医療情報室レポート
 

bP11  
 

2007年 8月 31日
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:企業再生ファンドと医療


「企業再生ファンド」という言葉を聞くようになり 数年が経つ。昨年頃より、このファンドが医療分野に進出しており、彼らは「ファンドの導入によって、閉鎖的な医療経営環境に刺激を与え、 活性化を促し、経営効率を目指すことができる効果がある」と言っている。今回の医療情報室レポートでは、 ファンドが非営利を前提とした医療分野に適したものであるのかを考察していきたい。

   度重なる診療報酬の引き下げにより、医療機関の収益は急激に悪化傾向にある。一方、病院の建替えの必要性、高額な医療機器の増加、療養病床再編などの動きによって、医療機関の資金需要は増加している。今のところ医療機関のファイナンスは取引銀行からの借入が大半であるが、医療機関・銀行双方の経営の悪化に伴って以前よりは厳しい状態である。
 一般産業界においても、小泉改革の結果、企業の格差が広がり、経営が悪化する企業が増加している。また、改革先行プログラムによって、不良債権処理ビジネスが生まれ、いわゆる「企業再生ファンド」が台頭してきた。当初は、商業・流通企業・ホテル・不動産企業などが投資の対象であったが、ここ1、2年においては、投資対象としてヘルスケア部門への投資、すなわち医療機関に目を向けているのである。
 今回は「企業再生ファンド」が成長してきた過程、医療分野にまで裾野を広げようとしている理由や動向、その運営形態、また「企業再生ファンド」が医療分野に本格的に進出してきた場合の影響などについてまとめた。
  
●企業再生ファンドとは


  ファンドの成長過程・背景

  アメリカでは
  1980年代 プライベートエクイティ(※)の投資先として、 破綻企業・破綻懸念企業を含む事例が増加する。
(※株式を公開・上場していない企業株式への投資のこと。プライベートエクイティファンドとは、投資企業の成長や再生の支援を 行うことで株式価値を高め、その後、他社へ売却するなどして利益を得る投資ファンドのことを言う。)

  1990年代初頭
     〜半ば
プライベートエクイティの矛先が健全企業を含む企業全般に及び、M&A(合併・買収)ブームが起きる。

  1990年代後半 この動きが世界中に拡大し、低金利時代だった我が国でも外資系ファンドを中心としたM&Aが活発になる。

  日本では
  1990年代初頭
     〜半ば
企業再生を目的とするプライベートエクイティが民間の金融機関を中心に活発になる。
  1990年代後半 近年のグローバル化により外資系ファンドも進出し、企業再生ファンド市場が急成長する。
  1999年 不良債権問題の解決を目的に、整理回収機構が設立される。
  2003年 不良債権処理を経済再生目的に行う観点から、産業再生機構が設立される。

 最近の動向

  新たな投資対象分野として「医療部門」が注目されている。しかしこれは、株式会社立病院が30%もあるアメリカの真似に過ぎない、SRI投資(※)の一環として行っているに過ぎないなどの意見もある。
    (※SRI:Socially responsible investment=社会的責任投資とは、株主としての立場・権利を、経営陣に対して行使し、その企業が社会的責任に配慮した対応や積極的活動を取ることを求めていく行動のこと。広義には企業の経済状況以外の社会的価値観に基づいて投資先を選択して投資することを言う。
例えば、地球環境や環境問題に特化した投資を行う、軍需・原子力産業への投資を排除するなど。)

●なぜ今、医療にファンドなのか

 要 因
医療機関経営者は運営資金が必要
近年の診療報酬の政策的逓減による医療機関の構造的不況
1970年から80年代の新設ラッシュで立てられた医療機関の多くが建替え時期を迎える
ファンドは新しい投資分野を模索
医療関連事業の規模の大きさ
他からの新規参入を認めないとされてきた 医療分野へ参入のチャンス

 医業経営との適合性

 一般企業では、ファンド利用のメリットとして、次のようなことが考えられる
資産(土地・建物)を売却することにより、負債を減少させバランスシートをスリム化できる。
  不動産などを売却すれば、負債が減り経営の安全性が向上するため、次の資金調達が容易かつ有利になる。
  負債が減り、経営が改善されるため、株主・投資家から高い評価を受け、株価が上昇する。
資金の固定化(投下資金の回収長期化)を回避できる。
  事業展開には需要や競争面においてリスクを伴うので、投下した資金の回収長期化を回避できることはメリットになる。
小資本で急拡大できる。
  スーパーやコンビニ、レストランなどのチェーン展開型事業は、資産(土地・建物)を自己保有ぜず賃借料化していれば、事業展開においてリスクは少ない。
固定費の変動費化により経営が効率化される。(減価償却費+金利を賃借料にする)
  事業成果が上がらず撤退しても、資産(土地・建物)を自己保有ぜず賃借料化していれば、自己所有に伴う経費はかからない。

 上記のような、ファンド利用のメリットを医業経営に当てはめてみると…

資金調達が有利になっても、医療機関は資金調達を活用する機会は多くない。
(多大な資金調達が必要な機会は医療機関の建替えなど)
医療機関は株価が上昇しても非営利の為、全く享受できない。

医療の需要は安定的に存在するとされ、需要や競争に対するリスクは他産業と比較し高くない。

医療機関が市場規模を拡大し、チェーン展開することは一般的ではない。

医業経営は医療の安定供給が前提にあり、成果が上がらないからといって容易には撤退できない。

 医療分野参入への懸念
医療機関とファンドが一体的存在と捉えられ、医療機関が債権・株式を発行し、配当を行うと見られる可能性があり、非営利性が形骸化される恐れがある。

リスクマネー=ハイリスクハイリターン資金を導入することにより、借入能力以上の資金借入を可能にするが高金利となる。

資産(土地・建物)が市場の相場にさらされ、市場動向や収益により賃借料の値上げが考えられる。また、賃借料化した場合は、自己所有に比べコスト高になるが、資産(土地・建物)を自己所有していれば、これらのリスクはない。

資産(土地・建物)を売却することにより、内部蓄積部分(減価償却費+利益)が賃借料という形で医療産業外へ流出してしまい、医業収益は医療に再投資するという非営利性の前提が崩れる。

資産(土地・建物)を自己所有していれば、万一の際に備えることが出来るが、それを売却することにより安全弁を放棄することになる。

利益最大化を目指すファンドが、医療機関の建替えや改修等が必要な際でも、それに応じるかは社会経済情勢、不動産市場の動向によるなど、効率至上主義の経営において医師の主体性が喪失される可能性がある。

    
医療分野においては、ファンド利用のメリットを享受できる部分は少なく、デメリットが多く考えられる


<医療情報室の目>
 経営難を強いられている医療をビジネスチャンスとして捉え、経営の効率化・再生を謳った「企業再生ファンド」が進出してきている。ファンドはあくまで もお金の集まりであり、その目的は「利回りの極大化」に過ぎない。一方、医療の本質は非営利であり、利益にならなくても医療行為は行われるものである 。
 この対極とでも言うべき二つが上手く融合するとは到底思えず、「企業再生ファンド」の医療への進出は双方にとって、また一番は患者にとって、とてつ もない不利益をもたらすことになるだろう。例えば、投資家は利益が上がらないファンドへの出資はすぐに引き上げるだろうから、ファンドに影響を受ける 医療機関の永続性は担保できなくなってしまう。医療機関は利益の上がる患者だけを選別する圧力を常に受け続けることになるだろう。
 近代世界は資本主義と営利企業によって発展してきた。この側面は評価すべきだが、医療はあくまでも非営利原則を貫くべきであろう。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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