医療情報室レポート
 

bP13  
 

2007年 10月 26日
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:福岡市の国保財政状況


 
我が国の医療制度の根幹をなす国民健康保険の保険料未納問題が深刻化し、各市町村の 国保財政はもとより一般会計までも圧迫している。市町村国保が抱える財政赤字は、この保険料未納分回収により多少の改善が期待されるが、国民健康保険の長期的安定 を図るためには、制度の抜本的な改革が必要である。

   市町村を保険者とする国民健康保険の収入は、平成17年度は全国で11兆3,540億円であり、収支差引額 で3,689億円の赤字となった。国保の財政状況は、増加し続ける累積赤字や保険料の収納率低下などにより悪化している。
 こうした状況を踏まえ、平成17年2月に厚生労働省が「収納対策緊急プラン」を市町村に示し、保険料の収納努力を喚起し、コンビニ収納や収納コールセンター等を 活用した新たな取り組みが強化されて、保険料の強制徴収にも積極的に取り組んだ結果、保険料の収納率については回復傾向にある。
 福岡市においても、今月を「一斉滞納整理強化月間」とし、保険料滞納者への一斉催告に乗り出している。福岡市の国保財政は、平成18年度で約62億6,000万円の 累積赤字となっており、歳入不足は次年度の特別会計から繰り入れているのが現状で、保険料の累積滞納額についても過去最高の約100億円と莫大な額に膨れあがっている。 国保制度が抱える脆弱な財政基盤という構造上の問題は、全国的に見ても一層深刻さを増しているが、今回は、福岡市の国保制度の現状や財政状況、今後の国保制度の課題などをまとめた。
  
●福岡市国保の現況は?

加 入 世 帯 数 及 び 加 入 率

福岡市全体の世帯数や人口の増加に伴い、国保加入世帯は増加傾向にあるが、平成18年度は前年度に 比べ国保加入率は低下している。

区分別では、一般国保の被保険者の増減は横ばいである。団塊世代の退職により退職者医療の被保険者 は増加し、老人医療の被保険者 は、平成14年度の医療制度改正により、対象年齢が70歳以上から75歳以上へ段階的に引き上げられたことに伴い減少傾向にある。

保 険 料 の 算 定 方 法


平 成 1 8 年 度 決 算

平成14年度に21億6000万円 だった累積赤字は年々増加し、平成18年度には約62億6,000万円と約3倍に膨れあがり、一般会計からの繰り入れや次年 度歳入からの繰り上げで賄っている状況である。



保 険 料 の 収 納 状 況

福岡市は、保険料が滞納となった場合、 まず有効期限が短い短期被保険者証を発行し、さらに1年間保険料未納状態が続くと、医療機関の窓口で一旦全額負担となる 資格証明書を交付している。また、申請により、所得が基準を下回る世帯は保険料減額、災害・失業・倒産などにより保険料 の納付が困難な世帯は減免を受けられる。

初期滞納者に対する納付指導、夜間訪問 勧告、高額・悪徳滞納者に対する差押等滞納処分の強化、口座振替加入・コンビニ収納の促進など収納率向上のための様々な対策 を実施した結果、平成18年度の対前年度収納率は上昇に転じている。



●国保制度の問題点と課題は?

問題点

高齢者や年金受給者を含む 低所得者・無職者の加入割合が増加し、累積赤字や保険料の滞納者急増の一因となっている
所得の割合と比較して高額 な保険料を徴収される現状があり、給付と負担の不公平が拡大している
国保保険料の他にも国民年金 ・介護保険料・住民税・所得税など国民一人一人の負担が増加し、生活に困窮する被保険者が増加している
課 題

滞納整理の強化や納付環境の 整備などの保険料の収納率向上のための対策を実施する
被保険者のうち高齢者の 割合増加に伴い、増加する医療費負担に対する国レベルでの財政支援を講ずる
地域保険での一本化、 保険者の広域化・再編・統合など国保制度の格差是正に向けた制度創出
保険料の引き上げだけに 頼らず、国民の負担に配慮した国保制度自体の抜本改革
医療費が増大する中で、 国民皆保険を守りつつどのように財政改善を行っていくか

<医療情報室の目>
 市町村国保の収支は、不況下でのリストラによる被用者保険からの流入や、失業者など保険料を支払えない低所得者層の加入により悪化し、 今後も少子高齢化の進展により財政状況は一層厳しくなることが予想される。併せて、健康で医療保険の必要性が低いため保険料を支払う意識 の薄い若年層や、保険料を支払う能力があるのにも拘わらず支払わない被保険者の増加も財政赤字に拍車をかける要因となっている。これはお互い を支え合う互助の精神で成り立つ国民健康保険制度の根底を覆すもので、このような自己中心的な風潮が常態化すれば今後の国保制度に未来はない。 各市町村は赤字財政の事の重大さを真摯に受け止め、早急に問題点を解明・改善していく義務がある。特に福岡市の国保保険料は、平成18年度では 一人当たりの保険料が年額95,591円と政令指定都市の中で3番目に高額であり、「払いたくても払えない」という市民の声が広がっている。 この問題は市議会でも追究され、「赤字分や低所得者減免分などを保険料に上乗せしているのではないか。他都市のように一般会計繰り入れを増やすべき」 との指摘に対し、市側は、保険料が高額となる原因として「医療費自体が高額で国の交付金が少ない。これ以上の一般会計繰り入れは困難。」との答弁に終始した
 国民健康保険は国民皆保険制度の基盤となる制度であり、我が国の医療提供安定のため今後も堅持していかなければならない。その為に国民の負担と 給付の公平の実現は不可欠である。国の政策により国庫負担や地方交付税が減少し、それが国保財政を圧迫して保険料の高騰にはね返る悪循環を繰り返 して行けば、国民健康保険制度の行き詰まりは目に見えている。政府は国民皆保険制度の基盤を危うくする誤った政策を軌道修正すべきである。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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