医療情報室レポート
 

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2004年 7月30日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:介護保険 ーその7ー

 介護保険は施行後5年を目途に制度全般に関して必要な見直しを行うこととされている。
 社会保障審議会介護保険部会では厚生労働省が提示した報告書案により議論を重ねており、今月末に報告書をまとめる予定となっている。その後は、2005年通常国会への法案提出に向け、11月末までに介護保険制度改革大綱を取りまとめることになっている。
 日医や厚生労働省からは同部会に対し、介護保険制度改訂に向け、サービス利用者増による財政難を始めとして、障害者福祉との統合など諸問題に関する意見書を提出している。
 今回のレポートでは制度改定に向けた今後の方向性などについてまとめてみた。 


制度改定に向けて

 ★現在問題とされている主な課題

 
@保険料徴収対象年齢の拡大
 
A障害者福祉との統合
 
B医療保険(高齢者医療)と
 
        介護保険との整合性
 
C要介護・要支援の分類
 
Dケアマネジメントの見直し
 
                など
介護保険利用者・総費用の推移
  平成12年 平成13年 平成14年 平成15年 平成16年
要介護認定
者数(万人)
218 258 303 348 387
初年からの
増加率
- 18.3% 39.0% 59.6% 77.5%
総費用
(兆円)
3.6 4.6 5.2 5.7 6.1
初年からの
増加率
- 27.8% 44.4% 58.3% 69.4%
                                                             ※要介護認定者数は各年4月末
                                                             ※平成16年総費用は予算
                                                             ※介護保険事業状況報告より作成

日医の意見書

 ★介護保険見直しへの意見書

 
日本医師会では6月28日、介護保険制度見直しに向け、さらなる「ケアマネジメントの徹底」と「適切な医療提供
体制の構築」を求める意見書を提出した。

 
ケアマネジメントの徹底・・・ 軽度要介護者にホームヘルプや、福祉用具貸与などのサービスを提供して
要介護度の重度化を助長してきたこれまでのケアマネジメントのあり方を
問題視。
「適切なケアマネジメントなくしては介護予防策も実行されず効果がない」
として、介護支援に対する認識の徹底を強く求めている。
 
適切な医療提供体制の構築・・・ 利用者に最良の医療が提供できるようなかかりつけ医と介護サービス事業者
との連携、また介護施設と外部の医療機関との連携の仕組みが必要。
 
障害者支援費制度との統合・・・ 財政的な側面に重きを置いた形での見直しには直ちに賛成できない。
社会保障制度の整理の必要性は認めるが、疾病や障害を抱える人が保険料
など過度な負担を伴うのは適切ではない。
介護保険制度に大きく影響を与えるため十分な検討が必要。
<日本医師会「JMA PRESS NETWORK」ニュース(2004.6.28)>
制度改定の具体的内容

 ★介護保険部会の方向性

 
社会保障審議会介護保険部会では、制度改定について今月末に報告書を取りまとめる予定。
主な内容は次のようになると思われる。
 
   1)給付の効率化・重点
  総合的な介護予防システムの確立
  ・「予防重視型システム」への転換
  ・ケアマネジメントの体系的見直し・強化
  ・高齢者の状態を3つのモデルとして捉える(脳卒中モデル・廃用症候群モデル・痴呆モデル)
  ・統一的な介護予防マネジメントの確立
  ・市町村事業(老人保健事業や介護予防・地域支え合い事業)の見直し
  ・「新・予防給付」の創設・・・要支援・要介護Tを対象に給付内容を見直す
  施設給付の見直し
  ・保険給付率(利用者負担割合)の見直し
  ・施設利用・サービスの見直し
 
  2)新たなサービス体系の確立
  地域密着型サービスの創設・・・「痴呆ケアモデル」「独居モデル」等新たなサービスへ対応
  居住系サービスの体系的見直し・・・特定施設入居者生活介護の対象を介護付有料老人ホームやケアハウス
                 以外にも拡大
  医療と介護の関係    ・・・在宅・病院・施設といった場所の変化により医療と介護の連続性が失われることの
               ないよう、地域における医療と介護の包括的・継続的マネジメント体制を確立

 
  3)サービスの質の確保・向上
  ケアマネージャーの専門性の確立とケアマネジメント機関の見直し
  地域包括支援センター(仮称)創設
  ・在宅介護支援センター再編・統合も含めた中核機関の創設
    @地域の高齢者の把握、虐待への対応などの総合相談窓口
    A「新・予防給付」のマネジメントを含む「介護予防マネジメント」
    B介護以外の様々な生活支援を含む「包括的・継続的なマネジメント」
 

情報開示の徹底と事後規制ルールの確立
  ・全ての介護サービス事業所を対象として、第三者が客観的に調査・確認し、その結果を全て定期的に開示する
   仕組みの導入と開示情報の標準化
  ・事業者の指定更新制や指定に当たっての欠格事由に指定取消履歴を追加する

 
  4)保険料負担等
  1号保険料・・・現行所得段階別の定額保険料方式を基本とし、被保険者の負担能力を細かく反映するよう見直し
  2号保険料・・・給付の増大に連動して2号保険料が上昇することのないよう、2号被保険者や医療保険者などの代表が
       制度の運営に関与していく方法を検討

 
  5)制度運営
  保険者による給付等のチェック機能の強化、サービス圏域の設定等市町村事業計画の見直し

 

<医療情報室の目>
  ★利用者急増・財政の悪化の原因
 要介護認定者数は、平成12年開始時の218万人から平成16年4月には387万人に急増している。利用者の急激な増加の原因は、行政によれば、多数の事業者が参入しサービスは質・量共に充実、新しい社会保険制度としての仕組みに対する理解が深まったと評価している。しかし、一方では、機能低下を助長するようなサービス提供を行う等、民間事業所による過剰なサービス提供も原因の一つであると考えられる。
 また、不正請求の増加も介護給付を押し上げ、保険財政を圧迫している一因となっている。制度開始後、4年間で232の事業所が指定取り消しを受け、報酬返還額は29億円に上っている。厚生労働省では今回の見直しで、指定取り消しを受けた事業所には一定期間再申請を認めない方針で、また、不正に関わったケアマネージャーにも罰則を設ける予定である。尚、厚生労働省では給付実績から不正請求の疑いが強い事業所を見つけるコンピュータシステムを15億円かけて開発している。

  ★営利追求と医療
 介護保険においては制度開始当初から民間企業による参入が認められている。しかし、不採算部門からは撤退するなど、「地域の選別」「患者の選別」を行ってきた。利益を追求することが、医療サービスの偏在・不平等性をもたらしている。
 現在、政府の規制改革・民間開放推進会議では、引き続き医療保険における混合診療導入論や営利企業による医療経営参入の議論が行われているが、介護保険制度の現状から、営利企業による医療経営参入がもたらす結果が考えられないであろうか。営利を追求することが医療の不平等性をもたらし、更に患者・サービス利用者を過剰に増やすことが制度の財政を圧迫し、結果、国民への負担増に繋がる。
 医療の平等性崩壊・国民負担増に繋がる規制改革案に医師会としては強く反対の姿勢を続けていきたい。

  医療保険との調整
 医療保険と介護保険の制度間の分担・調整については、06年の診療報酬、介護報酬の同時改訂時に向け具体的な議論となる見込みである。しかし、既に療養病床を介護保険へ移行するなどの動きがあり、介護保険の財政はさらに圧迫され、現在の利用者1割負担が(医療保険のように)引き上げられる可能性がある。今後の議論に注目する必要がある。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 津 田 泰 夫(広報担当)・入 江 尚(情報担当)・大 木 實(渉外担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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