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2008年 7月 4日
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1501・FAX852-1510
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後期高齢者(長寿)医療制度は、本質を置き去りにしたまま政治・国民の間で批判や見直し論が一気 に高まっている。民主党を中心とした野党は、制度の廃止を訴え一致団結し、混乱した政局もあいま
って、開始されたばかりの新制度は揺れており、その行方は混沌としていて不透明である。
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今年4月より施行された後期高齢者(長寿)医療制度は、スタート早々、批判や問題が飛び交っており、連日、新聞やテレビなどのメディアを賑わせている。
「後期高齢者の心身の特性等にふさわしい医療」を提供するために開始された制度のはずなのに、施行に伴い設置された行政の相談窓口には、不安を訴える対象者たちが殺到し、また保険証が届いていない、届いていても保険証を捨てたりしている事例が続出し、現場では問題が噴出している。4月になって急に始まった印象があるこの現状に福田首相は「周知が不十分だったのでは」と懸念の声を漏らしている。
一方、「制度の趣旨が医療費抑制にあるのは明らか」、「名前を変えても問題の本質は隠すことが出来ない」、「年金記録問題が解決していないのに年金から保険料を天引きをするのか」など政治の場においても厳しい指摘があり、制度の見直しや廃止が審議されている。
政府はこの事態に対し、保険料を軽減したり、保険料の年金天引きについて家族の口座からの引き落としを可能にしたりするなど、様々な措置を施したが、国民の不満や怒りは払拭できず、民主党など野党4党が合意した本制度の廃止法案が参議院を通過した。
今回は、後期高齢者(長寿)医療制度の概要と、制度の問題点などをまとめた。
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○ 75歳以上が対象者となる後期高齢者(長寿)医療制度の財源・保険料の内容は次のとおりである。
(制度概要などの詳細は、
医療情報室レポートNo.107「後期高齢者医療制度」に掲載)
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加入者の人頭割による応益部分と所得比例によ
る応能部分により算出される。厚生年金の平均的
な年金額受給者で、
全国平均 月額6,200円
(応益割3,100円、応能割3,100円)
尚、従来の老人保健制度で被扶養者として自身の 保険料を払っていなかった被保険者は、激変緩和
措置として、加入時から2年間、保険料を半額と
する。
※平成20年度の給付費推計による試算 |
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■ 今後、平均寿命の伸びによる更なる高齢化の進行や、若年人口の減少に より、加入対象者や現役世代の保険料負担は増えると言われてい る。
→厚労省は、加入者の保険料は、現在の全国平均約6,200円(月額)か ら7年後の2015年には約7,100円(月額)に増えると試算している。
[問題点] はたして13%程度の負担増で収まるのか?医療費抑 制政策は、更なる保険料の負担増を招くのではないか。
それとも将来的に13%程度の負担増にしかしないと言う のか?
■ 健康保険組合は、後期高齢者支援金として今年度新たに昨年度の
老人保健制度の拠出金2.3兆円から3,000億円増の2.6兆円の支援金が
発生する。
→今年度の診療報酬改定で政府・与党から要請されていた、概算要求
基準の要縮減額2,200億円のうち約750億円を受け入れた
ことで、これを合わせれば、新たな健康保険組合の負担は4,000億円
以上に上る。また、政府管掌保険にも数百億円の負担が発生する。
■ 北海道、東京、石川、福井、岐阜、三重、京都、奈良、岡山の都道府
県は、公費を投入して保険料を引き下げている。東京都はこれにより
保険料は全国最低の平均約4,500円(月額)になった。尚、福岡県は
財政支援策は施さず、全国で最も高く保険料は平均約7,100円
(月額)となった。厚労省は、「制度の理念が歪む」と懸念しており、
今後 は保険料の地域格差が更に拡大する可能性がある。 |
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※ 高齢者は疾病に罹患するリスクが高く、長期化しやすいため、受療率は若年者と比較して高いが、
医療費については、1回当たりの医療費は高くな く、医療費もそれほど増えていないと思われる。 |
「うば捨て山制度」、「史上最悪の医療制度」とまで呼ばれる理由 |
○ 『長寿医療制度は、75歳以上の方々に「生活を支える医療」を提供するとともに、長年、社会に貢献してこられた方々の医療費をみんなで支える「長寿
を国民皆が喜ぶことができる仕組み」です。』(厚労省ホームページより)とあるが、「適正化」の名を借りた財政主導の医療費抑制に過ぎないのではないか?
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・対象者は従来加入していた国民健康保険、社会保険から抜け本制度に強制加入(生活保護受給者を除く)となり、また、障害者などは65歳 以上からが対象となっている。 |
・年金受給者は、2か月に1度、年金が支給される際に介護保険料と一緒に天引きされる。 |
・徴収方法が従来の世帯ごとから個人ごとに変更となり、家族が加入している健康保険の扶養であった対象者は、今まで保険料の負担がなか ったが新たに保険料が発生することとなった。(軽減措置があり、現在は保険料の負担はなし) |
・将来の高齢化に伴う医療費の増大に備え、高齢者から確実に多くの保険料を徴収することが目的だと言われている。 |
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・保険料滞納者には、医療機関の窓口で一旦全額負担となる資格証明書が発行される予定である。(国民健康保険では、70歳以上への資格 証明書の発行は禁止されている。) |
・月15,000円以下の年金受給者は、保険料の支払いは年金による天引きではなく、納付書や口座振替等で行っている。保険料を納付書や口 座振替等で行う対象者で、今後は保険料が支払えない、支払わない人に資格証明書が発行されることが考えられ、医療を受ける権利が奪 われることが懸念される。 |
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○ 本制度の創設にあたり、財政構造などは、2000年に開始された介護保険制度をモデルにして作られた。開始されたばかりの本制度を介護保険制度と
比較すれば、これから起こりうる問題点や今後の課題が検証できるのではないか?
<医療情報室の目> |
後期高齢者(長寿)医療制度によって、保険料がアップした上、高齢者の医療が制限されるようになったと民主党などの野党やマスコミは批判しているが、制度と診療報酬は区別して議論しなければならない。医療現場においては、高齢者に対して行っていることは今までと変わらず、大きなデメリットはないと思われる。問題なのは、行政の準備不足により、保険証が届かなかったり、年金から保険料の天引きを行うなど制度の周知不足により国民に不安を与えたことだ。本制度に対する批判の根底には、高齢者が診療報酬のあり方の議論に関与できなかったことへの不満もあるだろう。政府は「老人の意見を聞いても仕方がない、長生きは自己責任でやってくれ」という発想なのか。
保険料については、従来の国保は、低所得者を中心に市町村独自に減免措置が講じられていたが、本制度の保険者である広域連合では十分な配慮がなされておらず、場合によっては、以前よりも保険料が増えるケースが発生している。また、4月に同時に開始された特定健診・特定保健指導では、保険者毎に健診・保健指導の実施率、メタボリックシンドロームの減少率の目標値を設定させ、その結果を2012年より後期高齢者(長寿)医療制度への支援金の加減算という形で評価することが決定しており、更に保険料が増える可能性がある。
政府が作り上げた本制度の本来の目的は、増大する医療費を抑制し、医療費確保のための保険料収入を増やすことであり、そこには、民間企業などで構成される組合健保の負担割合を減らし、その分の保険料負担を国とお年寄りにつけ回した経済財政諮問会議の民間議員や有識者たちの目論見があると言えよう。
政府は公費・家計・事業主の保険料負担についてどうすべきかの視点をはっきりと持ち、被用者保険の保険料率を公平化すべきだ。
また、本制度に対する各郡市医師会の見解は様々で、診療報酬算定のための届出をせず、反対運動を展開している郡市医師会もある。このような動きは一層国民に混乱を招くことになりかねず、今一度、日医が提唱する「かかりつけ医機能充実のための指針」の精神に立ち返り、団結すべきではないだろうか。
高齢者は若年者と比較して疾病が発症するリスクが高く、長期化しやすい為、保険財政に制約されることなく、医療を受けられるように高齢者の医療は「保険」ではなく「保障」の理念の下で支え、従来と同じ質の医療を提供すべきであり、本制度を高齢者のための血の通ったものに作り替えていく必要がある。
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※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
(事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
担当理事 原 祐 一(広報担当)・竹中 賢治(地域医療担当)・徳永 尚登(地域ケア担当)
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