表れている。子年は繁栄と運気上昇の年と言われているが、今年は1930年代の大恐慌に擬せられるほどの未曾有の不況の瀬戸際に立
たされた一年であった。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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