医療情報室レポート
 

bP04  
 

2007年 1月 26日
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集: 看護職の需給

 平成18年の診療報酬の改定では、急性期入院医療の評価体制が大きく変わり、特に手厚い看護体制を評価する為、入院基本料「7対1看護」区分が導入された。
 「7対1看護」が設定されたのは、一般病棟、結核病棟、特定機能病院、専門病院の各入院基本料であるが、「7対1看護」の入院基本料は、従来の区分よりも高い報酬が設定されたことから、看護職員の異動や引き抜きなど、 基準を満たす病院への「偏在」と、その為に看護師不足に陥る病院間の「格差」を生じることになった。
 手厚い看護に高い報酬を設定した改定が看護師の偏在を生み出し、看護職員の基準が確保できない病院は運営難に陥り、それが地域医療全体の崩壊に繋がる危機を招くことになり、問題の解決が急がれる。
 今回は日本の看護師の始まりから、現在に至るまでの諸問題について特集した。
  


看護師の歴史と取り巻く問題

看護職の成り立ちと定義

我が国に於ける看護職の制度は、明治32年「産婆規則」、大正4年 「看護婦規則」、昭和16年「保健婦規則」に始まり、各職種は別々の制度として教育が行われていた。
戦後、昭和23年「保健婦助産婦看護婦法」に統合され、保健婦、助産婦、看護婦(士)の免許は厚生大臣から、准看護婦(士)の免許証は都道府県知事から交付された。
平成13年には「保健師助産師看護師法」として法改正され、平成14年より男女ともに共通の呼称となった。

看護師・・・厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじょく婦 に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者
(保健師助産師看護師法 第5条)

准看護師・・・都道府県知事の免許を受けて、医師、歯科医師又は 看護師の指示を受けて、前条に規定することを行うことを業とする者
(保健師助産師看護師法 第6条)


看護師を取り巻く諸問題

過去40年の看護師問題として、勤務条件の低さや看護師不足等 がある。昭和30年代後半には、看護師の夜勤回数を月8日以内にし、夜勤は複数の看護師で行うことを要求する病院争議が各地で発生した。

その後、看護職員需給計画の策定により、看護職員養成所の増設、 いわゆる潜在看護師の再就業の促進、離職防止の為の院内保育所の設置、質の向上を目指した研修の充実等の対策が取られた。

給与水準や就労に関するいわゆる准看護師の問題について、長年議 論が続けられてきたが、平成8年准看護婦問題調査検討会(当時厚生省)の報告書では、「21世紀初頭の早い段階を目途に看護婦養成制度の統合に努めること」、「国において広く関係者と十分 な協議を重ねながら具体的な検討を行うべきである」と提言された。

准看護師の制度化(昭和26年)には、戦後の看護師不足を補う意 味合いを持ち、看護業務内容の制限はない等のことから、日本看護協会は、准看護師制度の廃止を希望しているが、日本医師会では慢性的な看護師不足の解消の為、 准看護師制度の存続を希望している。(右参照)




看護師と介護福祉

  高齢化が進む中では、高度医療機関への入院も高齢者・要介護者が増える。 即ち、入院直後より介護が必要になる為、看護職のみならず介護職の配置が必要となってくる。
今後は看護職員不足の解消の為、介護職員への医学的な研修等の検討や、急性期病院における介護職の配置加算を診療報酬上評価することが必要だ。

  国民全体の高学歴化が進む中では、医療職も例外ではなく、看護職や介 護福祉士等、資格取得の方法も多様になってきた。
その為、同じ看護職の間や看護職と介護福祉士等、医療職の中には様々な学歴を持つ職員が増えてきているが、心理的な負担を抱えることの ないよう連携に努める事が重要である。

 

外国人労働力の導入

  H18年9月、日本とフィリピンとの経済連携協定(EPA)で、H19年度から2年間、 フィリピンから看護師400人・介護福祉士600人の候補者を受け入れることになっている。

  対象となる看護師400人はフィリピンの看護師資格を持つ人で、日本語研修 と実地研修を行い、日本語の国家試験を受験する。
資格取得迄の期間は看護師3年以内(介護福祉士は4年以内)で資格取得出来ればその後の就労も可能だが、取得出来なければ帰国しなければならない。


入院基本料7対1問題

  「入院基本料7対1」は急性期入院医療での手厚い看護体制を評価する 為、H18年度診療報酬改定で導入された入院基本料の区分。
その他の入院基本料と大幅に差をつけた点数が設定されたため、看護職員の大幅な移動や獲得がおこり、地方や中小の病院等では深刻な看 護師不足を生じている。

  昨年11月29日の中医協総会では、厚労省による7対1看護の届出状況 (H18/10/1付右表)等が報告された。昨年5月の約5万5千床から10月には約12万床に急増した実態が明らかになった。

  今年1月17日の中医協総会では、日本医師会による「看護職員の需給に 関する調査」速報版が提出された。調査の結果、300床以上の病院の6割が2009年度迄に入院基本料7対1の取得を目指していることが分かった。
 ※日本医師会看護職員需給調査(速報版)
  http://www.med.or.jp/nichikara/kango/index.html


<医療情報室の目>
日本医師会は本年1月17日に中医協総会で独自に実施した「看護職員の需要に関する調査」の結果に基づき、以下の提言を行った。
提言: 大規模病院の看護配置の引き上げ、都市部の病院求人等により看護師不足と地域偏在に拍車がかかり、現状のままでは地域医療の 崩壊を招く。さらに、看護基準の引き上げは、看護師養成と不可分のものとして看護師数の増加にあわせて段階的に実施するよう方向修正をすること、更に准看護師養成施策の見直しも求めた。
 中医協では入院基本料7対1に関する建議書を柳沢厚労相に提出することで合意し、 建議には次回の診療報酬改定で7対1の施設基準に看護必要度を導入することなどが盛り込まれる。 なお、建議の提出は竹嶋康弘委員(日本医師会副会長、元福岡市医師会長)が最初に提案したものであり、建議書の提出は1995年以来11年ぶりのものとなる。
 看護職の労働力確保については看護職の3層構造の評価、男女の看護職のバランス、外国人看護師・介護職の導入など様々な立場から議論がなされている。 我々は看護職の3層構造は今後も必要と考えている。その理由としては、看護職が必要な現場は病院のみではなく、診療所や介護施設など以前よりも幅広くなっている面、 日本の高齢化率の更なる上昇の中で人件費総額を調整する必要性などがあるからである。
 また、介護度が高い高齢者・障害者が増加する中で、男性看護師は今以上に求められる。一方、看護学校の教育課程において、 母性看護実習など男子学生が実習をしにくい科目もあり、実習の選択制なども今後は必要であろう。
 外国人看護師・介護職には賛否両論があり、今後の検討課題である。否定的な意見の具体例としては、外国人が語学を習得する 費用や文化を学ぶ費用は膨大である、外国人導入によるコミュニティーの維持は大変である、彼らが高齢化したときの年金等の費用 も必要になり長期的に見たコストは高い、労働者を送り出す国では自国の看護職不足を招く、などがある。肯定的な意見には、 日本の少子高齢化には外国人の導入しか解決策はありえない、国際結婚が6%になっている現状の中で数千人の看護・介護職を 入れても大勢に影響はない、などの意見がある。
 一方、1000人程度の外国人の看護介護職を導入するよりも、55万人ほどいるスリーピングナースを活用するほうがよほど現実的という意見もある。
 看護職の労働力問題にはさまざまな意見が交錯し、日本医師会、日本看護協会など多くの団体がそれぞれの立場で意見を述べている。 すべての意見を実施することはできず、多くの意見の中間を取ると実効性に欠ける政策になってしまう。今後は日医・厚労省ともに、 これら多様な意見をまとめていくリーダーシップが必要であろう。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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