医療情報室レポート
 

bP09  
 

2007年 6月 29日
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:日本の医療を考える その1


〜医療制度と医療費〜


医療制度に関する厚労省の主な審議会・協議会には、社会保障審議会医療部会、社会保障審議会医療保険部会、中央社会保険医療協議会(中医協)などがあるが、医療制度は、このような審議会で議論され、政治情勢、財政状況、診療報酬制度や医療保険制度、医療関係団体の意見など様々な要素を考慮した上で決定されている。また、我が国の国民医療費は、医療費抑制策が続く中、2004年は約32.1兆円であったが、将来あるべき医療費は日医の試算では、2015年に約41兆円、2025年に約49兆円と推計されている。一方、厚労省は2015年に約47兆円、2025年に約65兆円と日医より高めの試算を根拠に、今後も医療費抑制策を継続していく姿勢を取っている。

   私たちは、いつでも、だれでも、どこでも健康保険証を提示すれば、なんの制限もなく、どこの医療機関でも自由に診療や治療を受けられる。日本の医療はフリーアクセスを実現しており、自分の意志で医療を選ぶことができる。これまで、国民の健康が守られて来たのは国民皆保険制度を堅持してきた我が国の医療制度の成果であることは周知の事実であるが、この私たちの医療の基礎になっている診療報酬や保険制度、医療提供体制等の医療制度はどのように決定されているのだろうか。
 私たちの健康を支える国民医療費は、予算編成時に内閣府の経済財政諮問会議や厚労省等で審議を経て大枠が決定されるが、昨今は何よりも医療費抑制を最優先に掲げた財政主導の政策が幅を利かせており、このままでは最優先すべき国民の健康増進、医療の安全や医療の質が脅かされかねない。いや、既に医療現場では様々な弊害や問題が噴出している。
 今回よりシリーズとして「日本の医療を考える」をテーマに、様々な視点から我が国の医療の問題点を検証してみたい。その第1回目として、診療報酬を含む医療制度を検討する機関と日本の医療費について解説する。
  
●診療報酬はどのように決定される?

医療制度は厚労省の審議会等で議論・検討を重ねた上で、立案・制定されているが、その中でも、中央社会保険医療協議会(中医協)は診療報酬を決定することから、その動向には常に医療関係者の高い注目が集まる。
中医協のメンバー20名のうち5名は日医が推薦する委員で構成されている。   

「医療制度」に関する厚労省の主な審議会・協議会

社会保障審議会医療部会
医療計画・医療提供体制の在り方等、医療法等の改正に向けた検討を行う

社会保障審議会医療保険部会
政府管掌健康保険をはじめとする保険者の再編・統合等、医療保険そのものの議論を行う

中央社会保険医療協議会(中医協)
診療報酬を決定する
厚生労働大臣の諮問機関の位置付け
厚生労働大臣が中医協に諮問しなければ、新薬や医療技術の保険適用が出来ない(健康保険法第82条)
中医協自体も大臣に建議することが出来る
診療報酬決定までのスケジュール

 改定前年
1〜3月 「医療経済実態調査」の調査・検討項目を議論
6月 「医療経済実態調査」の実施
11〜12月 医療経済実態調査の速報値の公表
12月末 「診療報酬改定における基本方針」が決定される 政府予算編成に合わせて、医療費全体の改定総額が決定される
 改定年
1〜2月 厚労省の原案を基に、決定された医療費の範囲内で、具体的な診療行為の点数を決定する
4月 諮問→答申→告示・通知を経て、新診療報酬が適用される




 ※医療経済実態調査
診療報酬改定の基礎資料を得る目的で医療機関や保険薬局の収支を調査するもの。医師の可処分所得・個人診療所の収支差等が報告される

●我が国の医療費は?

経済財政諮問会議・厚労省等において国民医療費の予算編成の審議が行われる。医療費抑制策が声高に言われて久しいが、我が国の医療費は、はたして削減しなければならない程巨額なのだろうか。医療費はそれほど増えておらず、むしろ近年その伸びは鈍化しているとの指摘もある。
  
2004年の国民医療費(32.1兆円)の構成割合は、病院(51.3%) 診療所(24.6%)
調剤薬局(13.1%) 歯科診療所(7.9%)
入院時食事医療(3.0%) 訪問看護医療(0.1%)

近年、国民医療費はあまり増加していないが、その負担の内訳は、この20年の間に国庫・事業主負担がそれぞれ約5%、2%減少しているのに対し、国民負担は約5%増加している

 厚労省は…
  国民医療費の伸び 年3〜4%
給付費の伸び   年1.5兆円以上 と推計
  日医は「杜撰な推計」と指摘、厚労省は推計を見直すべき
 日医総研は…
  国民医療費の伸び 年2%台
給付費の伸び   年0.9兆円 と推計
  厚生労働大臣は「楽観的すぎる」と指摘
医療制度・医療費
  経済財政諮問会議
5月末 「骨太の方針2007」の議論を開始
6/12 「骨太の方針2007」の原案を了承
6/19 政府の臨時閣議で「経済財政改革の基本方針(骨太の方針2007)」を閣議決定
持続的で安心できる社会の実現、予算での基本的考え方、医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム等を審議中
→引き続き骨太の方針2006に乗っ取り、最大限の歳出削減を行う

  財政制度等審議会
6/6「平成20年度予算編成の基本的考え方について」を財務大臣に提出
サービス提供コストの縮減、公的保険の範囲の見直し、負担能力に応じた公平な負担等を審議中
→最大限の歳出削減に向けた努力を徹底して行う
診療報酬改定

  中央社会保険医療協議会
5月末 内部組織の薬価専門部会、保険医療材料専門部会は薬価制度・保険医療材料制度改革に向けた議論を開始

医療費の動向、平成18年度診療報酬改定結果検証特別調査に係る報告書、医療機器・臨床検査の保険適用、後期高齢者医療の在り方に関する基本的考え方等を調査・審議中

  内科系学会社会保険連合・外科系学会社会保険委員会連合
6月末 診療報酬改定に関する提案書を取りまとめ、厚生労働省保険局医療課に提出


<医療情報室の目>
  来年度は診療報酬の改定を控えている。診療報酬は、日医委員5名を含む20名(支払い側7人、診療側7人、公益代表6人)の委員で構成される中央社会保険医療協議会(中医協)の場で、各委員が各々の立場を代表して、診療報酬の内容と点数に検討を加えるプロセスを重ねて決定されており、丁度今頃の時期から、中医協による医療経済実態調査が開始される。3回連続のマイナス改定となった前回(2006年)に続き、今度の改定も、医療側にとって非常に厳しいものとなることが予想される。患者窓口負担の増、診療報酬の引き下げなど、医療費抑制の流れはもはや止まるところを知らない感があるが、国の政策は方針が決まれば一定の長期計画の下、官僚主導による非常に緻密なスケジュールに乗ってベルトコンベアー的に運ばれ、途中の軌道修正はなかなか容易ではない。日本医師会を始め、我々医療側が、現在の財政主導による医療費抑制策が今後も続くならば、我が国の地域医療の崩壊は時間の問題との主張を声高く叫んでみても、一朝一夕に国の方針転換が実現するものではなく、政府が示すデータと拮抗し得る我々医療側独自のデータの集積と分析を武器として、政策立案段階での積極的な関与が不可欠である。更に、日本の医療が崩壊してしまえば、一番困るのは質の高い医療が受けられなくなる国民自身であるので、現在の経済・財政主導の政策では国民が望む医療の充実は図れないという国民的コンセンサスの形成も必要である。そして、そうした民意が政策に反映されることが望ましいのだが、そうした流れを醸成していかなければならない我々医療人の責務と立場は、19世紀ドイツの病理学者ルドルフ・ウイルヒョウの次の言葉に言い尽くされるのではないだろうか。 −医学とは1つの社会科学であり、政治とは広義の医学にほかならない−

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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