医療情報室レポート
 

bP23  
 

2008年 8月 29日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特 集 :社会保障と国民負担
 
 
政府が押し進めてきた「自己責任」と「市場原理主義」を掲げる経済理論は、社会保障の面において も格差を生む結果となった。このアメリカ型の考え方は、もはや限界であり、これからはヨーロッパ 型の福祉国家の概念を取り入れるべきではないだろうか。我々国民が進むべき道を決定していかなけ ればならない。

 政府の経済財政諮問会議は、我が国の来年度の予算概算要求基準(シーリング)の議論において「社会保障費2,200億円削減」を「骨太の方針2008」の中で、引き続き行っていくことを確認し、このシーリングは閣議決定された。
 閣議決定では、社会保障に関して、新たな安定財源・税制上の措置が確保された場合には、必要に応じて予算編成の過程で検討するとされたが、政界からは、「2,200億円削減」について、医療現場の疲弊は限界に達しており、機械的に2,200億円を削るのは不可能だ、と反対意見が続出している。
 これに対し、福田首相は「成長力強化と財政健全化の両立は容易ではないが、この狭い道を追及していくしかない」とし、これまでどおりの歳出削減路線を維持する構えだ。
 日医は、社会保障費の機械的削減の撤回が地域医療再生の第一歩であると認識し、今後は予算編成に向け、2,200億円削減撤回を実現すべく新たな活動を展開していくとしている。
 今回は、日本の医療と諸外国の医療を、国民負担率や法人負担などの視点から比較し、我が国の社会保障を考察する。


社会保障のあるべき姿は?
福祉社会は、自助・共助・公助の組み合わせによって形づくられるべきものであり、その中で社会保障は、国民の「安心」を確保し、社会経済の安定化を図るため、大きな役割を果たすべきものである。
少子高齢化の進行する中、社会保険料負担や税負担が特定の世代等に過重とならないように配慮することが重要である。
世代間及び世代内の給付と負担の在り方の見直しを行うとともに、給付に見合う財源を確保することが必要である。
制度を持続可能なものとし、国民の安心の確保と生活の質の向上を追及するとともに、社会保障の需要そのものが縮小されるような政策努力も必要である。
社会保障とは?
 国家が国民の生活を保障する制度。病気、けが、出産、障害、死亡、加齢、失業などの生活上の問題などを予防し、生活を安定させるために国家が医療や介護などの社会サービスを給付すること。我が国では社会保険・社会福祉事業・公的扶助・公衆衛生などがある。


社会保障を国際比較する
〜国民負担率〜
国民負担率とは、国民所得に対する租税負担と社会保障負担の割合の合計である。
我が国の租税負担率の内訳の中に、法人所得税があるが、これは国際的に見て高い水準にあり、企業の国際競争力を弱めているとの声もあるが、果たしてそうだろうか。
〜法人負担〜
企業の税負担は果たして多いのか?
イギリスの法人実効税率は、2008年4月以降は28.0%となっている。ドイツは2008年より38.44%から29.8%に減税された。法人税の引き下げは、設備投資を増加させる効果があるとされ、世界経済は法人税の税率競争という感がある。
我が国でも、法人税減税の声があるが、厳しい財政事情や社会保障の給付と負担の問題などを総合的に考え、極めて慎重に検討することが必要である。
我が国の企業の税・社会保険料の負担はアメリカよりは高いが、ヨーロッパ諸国の企業よりは低い。法人税の減税を議論する前に、むしろ法人負担全体を上げる必要があるのではないだろうか。
<医療情報室の目>
 言い尽くされた事かも知れないが、「医療崩壊」の言葉に象徴されるように、我が国の医療が、危機的状況に置かれていることは衆目の一致するところだ。構造改革の名の下に、アメリカを真似て「小さな政府」論を導入し、社会保障の分野にまで「自己責任」と「市場原理主義」を敷延した政策の誤りは明白だ。小泉内閣以降に財政再建と称して幅を利かせた「小さな政府」論は、過度の市場経済至上主義を生み、優勝劣敗の風潮が助長されて「格差社会」を生み出してしまった。我が国は、バブル崩壊後のアメリカ型の経済構造への転換が、弱者切り捨て・地方切り捨てにつながり、格差の拡大をもたらしたが、問題は、生命に直結する医療の分野にまで深刻な影響が及んでいることだ。
 今回、考察したように、我が国がヨーロッパ型の福祉国家を目指すのであれば、社会保障費の拡大、すなわち国民負担率を増やすしかないのかもしれない。その財源としては、法人負担の増大、富裕層への優遇税制の見直し、消費税増税などが考えられる。法人負担については、1990年代以降、我が国は法人税が高いため、企業の国際競争力を弱めているとされ、租税負担が引き下げられた経緯がある。これだけを見てみると、財界が法人税の減税を求めるのはもっとものように思われる。しかし、法人税に加えて社会保険料負担を含めた場合には、国際的に見て我が国の法人負担は少額である。
 今月2日に福田改造内閣が発足した。厚生労働相には舛添要一氏が留任し、来年度予算での必要な財源の確保に意欲を示している。福田首相は「消費税の増税なしで財政再建ができるとは考えられないし、国民が安心できる社会保障制度も成り立たない」とし、新内閣には、新たな社会保障財源の確保が求められる中、消費税増税を唱えるいわゆる「財政規律派」の入閣が目立っている。
これは社会保障におけるヨーロッパ型の福祉国家への転換を意味しているのか、政府の今後の医療政策に注目したい。

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担当理事 原  祐 一(広報担当)・竹中 賢治(地域医療担当)・徳永 尚登(地域ケア担当)


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