医療情報室レポート
 

bV3  
 

2004年 5月 28日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

印刷用

特集:日医新執行部ー今後の方針と期待ー

4月に行われた日医会長選挙の結果、植松治雄会長が当選、新執行部が発足した。会長の所信表明では、社会保障についての理念の確立と、国民皆保険制度の維持を政策の柱に据える考えが示され、前執行部が作成した今期の事業計画や予算を修正する意向も表明、従来路線との決別をアピールしている。
新執行部発足後、約2ヶ月が経とうとしているが、政府が押し進める医療制度改革は、財政至上主義の市場経済原理に基づき、経済財政諮問会議や民間開放推進会議において、相変わらず混合診療導入論や株式会社医療経営参入など、社会保障の理念崩壊・国民皆保険制度破壊に繋がる案が検討されている。
新執行部に残された課題は山積しているが、今回のレポートでは、今まで本レポートにて取り上げた特集についての現状や問題点、また、日医新執行部の方針や新執行部への期待等について特集した。
  


診療報酬改訂

 ★現状と問題点
  平成14年度の−2.7%改定は現在も医療機関における医業経営に多大な影響を与え続けている。
平成16年度の改定率は±0%であったが、実質は検査等の減額により内科系の医療機関は減収になると言われている。
また、次回平成18年度には介護保険制度との調整や高齢者医療制度等を中心とした医療制度改革案の提出など大幅な改訂が予想されるが、現行以下のマイナス改訂は何としてでも阻止し、避けなければならない。

 ★日医の方針
  これからの日本の国がどのような姿であるべきか、というところから考えていくべき。保険財政の行き詰まりといった目先の問題に終始しがちな今の改革論議では、国民は幸せにはならない。
    (植松治雄会長)

  診療報酬改訂に当たっては、執行部内にチームを作り、透明度のある対応をしていきたい。頻度の多い技術料を上げて、その平均値で(改訂を)やられると、多くの医療機関はマイナスになる。その辺もシュミレーションをしていかなければならない。そのためには、統計学の専門家等を交えて説得力のある資料を作成すべきだと考える。
今後は、今回の4月1日からの1%マイナス(診療報酬本体±0)改訂について、どんな影響を受けるのか分析する必要がある。

    (宮崎秀樹副会長)

介護保険制度

 ★現状と問題点
 
要介護認定者数の増加に伴い、制度の総費用も増加。
財政悪化への対策として制度の見直しが必要とされている。

現在、自己負担割合の引き上げ(現行1割→2〜3割)や、保険料負担の年齢引き下げ(現行40歳〜→20〜30歳)、障害者福祉を給付対象に統合すること等が検討されている。



 
制度発足から4年が経過したが、政府による医療費抑制政策は介護保険においても実施されようとしている。
診療報酬改訂の動向とともに、注視していく必要がある。

 ★日医の方針
  野中博常任理事は5月20日、介護保険の制度改革に向け、社会保障審議会介護保険部会に意見書を提出する考えを明らかにした。日本看護協会や全国介護支援専門員連絡協議会、全国老人保健施設協会など、現行の介護保険に関わる医療関係団体に声をかけ、合同でまとめる。
障害者を介護保険の給付対象に含めるのは時期尚早とする内容になるという。6月上旬にも話し合い、6月末にある次回部会に提出する。


規制改革

 ★現状と問題点
  規制改革・民間開放推進本部(本部長:小泉首相)は5月25日、本年度、医療、福祉・保育、教育の分野で「官製市場の民間開放」を主要検討課題とすることを決定。
また、規制改革・民間開放推進会議(議長:宮内義彦オリックス会長)では、混合診療導入・医療法人の経営方式の在り方(医療法人への株式会社等の出資取り扱い)等について今後も審議していく方針。

  地域を限定して規制を緩和・撤廃する構造改革特区で新たに適用する規制の特例措置を盛り込んだ改正構造改革特区法が成立。2004年10月から施行。

  財政制度等審議会(財務相の諮問機関)では、2005年度予算編成についての建議をまとめているが、社会保障は給付費の水準について中長期的目標を決めて歳出を抑制することや、一定金額までの医療・介護費を全額自己負担にする「保険免責制度」の導入などを提言。
社会保障における国の財政負担を減らす穴埋めを国民の負担増に求める内容。

 
経済的に有利な者だけが医療サービスを得る事ができるシステムの導入には断固反対。
経済的弱者は切り捨て、また、公的保険の範囲を縮小し(混合診療導入)、ビジネスチャンスの拡大を広げようとする(株式会社医療参入)政府の方針には引き続き強い反対姿勢を訴えていく必要がある。

 ★日医の方針
  日医は5月25日、財政審の建議に対し反論をまとめた。財務省に提出する。また、理事会メンバーで構成する「医療に関する規制改革検討チーム」も新設。
寺岡暉副会長は「(検討チームで)日医としての具体的考え方を早急にまとめて国民に示したい。国民運動のような形で進めていくよりほかにない」と話している。
反論は財政審に限らず、規制改革・民間開放推進会議、経済財政諮問会議など政府の審議会は、「医療関係者抜きで全て経済財政主導と民間開放のロジックで連動している」と危惧。


消費税問題

 ★現状と問題点
  医療(診療報酬)に於いて消費税は非課税措置がとられているが、薬剤・医療材料費等医療提供に必要なサービスについては全て消費税が課税され、最終消費者に転嫁されずに医療機関が負担し続けている。(損税)
小泉首相は3年間は消費税率を上げない事を発言しているが、それ以降は税率が上がることが予想される。
医療機関における収入は診療報酬のマイナス改訂などにより、医業経営は悪化の一途を辿っていることから、消費税率が上げられる前に早急な対策が必要である。

 ★日医の方針
  医療の公共性を考えたときに、軽減税率ならなんとかなるのではなかろうかというのが私の考えである。
自民党税調や政府論調にも「これなら議論できる」という案を日医が持たなければならない。政治力とのペアで進める。

    (植松治雄会長)
    ※日本医師会JPNニュースに基づき作成

<医療情報室の目>
★医療が迎える局面
   小泉政権発足後3年が経過したが、今後も医療制度改革は引き続き行われる。来年以降、介護保険制度の見直しや高齢者医療制度の見直し、医療保険制度の再編・統合を盛り込んだ医療制度改革法案の提出、さらに、次回診療報酬改訂は診療報酬体系の抜本改革と位置付けられている。
 植松会長新執行部が発足したのは、このような医療界にとっては非常に重要な局面を迎える時期にあたると言え、新執行部の活動を我々地域医師会も支援していく必要がある。

★政府の医療制度改革による影響
   厚生労働省がまとめた「最近の医療費の動向」では被用者本人の受診抑制は続いており、依然として昨年4月に実施された自己負担引き上げの影響が色濃く浮き出た結果となっている。政府が進める財政至上主義の医療制度改革は、必要な医療を受けない患者を生み出す結果を招く等、国民の健康保持増進に著しい悪影響を与えていると言わざるを得ない。

★日医と地域医師会
   我々地域医師会としては、国民が安心して暮らしていけるような社会及び医療提供体制の確立のため、日医と共に努力を続けていきたい。植松会長は、国民の信頼を得るためには地域医師会活動が一番大切であることを述べている。
 医師会の立場を解りやすく国民に説明するため、日々の診療や健康教育の場等の地域医療活動を通じ、身近な所から伝えていく事が我々地域医師会の役割であり、地域医師会の活動が日医の活動へと繋がっていくと考える。

★新執行部への期待
   新執行部発足から間もないが、執行部の発言を見てみると観念的・概念的な発言が多いようである。地域医師会としては、(従来路線とは違う)具体的な方法についても期待を寄せている。
 今後、我々医療関係者の主張を厚労省や財務省を始めとする政府の機関に訴えるためには、抽象的な言葉を持って訴えるのではなく、具体的な数値を示していく必要がある。例えば、医療制度改革前後の医業経営の状況や患者動向についての数字を行政が提示する情報に付き合わせていくこと等が現場の声を反映することに繋がる。
 植松会長は日医総研の役割を関係資料の分析や調査などに特化していく考えを強調している。その一つの方策として、安く使い易いレセコンを普及させ、協力機関から生データを収集するシステムを構築したいとの意欲があるようだ。
 そのためにも、我々地域医師会でもデータを提供し、日医の活動を支えていくことにやぶさかではない。
 全国規模での地域医師会の協力が必要となってくる。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 津 田 泰 夫(広報担当)・入 江 尚(情報担当)・大 木 實(渉外担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


  医療情報室レボートに戻ります。

  福岡市医師会Topページに戻ります。