医療情報室レポート
 

bU6  
 

2003年10月31日
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:介護保険−その6−

 2000年(平成12年)4月から実施されている介護保険制度は4年目を迎える。
 制度実施から3年が経過し、今年4月には最初の保険料の見直し・介護報酬の改定が行われ一つ区切りがついた感もあるが、制度全体や現場に於いてはこの3年間に様々な問題も露呈してきている。
 例えば、この3年間で、介護サービスの利用者数は大きく伸びてきてはいるが、同時に要介護認定者数は高齢者数の伸びを上回る勢いで増加しているという一面もある。また、利用者増加に伴い、介護保険の総費用も増大し、今後の制度見直しが必然とされている。
 今回は介護保険における現状の問題点や今後の課題について特集してみた。

現状における問題点


 ★増加していく費用

 

介護保険の総費用が2000年度実績の3.6兆円から
本年度は5.4兆円に増加しており、給付対象者の増加
に伴い、制度全体に係る総費用も増加している。


 

厚生労働省は、現在の保険料を今後3年間で介護給付費が約22%(年平均伸び率7%)増えると見込んで設定している。しかし、実際の給付費はこれを上回る勢いで伸びており、厚生労働省は現在の水準のまま推移すると年平均で10%強、3年間では約33%増加すると推計している。


 

介護保険料は3年毎に改定され、本年4月に保険料
の改定が行われているが、保険料を引き上げた保険
者(市町村)は全体の8割にのぼる。
(全国の保険料平均上昇率は13.1%)


 ★要介護認定者の増加・軽度の者の増加

 

この3年間で要介護認定者数は、高齢者数の伸びを
上回って増加している。
統計によれば、重度の者より、軽度の者の増加が
著しい。

 

日医総研が7,878人を対象に2000年10月と
2002年10月の要介護度を比較した調査によれば、
要介護度が改善したのは全体の7.8%、維持(同じ
要介護度)35.8%、重度化(悪化)29.1%、死亡
23.2%、その他(認定なし)4.1%であったことが
わかった。要支援では重症化が全体の半数近くに
あたる48.9%を占めた。
<日本医師会「JMA PRESS NETWORK」ニュース(2003.7.7)>
 

「要支援」は、「介護が必要となるおそれのある状態」と位置付けられており、介護が必要となる状態になることを予防することを目指しているが、効果が得られていない状況である。



 ★事業所の指定取り消し
   サービス事業者については、不正請求などによる事業者の指定取消件数も増加している。

 

事業者の指定取り消しの事例

 
 
・訪問介護を実際には利用者に提供していないにも拘わらず、介護給付費を不正
 に請求・受領。
・移送時間と訪問介護時間を故意にすり替えた虚偽の実施記録により不正に請求。
・同一人の訪問介護員が、複数の利用者に同一時間にサービスを提供したとして
 不正請求・受領。
 

民間事業所を巡るトラブル
営利法人は採算性の少ない過疎地域への参入が低調である。
  また、参入した地域で採算性が少なければ、その地域より撤退する傾向が見られる。
「要支援」の人に車椅子の福祉機器を提供する等、機能低下を助長するようなサービス提供が行われている。
指定取り消しを受けた事業所が一年後に他県で再度指定申請をする。
「介護保険による住宅改修」を勧誘の入り口として、主に独居老人など情報に乏しい利用者の弱みにつけ込み、支給限度額を超え
  る高額の工事を契約するというトラブルが増加している。


今後の対策など


 

財政悪化への対策
 
 
厚生労働省の介護保険部会では介護給付費が現在の水準のまま伸び続ければ、次回介保険料見直し時期の2006年には1号被保険者の保険料の大幅引き上げは避けられなくなるとの見通しを示している。
また、被保険者の対象年齢引き下げや、公費負担の拡大を求める意見も出ている。


 

給付費適正化への対策
 
 
厚生労働省では、「適正化特別対策事業」として、本年度及び次年度予算として70億円計上しており(一保険者当たり1,000万円)、各保険者に指導を促している。
また、厚生労働省では年内に「事業所指導等のための対応マニュアル」、年度内に「要介護認定に係る適正化指針」が策定される予定である。
福岡市においても、給付費適正化事業として本年10月から半年間で、居宅介護支援事業所を中心とした30の事業所にて介護給付費の請求や併設サービスの提供等の状況の照会・調査が行われる予定である。


 

審査システムの強化
 
 
国保連合会審査支払システムを来年1月より本格稼働し、医療費データとの突き合わせによる「重複給付の抽出」等が行われる予定である。
また、不正や疑いのある場合には実地指導(居宅サービス事業所3年に1回、施設2年に1回)の頻度に拘わらず、状況に応じて実地指導や監査に係る事前通告期間の短縮化や当日通知もあり得ると厳しい姿勢を示している。


 

事業所評価制の導入

 
 
介護保険制度では、法人形態を問わず参入可能とされているが、一部自治体では既に第三者機関による事業所評価制を導入している。
厚生労働省は10月21日、介護サービスを提供する事業者の指定方
法の見直しを検討することを決めた。
同省は、悪質な事業者の参入を防ぎ、地域ニーズに合ったサービス提供体制を確保するため、介護保険を運営する市町村が事業者を指定できるようにすることなどを検討する。
<日本医師会「JMA PRESS NETWORK」ニュース(2003.10.22)>
 

医療保険との整合性
 
 
厚生労働省の介護保険部会では、日医代表の提案により「高齢者医療制度と介護保険制度の整理」が議論されていく予定である。
その整理の仕方については、平成18年が診療報酬と介護報酬の改定の時期にあたるため、@財源部分の統合、A予防給付・医療給付・介護給付の3つのサービスの区分けにより整理が行われる事になっている。


<医療情報室の目>
 今回は介護保険における問題点及び今後の対策について特集したが、制度創設時より民間企業の導入が行われ、福祉の「措置」から「契約」に転換されたことにより、事業所の職業倫理が薄らいでいるという指摘がある。
 現在、医療保険への株式会社参入が議論されているが、介護保険制度における民間企業導入の問題から学べるところは多いのではないだろうか?利益を追求する概念を医療・福祉の現場に持ち込むことは、結局、患者やサービス利用者の不利益となって跳ね返ってくる側面があることは否めない。生命を扱う医療の現場に利益を追求する市場原理が果たして本当に必要であろうか。
 また、職業倫理に添った事業運営が行われていれば、第三者機関による評価制度等は本来必要ないものではないだろうか。
 医療の質的向上を目的とするのならば、市場の利益追求による競争によるのではなく、技術水準など、質の評価による競争のみによるべきであることをより多くの方に理解して頂きたいと考える。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 長 柄 均(広報担当)・江 頭 啓 介(地域医療担当)・入 江  尚(情報担当)


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