医療情報室レポート
 

No.91  
 

2005年11月25日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:医療制度改革

 政府・与党は今月10日に「医療改革協議会」を設置、来年の通常国会に提出する医療制度改革案の取りまとめについて審議を始めた。会議の中では特に高齢者の患者負担や、保険免責制の導入などについて検討が重ねられている。
 中医協の診療報酬基本問題小委員会では今月9日、来年の診療報酬改訂の中で「外来医療に係る評価体系」、「生活習慣病対策」について協議、また、厚生労働省は今月10日、社会保障審議会部会へ診療報酬改訂に向けた基本方針の素案をまとめたものを提出している。診療報酬の具体的な改定数値については、来月12月中旬以降になると見られる。
 来年に向け医療制度改革及び診療報酬改訂について様々な所で意見が交わされ、日々報じられる情報は流動的であるが、今回は現在検討中の内容や日医の意見等についてまとめてみた。



医療制度改革

  ★改革案の検討と内容

    1. 高齢者の窓口負担
      高齢者の窓口負担については、70歳以上で現役並の所得の人を対象に現行2割の負担から3割に引き上げる方針。来年10月実施予定。
(H17/11/14 政府・与党医療改革協議会)

      一般・低所得の高齢者については、介護保険で1割負担、年金のみの収入に頼る高齢者が60%以上であることから、一般・低所得の高齢者については1割負担に据え置くべきとの意見が大勢。
(H17/11/16自民党 社会保障制度調査会医療委員会)

    2. 入院時の食費・居住費
      70歳以上の長期入院患者(療養病床)の食住費を自己負担化。
(H17/11/14 政府・与党医療改革協議会)
      一般病床を含む全ての入院患者の食住費自己負担化については見送られる予定。
(H17/11/14 政府・与党医療改革協議会)
    3. 保険免責制度
      政府・与党は医療費の一部を保険対象外として全額自己負担を求め保険免責制度は、大幅な負担増につながるとして与党内の反発が根強いことから、導入を見送る方針。(H17/11/16)
医療制度改革における検討事項
1 高齢者の
窓口負担
現役並所得70歳以上
2割→3割
導入予定
中低取得70歳以上
1割→2割
見送り予定
65歳〜69歳
3割→2割
検 討 中
2 入 院 時
食 住 費
自己負担
70歳以上長期入院患者(療養病床) 導入予定

一般病床含全入院患者

見送り予定
3
保険免責制度

見送り予定
4
医療費の総額管理

見送り予定
5
後期高齢者保険制度

検 討 中
6
診療報酬の引き下げ

検 討 中
  4. 医療費の総額管理制度
    政府・与党は、医療給付費を国内総生産(GDP)などマクロ経済指標に連動した数値目標で総額管理する手法は導入せず、給付費は個別の抑制目標を積み上げて抑制していくことを決定。(H17/11/14)

    但し、財務省などは、5年程度の期間で抑制目標を設定し、給付費の伸びを毎年度この目標に照らして検証、膨張している場合には適宜政策の見直しを行う手法の導入を要求。

  5. 高齢者医療保険制度
    厚労省は、高齢者医療保険について、新保険は市町村が運営、一定額以上の高額医療費は都道府県と国が負担する再保険とする制度を検討中。

  6. 診療報酬の引き下げ
    H18年の診療報酬改訂率については数字的な詰めを行っている段階。
川崎厚労相は「もう少し全体の数字を見ながら判断したい」と発言。(H17/11/14)

診療報酬改定

  厚生労働省は、今月10日に平成18年度診療報酬改訂に向けた基本方針の素案をまとめ、社会保障審議会の医療保険部会と医療部会へ提示。基本方針素案は7項目の論点で構成され、以下はその中から抜粋。

  ★平成18年度診療報酬改定の基本方針(素案)から

  1. 患者の生活の質を高める医療
    @ 診療報酬上の名称などの見直し
    A 医療費の領収書発行義務化
    B 生活習慣病予防の推進

  2. 医療機能の分化・連携の推進
    @ 疾患毎の医療機能の連携体制に係る評価
    A 在宅医療・終末期医療の評価
    B 平均在院日数の短縮
    C 急性期入院医療における診断群分類別包括評価(DPC)の拡大
    D 病院・診療所の機能分化・連携
    E 病院・診療所の初診料・再診料の評価

  3. 今後重点的に対応が必要な領域の評価
    @ 産科、小児科、救急医療に対する適切な評価
    A IT化推進
    B 新しい医療技術の保険導入手続きの透明化

  4. 効率化の余地がある領域の評価
    @ 慢性期入院医療の評価
    A 入院時の食事
    B 外来医療における不適切な頻回受診抑制
    C コンタクトレンズ診療等における不適切な検査の適正化
    D 後発医薬品の使用促進
    E 医薬品・医療材料・検査など市場実勢価格等を踏まえる


根拠としている数値

  医療制度改革おいて議論の根拠とされる医療費の将来予測は正しいのか。
日本医師会では医療費の将来予測について、厚生労働省の予測は常に高く推計され、予測値は信頼できないものであると指摘している。

 

<医療情報室の目>
★医療制度改革の方向
  日本では誰しもどこの医療機関でも保険証1枚あれば、費用のことはあまり気にせずに診療を受けることができる。
  この国民皆保険制度があまりにも当たり前とする感覚が国民の中にはあるのかもしれない。
 この制度は人の命に直接携わる医療には貧富の差に関係なく、全ての人が平等に医療を受けることが出来るようにとの理念に基づいたものである。

 国民皆保険制度は「大きな政府」を前提とした制度であるが、現在、政府が進める「小さな政府」では「民間で出来ることは民間で」「国家財政支出の削減」を目標に、「競争原理」「自助努力」の社会を目指すものであり、医療にも「市場原理」「競争原理」を持ち込もうとしている。(経済財政諮問会議など民間の意見)

 「小さな政府」を実現している米国医療の実態は、世界最高の医療費、先進国の中で平均寿命は最低で乳幼児死亡率も高く(OECD調査)、健康達成度の国際比較では世界15位となっている。(WHO調査、日本の評価は1位)
 米国には国民皆保険制度は無い。高齢者と障害者向けの公的保険以外、国民の70%は民間の保険に入っており、高額な保険料の為、民間保険に加入できない無保険者層は4400万人(国民の約15%)に上る。大企業の職員には一括で保険会社と契約する為、割安になるが、個人での加入には割高な保険料が請求され、所得の低い人ほど保険料が高くなり、その結果、無保険者層を形成している。無保険者層は重症にならない限りは病院にも行けず、診療を受けても診療費を払いきれない。貧富の格差の拡大がもたらすものは、社会全体の不安拡大でもある。

 現在進められている医療制度改革案の見本の現状は以上のようなものである。
 「長生きしたければもっと金を払え」とも言わんとする医療制度改革に反対する為、医師会では署名運動を進めている。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 津 田 泰 夫(広報担当)・入 江 尚(情報担当)・大 木 實(渉外担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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