医療情報室レポート
 

bP01  
 

2006年11月6日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:各国の医療制度

 増え続ける医療費の抑制を目的に、今年6月に成立した医療制度改革関連法の一部が10月より施行されている。
現役世代並の所得がある70歳以上の医療費窓口負担を2割から3割へ、高額医療費の自己負担限度額を引き上げ、療養病床入院の70歳以上の食住費負担増と、主に高齢者への負担増が中心となっている。
来年以降も、改革法に基づく内容が控えており、“国民への痛み”が益々強いられる状況が続く。
この5年間、政府は“国民に痛みを分かち合ってもらう”ことを求め、市場原理に基づいた数々の医療費抑制策をとり続けてきたが、果たして、一部の企業には利益をもたらし、痛みは大多数の国民にのみ残ったのではないか?
さて、前回のレポートでは日本の医療の歴史を振り返ってみたが、今回は各国の医療制度を紹介し、日本の医療制度と比較してみたい。
  

各国医療制度概要
主な特徴 医療費の徴収 医療制度 総医療費支出(対GDP比)
国民皆保険制度 保険料
国民皆保険制度。職域を単位に構成された被用者保険(組合健保、政管健保、共済組合、船員保険)と 地域保険である国民健康保険(退職者医療含)、老人保健制度からなり、日本全人口をカバーしている。各保険者の加入者の所得水準や年齢構成が異なるが、公平性を保障する為、 税による補填と各保険者の拠出金で対応。医療機関の選択は自由(フリーアクセスを保障)。
人口構造の高齢化や医学・医療技術の進歩等の諸要因により、医療費が増加するという懸念から、患者負担増が進められている。
7.6
民間保険主流
公的制度は
メディケアとメディケイド
無保険者多数
主に民間保険 民間保険が主流。公的医療保険制度として、高齢者及び障害者に対するメディケア、 及び低所得者に対する公的扶助のメディケイドがある。現役世代の医療保障は民間医療保険を中心に行われており、企業の福利厚生の一環として事業主の負担で団体加入する場合が多い。
国民医療費は対GDP比で13.9%(2001年)で他国と比較して最も高い。
現役世代の多くは、雇用主を通じて民間の医療保険に加入しているが、いかなる医療保険の適用も受けていない国民が約4,500万人(2003年)に達し(人口の15.6%)、大きな問題となっている。
13.9
現役世代の社会保障税・加入者の拠出金
原則無料でサービス提供のNHS(National Health Service) 1948年に創設された国民保健サービス(NHS)により、全ての住民に疾病予防や リハビリテーションを含めた包括的な医療サービスを税財源により原則無料で提供している(外来処方薬は一処方当定額の自己負担があるが、高齢者、低所得者、妊婦等は免除)。
国民は救急の場合を除き、予め登録した一般家庭医の診察を受け、必要に応じ、一般家庭医の紹介により病院の専門医を受診する仕組みで、自由に病院を受診することは出来ない。
先進国中最も少ない医療費であったが、入院待ち、手術待ちが大きな政治問題となっており、医療費を増加させる政策に転換されている。(2003年末手術待機者数90万6,000人)
7.6
公的保険の
疾病金庫
保険料 労働者、年金受給者、学生等を対象とした「一般制度」と、自営農業者を対象とした「農業者疾病保険」とに大別。
運営は地区、企業等を単位とした設置の公法人たる疾病金庫(413金庫:2004年)を保険者とし、 当事者自治の原則で運営されている。「一般制度」では、一定所得以上の者や公務員などは強制適用ではないが、公的医療保険の加入者は全国民の約85%(2004年)。
財源は労使折半で負担する保険料で、当事者自治の原則に従い、税による補填は原則行われていない。
保険料率は各疾病金庫ごとに定められている。
10.7
公的保険の
疾病金庫
保険料 法定制度として職域ごとに強制加入の多数の制度があり、各職域保険の管理運営機構として疾病保険金庫が設置されている。
具体的には、被用者制度(一般制度、特別制度)、非被用者制度(自営業者、聖職者)等の制度があるが、一般制度に国民の80%が加入。強制適用の各制度の対象外の者及び外国人は、2000年から実施の普遍的医療ガバレッジ制度の対象。
現在、国民の99%が保険でカバーされている。このほか任意加入の制度として、共済組合や相互扶助組合等の補足的制度がある。また、退職後も就労時に加入の職域保険に加入し続ける。
一般制度は全国被用者医療保険金庫(CNAMTS)が管理運営を行う。財源は労使拠出の保険料。
9.5
税方式による公営サービス 税方式による公営サービスが中心で、基本的に広域自治体(日本の県に相当)が医療施設を設置、運営し、費用は広域自治体の税収(主に住民所得税)及び患者一部負担によって賄われる仕組みとなっている。
患者自己負担の水準は「保健医療サービス法」において設定された全国的な上限額の範囲内で原則的に各広域自治体が設定する。
国民経済に占める医療の規模は総保健医療費の対GDP比9.2%、うち公的支出は7.8%(2002年)。
9.2
国民皆保険制度 保険料
国民皆保険制度。2000年に地域医療保険と職場医療保険が統合的に管理・運営され、2001年には財政が統合。保健福祉部傘下の国民健康保険公団が運営。低所得者には国民基礎生活保障制度(公的扶助制度)における医療給付(154万人対象)があり、健康保険(4,737万人)と合わせて全国民をカバーする体系(2004年末)。
保険料率は、職場保険では勤労所得の2〜8%の範囲内で自律的に定められ(平均4.31%、労使折半)、公務員・私学教職員保険は勤労所得の5.6%(労使折半)となっている。
5.9
公務員、企業労働者、農村住民等職業等に応じた制度 保険料
(都市従業者基本医療保険制度)
広大な国土と膨大な人口を抱えている為、統一的な社会保障制度等の構築が難しい状況にある。
基本的な公的医療保障制度としては、都市企業労働者及びその退職者に対する「都市従業者基本医療保険制度」、公務員に対する「公務員医療補助制度」、農村住民に対する「農村合作医療制度」がある。都市部と農村部では、医療保障機能及びカバー率に格差があり、90年代以降、格差が拡大している。
都市従業者基本医療保険制度は個人口座(個人積立)と基本医療保険基金(社会保険方式)の二本立てで、加入者数は在職者及び退職者合計1億2,404万人。地級市(各省区下の都市)、地区及び直轄市が管轄を行っており、具体的内容は各地域の事情等を考慮して各地方政府が決定する。
農村合作医療制度は衰退しており、各家庭は自己負担で医療を受けざるを得なくなっている。
-
メディケア制度 税財源によるメディケア制度により医療費の一部を負担。質の高い医療サービスを求める者は民間保険の活用も可。
メディケア制度は、国民全般を対象とした医療保障制度で、国費による医療費の一定割合の支給と、公立病院の入院費用の全額公費負担が2本柱。
財源は、制度運営に係る費用は一般財源とメディケア税(個人課税所得の1.5%。メディケア関連支出の約25%を占める)によって賄われているが、州立病院の場合には州政府が運用費用を分担している場合がある。
8.9
参考:厚生労働省『2003〜2004年 海外情勢白書』『2004〜2005年 海外情勢報告』OECDヘルスデータ2003

患者自己負担の割合
  一般開業医 専門医 入院
30%
※3歳児未満は20%
※75歳以上の者及び65〜74歳で重い障害を持っている者は老人保健制度に加入。所得により窓口負担は10〜30%。
100ドル迄は全額負担+超えた部分の20%。 全額自己負担 1-60日876ドル迄全額自己負担。
61-90日間1日219ドル。
90日を超えれば1日438ドル。
※全人口の13%を占める公的なメディケアプログラムの受給者となっている者(高齢者及び障害者)に適用。HMOに加入している場合には全額負担の部分が小さくなる。
自己負担無し 1処方あたり9ドル。一定期間分のまとめ払い(130ドル)があれば無料。免除されている者が多い。 自己負担無し
四半期当たり10ユーロ(当該期間の全診察が対象)。予防医療については免除。 紹介を受けた患者については、その紹介が同じ四半期内である限りは追加料金無し。 患者負担は価格の10%であるが、1回の投薬につき下限5ユーロ〜上限10ユーロ。 患者負担は1日当たり10ユーロ。
上限は1年間で28日分。
※1年当たりの全体的な患者費用負担の上限は粗所得の2%(慢性疾患の患者については1%)。18歳未満の者については費用負担は無い。
30%※ 自己負担無しの場合もあるが、殆どの医薬品で35%、アメニティ医薬品又は治療効果が立証されていない医薬品については65%。 1日当たり11ユーロ+全コストの20%
(入院後最初の30日間。
 上限が200ユーロ)
※合意された料金表(doctor conventionne)の30%及び追加請求がある場合にはそれに加えたもの。 患者負担は、通常は追加請求分も含む患者負担についても部分的にカバーする補完的保険の適用を受けている場合にはより小さくなる可能性がある。補完的保険は全人口の80%を超えた部分が対象となっている。社会的弱者や長期の病気にかかっている者の場合には費用負担がゼロの場合もある。
外来患者料金:診療所30%、病院40%、総合病院55% 総合病院:全額自己負担
病院・診療所で薬剤調剤料30%(薬局調剤料が1万ウォン以下の場合、1,500ウォン定額)
入院治療費:20%
都市従業者基本医療保険制度について、医療保険給付の対象となる病院及び薬局は政府が指定しており、指定病院・薬局以外でサービスを受けた場合は保険の対象外。被保険者は指定病院の中から3〜5箇所の病院を選択・登録し、基金の確認を受ける。
※北京市における患者自己負担割合(医療費により自己負担額が変わる)
  ・・・一級病院受診(15〜3%)、二級病院受診(18〜3%)、三級病院受診(20〜5%)
請求書の25%について平均的には5ドル。一般的な患者には、一括して請求されているのでなければ報酬表の85%を償還。 請求書の71%について平均的には8ドル。紹介を受けて受診した患者には報酬の85%を償還。 PBS制度に基づき一般的な患者に薬を処方した場合、1件最大23.70オーストラリアドル(およそ18USドル)。 自己負担無し
※参考:厚生労働省『2004〜2005年 海外情勢報告』、OECD編著/阿萬哲也訳『世界の医療制度改革』明石書店(2005)

日本の医療の評価

  


<医療情報室の目>
世界から見た日本の医療制度
 今回の特集では各国の医療制度を列記した。制度そのものがまったく違う国々を同列の表にて比較検討することは困難であるが、WHOの公表している健康達成度では日本は「健康寿命」、 「健康達成度」ともに世界で1位となっている。また、平均寿命は男性で78.4歳、女性で85.3歳ともっとも長命であり、乳幼児死亡率も最も低いグループの1つである。 さらに、国民医療費が国内総生産(GDP)に占める割合も2001年度で18位となっており、結果として非常に安価な医療費で、もっとも優れた結果を出していることになる。 上記のグラフではイギリスと日本は対GDPが同じ7.6%となっているが、手術の数ヶ月待ちなどの「ウエイティングリスト問題」でイギリス政府は医療費であるNHSの支出を大幅に増加させており、 2005年度では日本よりも対GDPは高くなっている。
 日本の医療費がこれほど安いにもかかわらず、アウトカムが優れている理由の1つは現場の過剰労働にあると言われている。このような状況の中で、財政主導にてさらなる医療費の抑制策を続けると、 現場の加重は限界を超え、日本の医療は崩壊していく可能性が高い。奈良県の妊婦が18の病院に断られたことが大きな問題となっているが、日本の医療はギリギリのところまできている結果であろう。
 9月に発足した新政権には、今後の医療制度が少しでも国民にとってよい方向に向かう取り組みを期待したい。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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