医療情報室レポート
 

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2004年 7月 2日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:医療と広報ーその1ー

医療に関する情報は新聞を始めとするメディアを通じて日々報道されている。
中でもこの数年は医療事故に関するニュースが絶えず報道され、国民の医療不信は益々強くなってきている。
信頼回復のためには、我々医療に携わる側と国民・患者側との良好なコミュニケーションを築くことが重要であり、私たちも医療に関する報道について理解を深めていく必要がある。
また、我々医師会の主張がなかなか一般の人々に伝わりにくい面があることも否めず、憂慮する所であるが、広報方法等についても今一度顧みる必要があるのではないだろうか。
そこで、今回のレポートでは国民や報道関係者へ医師会の主張を伝えるため、日本医師会の意見等についてあらためて纏めてみた。   


医師会の主張と反省

 ★日医植松会長インタビューから

  『日本医師会は、国民の皆さん方のために様々な活動を展開しながら、もう一つ理解を得られていないと感じます。患者さんから見ると、個々の医師は「ああ、良い先生で頼もしいな」と思っていただきながら、その総体である医師会となると、分かってもらえてないのではないでしょうか。
ですから、これからは国民の皆さんと一緒になって、社会保障の充実や、国民皆保険を堅持するための活動を行っていくことが大事だろうと考えています。
そのような活動を通じて、医師会がどの様に運営され、どのような政策をもっているのか等について、国民の皆さんに理解してもらうことが出来るのではないかと期待しています。そのためにも、透明性のある医師会を運営していくことが基本となります。』                                       ※日医雑誌131巻より



 ★日本の医療の成果は
 
「公平で良質な日本の医療」
 
 日本の医療費はOECD(経済協力開発機構)加盟国中18位という
 
 低い医療費(総医療費約30兆円)だが、WHO(世界保健機関)に
 
 よる健康達成度は1位
 
 
 
 現在政府が進める医療制度改革の手本とされる米国は世界一
 
 高い医療費(総医療費約176兆円)で、健康達成度は15位、
 
 医療の平等性は32位である。
 
 
 日本で行われてきた各種検診事業は予防医学的な役割を果たし、
 
 我が国の総医療費を抑制すると共に健康寿命世界一を達成した
 
 一要因であると考えられる。
 


 ★規制改革に対して

 
「国民負担増につながる政策に反対」
政府は規制改革・民間開放推進会議を始めとして、混合診療導入及び株式会社の医療経営参入等について今後も審議していく方針だが、医師会では、国の医療費削減政策により、国民へ更なる負担増を求め、国民皆保険制度(医療の平等性)の崩壊へと繋がる改革には反対の姿勢を続けている。


 ★医師の倫理高揚と医療事故ゼロをめざして

 
日医では本年3月末に「医師の職業倫理指針」を発表している。
(日医雑誌4/1号 第131巻に附属 http://www.med.or.jp/nichikara/syokurin.html )
本指針の中では医学的な知識と技術を生涯に亘って習得することを医師の「義務」と位置付けるとともに、患者の同意を得て診療すべきであることを強調している。また、医の倫理に反する不正行為、職業倫理に反する医療事故を根絶することを目的として自浄作用活性化委員会を常設している。


福岡市医師会から

 
「公私の区別」
我々医師にとっての公とは、医療を通して患者さんに奉仕する事であり、健康で安心して生活できるより良い社会の実現にお役に立つ事である。一方、私とは勿論、生活者としての自分達の生活基盤や個人の人生である。医療制度改革を論じる時は公の立場で議論が出来るが、診療報酬改訂に関してはやはり私の立場になってしまう。国民から見ると、その仕分けがはっきりせず、我々が私の立場で医療制度改革を我田引水的に論じているように見えているために、その支持が得られないのではなかろうか。規制改革論者の、医療特区構想や株式会社の病院経営参入の主張に対して「それは利害の抵触行為であり、公私混同で自己利益誘導ではないか」と言ってもその正論がなかなか素直に理解して頂けないのは、そこに問題があると思われる。公私を分けての医師会活動をどう表現していけるのか工夫と知恵が必要であろう。

「強者か弱者かの立場の認識」
医療制度改革を論じるとき、我々はとかく、自分達は行政の被害者であり弱者の立場であり、また国民の立場に立っているつもりで使命感を持って発言しているが、果たして国民はどう受け止めているのであろうか。国民から見れば、医師集団は社会的に成功者であり、強者と映っているのではなかろうか。国民の方こそ、我々の被害者と思っている様に見えるし、マスコミもその様に取り扱っている。国民と我々が一体となって、より良い医療改革に取り組むためには難問ではあるが、立場の違いを克服できる総合的な運動の構築が必須である。国民に同じ理解の土俵に上がってもらうには、思いやりの心や謙虚な態度を示す事からがそのスタートになるであろう。

「情報較差」
同じ理解の土俵と言えば、国民、マスコミと我々には超すに越せない情報の較差がある。たとえば、混合診療の問題にしても、関係者間でこれほど同音異義で使われている言葉は珍しいのではないかと思っている。我々が混合診療と言うときは、医療保険の守備範囲の縮小による、受療の自由度の制限と、自己負担により患者さんが著しく不都合を被る悪いものとして言っている。一方、患者さんは、混合診療とは国民皆保険で既に手に入れている自由と権利はそのままで、さらに自分達にとって自由な受療の機会が増える新しい良い制度と感じており、その機会を邪魔しているのが医師会ではないかと理解している節がある。患者さんが期待していることは殆ど、今ある特定療養費制度の柔軟かつ迅速な運用でクリアーできるものであると言うことを理解して頂けないのはなんとももどかしい限りである。我々医療者集団は、市場原理のもとに利潤追求を目的として効率化や、提供サービスの向上、競争原理の導入に取り組むのではなく、社会保障や健康価値など普遍的な人間重視に基づいた、市場原理とは違う価値体系を奉じて同じ活動を行う団体である事を何とか伝えたいと思う。まずは徹底した情報開示への取り組みが必要であろう。
 
                                        ※福岡市医報 第45巻第6号 No.534
                                            福岡市医師会副会長 江頭啓介「巻頭言」より

 



<医療情報室の目>
  ★福岡市医師会での取り組み
 本会では、マスコミや市民へ医療に関する知識の普及と医師会活動への理解を促進するため、新聞社や放送局等の報道機関各社による記者クラブを設置している。今後とも記者クラブを通じて、報道関係者との円滑な連携を図り積極的な広報活動に努めていきたいと考えている。
 我々は国民の代表たるマスコミに、国民のために行動している医師会の立場を理解して頂き、マスコミと我々が同じ土壌にあるという認識の上に、国民と一体となって安心できるより良い医療制度を築いていく必要があると考える。

  ★負担増が必要な治療に影響
 本年5月、厚労省研究班では、高血圧症や糖尿病の患者に関して、被用者本人3割負担増(昨年4月)実施による影響についての調査結果を纏めている。調査結果によれば、必要な治療を抑制していることが判明し、自覚症状が乏しい慢性疾患に対する受診の勧奨や治療の中断を防ぐ対策が求められると指摘している。
 政府の医療費削減政策は、必要な医療の受診抑制を招き、更に疾病増悪・増大をもたらしている。その結果、長期的には総医療費の増大に繋がると考えざるを得ない。

  ★アメリカ型医療制度の現状
 政府が推し進めている医療制度改革は、アメリカの医療を参考に進められ、株式会社による病院経営や公的医療保険と民間医療保険の併用を提案している。
 アメリカの公的医療保険制度がカバーしているのは、高齢者と低所得者だけで、それ以外の人たちは勤めている企業を通じて民間保険に加入する。しかし、企業負担が大きいために経営難の企業はサービスの種類が少なく、保険料が安い保険プランを選択する傾向がある。どの保険にも加入していない無保険者が4000万人もいるという深刻な結果を招いており、社会保障制度として手本になるものとは言い難い。
 医療や年金の改悪等、国民への負担増が引き続き行われようとしている現状を医師会は強く世論に訴えていく姿勢である。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 津 田 泰 夫(広報担当)・入 江 尚(情報担当)・大 木 實(渉外担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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