医療情報室レポート
 

bP20  
 

2008年 5月 30日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:平成20年度診療報酬改定その2〜概要〜
 
 
診療報酬全体でマイナス0.82%に収束した平成20年度診療報酬改定で、現在、医療現場ではそ の対応に追われている。医療機関としては、改定率に振りまわされることなく主体性を持ち、地域 における自院の役割と機能を明確にさせていくことが求められる。

診療報酬改定において前回の平成18年度改定は、過去最大となった診療報酬全体で3.16%のマイナス改定や一般・療養病床の入院基本料の区分変更など医療関係者はもとより国民へも様々な影響が長引くような結果であった。
 それと比較して今回の平成20年度改定は、診療報酬本体は8年ぶりに0.38%のプラス改定となり、大きなダメージはないという印象があるが、実際には、全体で0.82%のマイナス改定であり、内容を見てみると、実質的にはプラスマイナスゼロ、あるいはマイナス改定に値すると言われている。
 平成20年度診療報酬改定に関して、改定率決定の経緯と改定の告示までを医療情報室レポートNo.118にて特集したが、診療報酬改定後、2ヵ月程度が経過し、厚労省より疑義解釈や日医の「Q&A」が取りまとめられている今回は、改定のポイントや主な項目・内容などをまとめた。

平成20年度診療報酬改定について

改定の基本方針
(1) 4つの論点
@ 患者から見てわかりやすく、患者の生活の質(QOL)を高める医療の実現
A 質の高い医療を効率的に提供するために医療機能の分化・連携の推進
B 我が国の医療の中で今後重点的に対応していくべきと思われる領域の評価の在り方の検討
C 医療費の配分の中で効率化余地があると思われる領域の評価の在り方の検討
(2) 緊急課題
産科・小児科をはじめとする病院勤務医の負担の軽減
産科・小児科への重点評価
診療所・病院の役割分担
病院勤務医の事務負担の軽減
改定のポイント

T.緊急課題への対応・重点的に評価する主な項目

(緊急課題への対応)                   
 @産科・小児科医療 A病院勤務医の負担軽減 B救急医療

(重点的評価)
@明細書の交付 Aがん対策 B脳卒中対策 C 自殺対策

U.適正化・見直し等を行う主な項目

@外来管理加算 A7:1入院基本料 B外来精神療法 C後発医薬品の使用促進 D処置の見直し Eコンタクトレンズ検査料

V.後期高齢者にふさわしい医療

@在宅療養生活の支援(退院時の支援、訪問看護の充実、介護サービスとの連携) A外来における慢性疾患の継続的な医学的管理
B「お薬手帳」の活用 C終末期における情報提供



主な改定の項目・内容

改定に対する日医の見解と対応

産科・小児科・救急医療における病院勤務医に対する支援が地域医療再生の為の喫緊の課題であるとし、診療報酬本体の引き上げ分について病院勤務医の過重労働の緩和に充当してもらうことを主張した。
診療所に大きな影響を与えることを危惧しながら、病院勤務医の為に検査判断料の引き下げ、軽微な処置の初再診料への包括化を了承した。
診療所の再診料の引き下げが提案されたが、地域医療を支える医師たちの意欲が損なわれ、地域医療の崩壊にもつながりかねないことから強く反対し、再診料の引き下げは回避された。
外来管理加算の見直し・デジタル映像化処理加算の廃止の了承は、長年の医療費抑制政策により診療所の経営も厳しい状況にある中、苦渋の選択であった。
医療費抑制政策の根本的な方向転換を求めていく為、医師の増加も含めた医療提供体制の再構築、大局的な見地からの医療費の見直しが必要である。社会保障費の年間2,200億円の機械的削減が、来年度以降も続けられることのないよう、引き続き、政府与党に対して働きかけを行っていく。
病院、診療所の役割・機能分担について国民に理解してもらう為、診療報酬のあるべき姿についての検討を始める必要がある。中医協での議論において、初診料・再診料など医師の基本的な技術料の評価に関して積極的に意見を述べていく。
今回の改定が医療現場に与える影響について、その実態の把握・検証を早期に行い、是正が必要との結果が得られた場合には、その見直しを求めていく。

<医療情報室の目>
 平成20年度診療報酬改定の重点課題とされる病院勤務医の負担軽減は、小手先の診療報酬上の手当で解決される問題ではない。にも関わらず、今回の改定では当初、診療所の再診料引き下げという、開業医の実情を無視した暴論が飛び出した。一口に病院勤務医の負担軽減というものの、改定の内容を見てみると、手厚い評価を受けることができる医療機関の対象は限られており、規模や機能によって明暗が分かれてくる。勤務医問題の根本原因は我が国の医師不足にあるのであって、診療報酬の手当による勤務医対策は「焼け石に水」である。
 また、今年度から開始された後期高齢者医療制度(長寿医療制度)により開業医は、かかりつけ医として、終末期における在宅医療と積極的に向き合うことが求められ、政府は、病院勤務医にかかる負担を、制度・財政的な改善を何も施さないまま、開業医に転嫁させた。今回は、診療所の再診料は据え置かれることとなったが、外来管理加算に「時間の概念」が導入されるなど、実質的な診療報酬引き下げの足枷が科せられた。医療費を削減し続けることはもはや限界であり、医療の質を保つためにはそれなりの財源が必要だという意見が政府与党の内部からも出ているにも拘わらず、今回の改定でも、社会保障費年間
2,200億円削減の大枠は外れることなく協議が進められた。
 診療報酬体系はますます複雑になるばかりで、それに比例するかのように医療の質・安全の低下問題が顕在化し、国民の不安・不満は医療不信という形で増大している。財源ばかりが重視される改定の中で、政治が混乱している今こそ国
民にとって必要な医療を適切な価格で行える体制を構築する抜本的改革案が国政の場で示されるべきである。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・竹中 賢治(地域医療担当)・徳永 尚登(地域ケア担当)


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