医療情報室レポート
 

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2006年 6月 2日
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:コ・メディカルスタッフの需給バランス

 高齢者の負担増を柱とする「医療制度改革関連法案」が5月18日の衆議院本会議で、自民、公明両党など賛成多数で可決され、参議院に送付された。医療機関への大幅な負担を求めた過去最大の診療報酬の引き下げに続き、次は高齢者へ更なる負担を求める「医療費削減策」が進められている。
 ところで、医療の内容は年々、高度化・専門化が進んでおり、医療現場では、様々な職種が役割を分担すると共に、協働・連携して医療サービスの提供を行う、所謂チーム医療によりサービスの質の向上に努めている。「コ・メディカル」(co-medical)は、医師と協働して医療を行う、看護師・検査技師・放射線技師・薬剤師・理学療法士・栄養士などの医療職員である。
 今回は、今後の医療制度改革の方向にも影響すると考えられる医療関連職の需給に注目してみた。
  

 
総数から見た医療職員の推移

  ○医師・薬剤師数は「医師・歯科医師・薬剤師調査」(厚生労働省)から、保健師・助産師・看護師・准看護師数は 「厚生統計要覧」「就業保健師・助産師・看護師数,准看護師数,年次×就業場所別」(厚生労働省)から作成。
 
  平成6年
(1994)
平成8年
(1996)
平成10年
(1998)
平成12年
(2000)
平成14年
(2002)
平成16年
(2004)
医  師 230,519 240,908 248,611 255,792 262,687 270,371
薬 剤 師 176,871 194,300 205,953 217,477 229,744 241,369
保 健 師 29,008 31,581 34,468 36,781 38,366 39,195
助 産 師 23,048 23,615 24,202 24,511 24,340 25,257
看 護 師 492,352 544,929 594,447 653,617 703,913 760,221
准看護師 369,661 383,967 391,374 388,851 393,413 385,960

 
病院所属 医療職員数の推移

  ○厚生労働省「医療施設(動態)調査・病院報告の概況」(平成15年、平成16年)から以下直近3年の統計である。
 
  平成14年
(2002)
平成15年
(2003)
平成16年
(2004)
対前年
増減率(%)
対前年
増減率(%)
総数 1,637,672 1,645,078 0.5 1,659,626 0.9
医師 174,261 175,897 0.9 177,613 1
常勤 142,357 142,278 △0.1 141,515 △0.5
非常勤 31,904 33,619 5.4 36,098 7.4
薬剤師 38,988 38,804 △0.5 39,283 1.2
保健師 2,251 2,558 13.6 2,710 5.9
助産師 17,269 17,069 △1.2 17,103 0.2
看護師 535,522 547,457 2.2 558,385 2
准看護師 203,737 194,516 △4.5 188,824 △2.9
看護業務
補助者
199,978 198,815 △0.6 199,097 0.1
  平成14年
(2002)
平成15年
(2003)
平成16年
(2004)
対前年
増減率(%)
対前年
増減率(%)
理学療法士
(PT)
22,029 23,815 8.1 25,949 9
作業療法士
(OT)
11,882 13,502 13.6 15,207 12.6
診療放射
線技師
33,559 34,167 1.8 34,887 2.1
臨床検査
技師
44,946 44,969 0.1 45,168 0.4
臨床工学
技士
7,451 8,094 8.6 8,743 8
管理栄養士 14,974 15,088 0.8 15,167 0.5
精神保健
福祉士
3,008 4,104 36.4 4,787 16.6
社会福祉士 1,727 1,956 13.2 2,291 17.1
介護福祉士 14,691 16,545 12.6 18,605 12.4

 
厚生労働省の看護職員需給見通し
厚労省は昨年12月に今後5年間の看護職員に関する受給見通しについて「第六次看護職員需給見通しに関する検討会報告書」を公表している。
平成18年の看護職員の需要見通しは約131万4千人、供給見通しは約127万2千人で不足は約4万2千人(96.8%)。5年後の平成22年の看護職員の需要見通しは約140万6千人、供給見通しは約139万人  で不足は約1万6千人(98.9%)。

 
    

 
厚労省報告書に対する日本医師会の見解
  ・・・ 見通しの数値は日医が各県から報告を受けた速報値との乖離が大きすぎる。
    日医の集計では、平成18年で54,713人の看護師が不足、平成22年でも45,991人が不足すると見積もられている。

厚労省報告書に対する日本看護協会の見解
  ・・・ 病院看護職員の需要は、医療機能の分化や病床数の適正化の進行に影響されるため、今後の医療制度改革の動向を踏まえたタイムリー な看護職員確保対策の実施が必要。看護職員の供給については、少なくとも平成22年には需要と供給が均衡する状況になるように 看護職員確保対策を強化するべき。

 
関係機関・団体等の現状認識

 
日本医師会
医療関係職種との連携及び資質の向上
  医師とその他医療関係職種との円滑な連携を図り、医療関係者に係る諸問題の改善に努力する。
特に看護職にあっては、社会の高齢化の進展に伴い、医療福祉分野における需要が増加している状況を重く受け止め、准看護師養成制度を堅持しつつ、新卒者の増員を図るなど看護職全体の需給バランスの確保並びに資質の向上に努める。
また、介護支援専門員を中心に多職種協働を推進し、ケアマネジメントの徹底化を図る。  (「平成18年度事業計画」から)

厚生労働省
看護職員確保対策について
  今後の少子社会を踏まえ、看護師等学校養成所における学生の確保が重要。
  新人看護職員の離職が多いことから、基礎教育の充実及び新人看護職員研修のあり方について検討する必要がある。
  いわゆる潜在看護職員の就業促進を図るため、啓発普及や研修の充実等ナースバンク事業を強化する必要がある。
  特に「セカンドキャリア」の活用も重要。            (第六次看護職員需給見通しに関する検討会報告書から)

日本看護協会
厚労省平成19年予算編成に向けた要望
  新人看護職員の卒後臨床研修の制度化促進
  看護職員の離職防止・就業延長策の強化
  助産師の活用の推進
  潜在看護職員への再就業支援の強化
  在宅医療・終末期医療の充実   他 (「平成19年度予算に関する要望」(H18/5/9)から)

全日本病院協会 日本医療法人協会 日本精神科病院協会
平成18年度診療報酬改定における要望
  医療現場では、看護師、理学療法士等、有資格者不足が顕著で、(H18年度診療報酬改定の)人員基準を満たす事の出来ない 病院が多数出現する可能性が高いことから、診療報酬改定が急性期入院医療、精神科入院医療の崩壊を引き起こす。
有資格者の人員基準を変更する場合、
 ●需給状況の実態を調査・把握した上で、変更可能であることを確認すること
 ●時間をかけて周知徹底を行うとともに、十分な準備期間を設けたうえで診療報酬改定を行うこと が必要。
(「平成18年度診療報酬改定における緊急要望」(H18/4/7)から)

<医療情報室の目>
★医療職員の需給と医療政策
 厚労省の看護職員需給見通しによれば、今後5年間は看護職員の供給が需要を満たすことはなく、慢性的な看護師不足は依然継続するものとされている。
 その一方で、平成18年の診療報酬改定で入院基本料の区分が変更されたことにより、看護職員全体の総枠が増えない中で、一般病床を持つ100床未満の中小病院の1割近くが経営難に陥っているとの結果が明らかになった(四病院団体協議会調査)。
 すなわち、従来の「(患者)15対(看護)1」「13対1」「10対1」の区分に加え、「7対1」の区分が新設され、より手厚い看護(看護職員の増員)への報酬が認められたことで、基準を満たす大病院への看護職員の「偏在」が生じ始めている。
 看護職員の偏在が病院間の「格差」を拡大し、医療界に於ける「勝ち組」「負け組」を生み出す懸念が現実のものとなりつつある。地域医療の中核となっている中小病院でコ・メディカルスタッフの確保が困難となれば、労働条件や経営の悪化による医療現場の荒廃と医療の質の低下を招き、地域医療の崩壊に繋がりかねない。
 少子化が進み、看護・介護部門でも人材不足が顕著になる中で、外国人労働力の導入に活路を求める議論も活発化しているが、大幅な診療報酬改定の見直しなど根本的な是正策がとられない限り、医療職員の需給アンバランスは益々加速していくだろう。
 医療現場の混乱に拍車をかける恣意的な医療制度改革を排し、現場スタッフの「やる気」を喚起する医療政策が望まれる。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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