医療情報室レポート
 

bP10  
 

2007年 7月 27日
福岡市医師会医療情報室  
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特集:日本の医療を考える その2


〜医療の国際比較〜


我が国は、公的保険制度が完備しているため、保険証一枚あればいつでも気軽に医療機関を受診できる。1人当たりの受診率も諸外国と比べると高く、アクセスの良さは定評のあるところで、国際的にも高く評価され ている。その反面、社会保障給付は低い水準に抑えられ、その支出は経済力に見合ったものではないとされながら、現実は更なる減額・抑制の流れが ある。医療供給体制については、昨今の医師不足などマンパワー確保の問題が差し迫るなど、その世界一と称される我が国の医療の中にも、国際比較すると様々な課題が見えてくる。

   前回のレポートNo109「日本の医療を考える その1〜医療制度と医療費〜」で解説したように、我が国は財政主導の政策の下、国民の健康増進、医療の安全や医療の質を脅かしかねない程の医療費削減が行われており、政府は今後も最大限の歳出削減を継続していく姿勢を取っている。国民医療費については、近年それほど増加していないとの指摘があるものの、費用の適正化と称して削減が求められている。また、人口の急速な高齢化に伴う老人医療費の増加、健康保険制度の見直しなど、日本の医療制度は様々な見直しが迫られている中、諸外国の医療制度と比較してみることも必要だろう。
 今回は、日本の医療と諸外国の医療を、医療費や負担率、社会保障、医療供給体制などの視点から比較し、我が国の医療を考察する。
  
●我が国の医療を国際比較する

 1.経済力と総医療費支出

1人当たりGDPと1人当たり総医療費支出は 高い相関があり、1人当たりのGDPが増加すると、1人当たりの総医療費も増加する傾向が見られる。


1人当たりGDPが平均以上で、1人当たり総 医療費支出が平均以下の国は、日本、イギリス、フィンランドの3国のみであり、日本は経済力(GDP)に見合った医療費になっていないと言 える。


イギリスはブレア政権発足後、従来の効率優先 の医療政策から質重視の政策へと転換し、医療費の歳出を拡大したため、現在は対GDP比の総医療費支出は日本を追い抜く勢いである。


アメリカは1人当たり総医療費支出が極端に高 いが、その要因として公的保険の範囲が狭く、公的な給付制限がかからないことが考えられる。

 2.国民負担・社会保障

国民所得に対する租税負担と社会保障負担の割合の合計である国民負担率は、日本は主要先進国と比較すると低い水準である。厚生労働省は2025年の潜在的国民負担率が56%程度に なると試算しており、政府は社会保障関係費の自然増を無視して、これを50%以下に抑えることを目指している。

社会保障給付費は、昨今は日本以外増額の傾向に あるが、日本は低い給付費の中、さらに減額・抑制の動きがある。


 3.医療供給体制
OECD加盟国中、1人当たりGNPが平均以上の国に おいて、日本は人口当たりの医師数が最も少ない。

看護職員数は先進国並みであるが、これは准看護師 の存在が大きいものと思われる。


<医療情報室の目>
 医療には必ず医療費という問題が付随するので、医療を論じる時は、同時に医療費について考察を加える必要がある。
 日本の国民医療費は高いと誤解されがちだが、政府が指摘する「増大を続ける医療費」は、「社会保障としての医療費」と言い換えるべきで、国際的にはむしろ低水準にある。我が国の医療は、そのアクセスの良さや、世界保健機関(WHO)が発表する健康達成度で世界一の評価を得るなど、諸外国の羨望の対象となっている。この安くて質の高い医療サービスを今後も維持していくためには、経済規模に見合った適正な医療費の確保が必要だ。
 しかし、優れた特徴を持つ我が国の医療制度も様々な問題や弱点を抱えており、例えば、医師の絶対数の不足など、医療供給体制面では先進諸国に大きく水をあけられている。急速な高齢化に対応した医療供給体制の再構築や、日本の医療に必要な医療資源を確保し、財源的な手当の方策を講じるとともに、国民が安心して暮らせる安定した医療制度の構築、活力ある希望に満ちた社会づくりの実現に向けて、我々医療人も国民も意識を改革しなければならない。すなわち、医療は国民の生命と健康の安全保障への「投資」であり、「消費」ではないことを国民的合意として形成していくことにある。国は医療費抑制に走る余り、過酷な経済至上の考えを、「適正化」の美名で医療現場に強いて、我が国の「医療崩壊」を加速させている。

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