医療情報室レポート
 

bP18  
 

2008年 3月 28日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特 集 : 平成20年度診療報酬改定 その1〜経 緯〜
 
 
平成20年度診療報酬改定は、診療報酬全体でマイナス0.82%と、依然として医療関係者には厳しい改定率となる中、「患者から見てわかりやすく、患者の生活の質(QOL)を高める医療の実現」 「質の高い医療を効率的に提供するため医療機能の分化・連携の推進」「我が国の医療の中で今後重点的に対応していくべきと思われる領域の評価の在り方」「医療費の配分の中で効率化余地があると思われる領域の評価の在り方」「後期高齢者医療制度における診療報酬」の5項目を主要な検討項目として、中央社会保険医療協議会(中医協)で協議が重ねられてきた。

平成20年度診療報酬改定について、日医は厚労省に対し、診療報酬本体の5.7%、医療費ベースで1兆4,500億円の引き上げを要求してきた。しかし政府は、「骨太の方針2006」で決定された、5年間で1.1兆円の社会保障費を削減する歳出改革の姿勢を緩めず、平成20年度も2,200億円の縮減を前提に、診療報酬の改定作業が進められた。
 政府側は、本体部分でプラス0.1%の改定率を主張したが、日医は改定率の上積みを要求し、その結果、十分ではないとしながらも、本体部分でプラス0.38%、そのうち医科はプラス0.42%、薬価改定等を含めた全体でマイナス0.82%で合意に至った。
 今回の改定の基本方針は、産科・小児科をはじめとする勤務医の現状を踏まえ、勤務医の負担軽減に重点を置くとした方向性が示され、また医師不足問題、救急医療、産科・小児科医療等の地域医療の危機的状況を反映した内容となっており、厚労省は今月初旬に平成20年度診療報酬改定を官報告示した。
 新診療報酬適用を前に、今回は、日医、政府、厚労省、その他関係団体が論戦を繰り広げた診療報酬改定率決定の経緯と改定の告示までをまとめた。

診療報酬改定の経緯

日医が主張する改定率5.7%の論拠
平成20年度診療報酬全体の改定率 △0.82%
診療報酬改定(本体)
改定率 +0.38%
薬価改定等
改定率 △1.2%
各科改定率
 ・医科 +0.42%
 ・歯科 +0.42%
 ・調剤 +0.17%
薬価改定 △1.1%
(薬価ベース △5.2%)

材料価格改定  △0.1%
  過去の厳しい診療報酬マイナス改定により、地域医療の崩壊が現実化している。
  病院、診療所の経営は危険水域に突入しており、医療機関倒産件数は過去最多である。医業経営基盤が揺るげば、最低限の医療 提供体制さえ維持できず、医療の質の向上は不可能である。
産科、小児科施設数が減少し、救急搬送が拒否されるケースが増加している。
日本の医療は、医療従事者のボランティア精神で持ちこたえてきた側面があるが、医療従事者は疲弊し、特定の診療科からの撤 退も出てきている。
景気は回復していると判断されている中、世間並みの賃金上昇率や物価上昇率も踏まえた手当を行うべきである。
国民のニーズに応えられるような医療安全対策を実施する。



診療報酬改定の告示
福田首相、厚労省に「国民の安心のために必要なところは充実させ、効率化できるところは大胆に削るという明確な姿勢で臨む」こ とを指示する。
舛添厚労相、改定率に対し、「効率化を図る視点は忘れることはできないが、限界に近づいている。限界に来たものは財政的な支援 も必要」とプラス改定の可能性に含みを持たせる。
日付 診療報酬改定率決定、改定告示までの主な動き成分・特徴
平成19年11月14日 経済財政諮問会議 民間議員が「診療報酬体系の見直しに向けて」を提出、改定率への言及を控えながらも診療所の初・再診料の引き下げを提案する。
11月19日 財政制度等審議会 診療報酬本体の改定率と、賃金・物価動向とに大きな乖離があり、これを是正する方向で見直す必要があるとし、診療報酬本体引き下げを求める建議を提出する。また、診療所に手厚い診療報酬の配分の見直しを求める。
11月28日 中央社会保険医療協議会(中医協)  診療報酬本体の更なるマイナス改定を行う状況にはないと指摘し、改定率に関する意見書を取りまとめる。この意見書に対し、日医は実質的にプラス改定を求めたものとの見方を示す。
12月3日 社会保障審議会医療保険部会・
医療部会
産科や小児科をはじめとする病院勤務医の負担の軽減を緊急課題とした診療報酬改定の基本方針をまとめる。
12月4日 自民党政務調査会厚生労働部会
・社会保障制度調査会医療委員会
毎年度2,200億円を圧縮していくのは困難としながらも、地域医療の現場が疲弊しているとの現状認識で一致し、診療報酬本体のプラス改定を求める決議を了承する。
12月5日 国民医療推進協議会
(日本医師会、日本歯科医師会、日本看護協会などの医療関係団体で構成)
国民医療を守る決起大会で、診療報酬本体プラス改定の取り組みに向けた決意を表明し、国民の健康と生命を守るための財源確保を求める。
12月14日 中央社会保険医療協議会(中医協) 総会にて支払側・診療側は改定に関する意見書を提出、支払側は、医療保険財源の適切な再配分を中心課題に挙げ、一方、診療側は、政策誘導的な改定を認めないとしたが、小児・救急医療を重点的に評価する面では一致する。
12月14日 健康保険組合連合会 政府・与党から要請されていた、概算要求基準の要縮減額2,200億円のうち約750億円を受け入れることを表明、共済組合からは約250億円の拠出金(※1)を求める。
12月18日 政府・与党 診療報酬本体を0.38%引き上げ、そのうち医科部分プラス0.42%、薬価マイナス1.2%、全体でマイナス0.82%の改定を決定する。
平成20年1月18日 中央社会保険医療協議会(中医協) 厚労省が提示した「平成20年度診療報酬改定に係る検討状況について(案)」で、再診料・外来管理加算の見直し、デジタル映像化処理加算の廃止について議論、支払側は、同省が提示する引き下げ提案を支持する一方、診療側は、これに反発する。
1月25日
  30日
「平成20年度診療報酬改定に係る検討状況について(案)」を再度協議した結果、診療所再診料の引き下げを見送り、病院再診料の引き上げ、後期高齢者の初・再診料の見送り、勤務医対策で必要な財源は、外来管理加算の見直し、検査判断料の引き下げ、軽微な処置の基本診療料(初・再診料)への包括化などで捻出することで合意に至る。
2月13日 平成20年度診療報酬改定の答申を受けて、支払側は、再診料の引き下げが行われなかったことに遺憾の意を表し、診療側は、外来管理加算の見直しやデジタル映像化処理加算の廃止について「苦渋の選択だった」とする。
3月5日 厚生労働省 平成20年度診療報酬改定を官報告示し、勤務医の負担軽減策として小児・産科・救急医療を重点評価する一方、外来管理加算に時間要件を設けるなど診療所から病院に財源移転(※2)を行う改定となる。


<医療情報室の目>
 平成20年度の診療報酬改定は、前回の改定に引き続きパブリックコメントを求めたり、公聴会を開催するなど、医療現場や患者などの意見を改定に反映させるための取り組みが行われ、病院勤務医の負担軽減を重点課題として決定された。本体部分の改定率は8年ぶりにプラスとなったが、医業経営改善の契機となるには程遠い内容だ。
 日医は、産科・小児科・救急医療における病院勤務医に対する支援が、地域医療再生のための喫緊の課題であり、病院勤務医の過重労働の緩和に重点が置かれた今回の改定に対しては、現状の反映として、大筋においてこれを認めた。その結果、診療所の経営も厳しい状況にある中、検査判断料の引き下げや軽微な処置の初・再診料への包括化を了承するなど、苦渋の選択を行ったとしている。中医協においても、プラス改定で病院経営の安定化を期待しながらも、病院勤務医を支援するには,少なくとも本体部分で1%の引き上げが必要だったと総括している。
 厳しい改定率となった背景に、社会保障費の年間2,200億円の縮減があるが、そもそも、今日の医師不足や特定診療科への医師の偏在、それに起因する小児・救急医療の現場の疲弊といった問題は、社会保障費の財源について必要充分な検討を尽くすことなく、ひたすら機械的な財政削減を優先してきた結果、起こるべくして起こった問題と言える。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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