医療情報室レポート |
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2003年8月29日
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1501・FAX852-1510
特集:個人情報保護法
本年5月23日に個人情報の保護に関する法律が国会で成立した。本法律は5月30日に公布され、2年以内に施行されることになっている。
個人情報保護法は、個人の権利や利益を保護することを目的とされ、医療の分野にも適用されることになっている。本法律における個人情報の取扱事業所の基準としては、「5,000件を超える個人情報を保有している個人情報取扱事業者」とされており、厚労省の見解によれば、新規開設を除く殆どの民間医療機関が対象となるとされている。
今後は本法律に沿った形でカルテ等の診療情報の開示が原則義務化されることになるが、日医では従来から「診療情報の提供に関する指針」で診療情報については積極的に開示するよう指針を提示する一方で、カルテ開示の個別法制化には反対していた。今回、厚生労働省の「診療に関する情報提供等の在り方に関する検討会」においても「個人情報保護法により診療情報提供について法的基盤が整った」として、カルテ開示の個別法制化は見送られることとなった。
そこで、今回は本法律の概要や医療における情報の取り扱い等について特集してみた。
個人情報保護法の概要 |
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個人情報保護法では、@利用目的を特定すること A目的以外に利用してはならないこと Bあらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならないこと となっている。
しかし、医療の分野においては疫学調査や研究のために情報の提供が必要となることから、 @人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合 A公衆衛生の向上または児童の健全な育成の推進のために、特に必要がある場合には目的外利用・第三者への提供が可能 となっている。これは、法の原案が出来る過程の中で日医・医療関係学会の働きかけにより適用除外項目が書き込まれた。
★基本理念
個人情報は、個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきものであり、その適正な取扱いが図られなければならない。 |
★情報の定義
個人情報 ・・・・・・・・・ | 生存する個人に関する情報 (氏名、年月日などにより識別可能な情報) | |
個人情報データベース等 ・・ | 個人情報を含む情報の集合物 (検索が可能なもの。一定のマニュアル処理情報を含む) | |
個人情報取扱業者 ・・・・・ | 個人情報データベース等を事業の用に供している者 (国、地方公共団体等の他、取り扱う個人情報が少ない等の一定の者を除く) |
★個人情報取扱事業者の義務等
@利用目的の特定、利用目的による制限(15条、16条)
○ | 個人情報を取り扱うに当たり、その利用目的をできる限り特定 | |
○ | 特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えた個人情報の取扱いの原則禁止 |
A適正な取得、取得に際しての利用目的の通知等(17条、18条)
○ | 偽りその他不正の手段による個人情報の取得の禁止 | |
○ | 個人情報を取得した際の利用目的の通知又は公表 | |
○ | 本人から直接個人情報を取得する場合の利用目的の明示 |
Bデータ内容の正確性の確保(19条)
C安全管理措置、従業者・委託先の監督(20条〜22条)
○ | 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置、従業者・委託先に対する必要かつ適切な監督 |
D第三者提供の制限(23条)
○ | 本人の同意を得ない個人データの第三者提供の原則禁止 | |
○ | 本人の求めに応じて第三者提供を停止することとしており、その旨その他一定の事項を通知等しているときは第三者提供が可能 | |
○ | 委託の場合、合併等の場合、特定の者との共同利用の場合(共同利用する旨その他一定の事項を通知等している場合は第三者提供とみなさない) |
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E公表等、開示、訂正等、利用停止等(24条〜27条)
○ | 保有個人データの利用目的、開示等に必要な手続等についての公表等 | |
○ | 保有個人データの本人からの求めに応じ、開示、訂正等、利用停止等 |
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F苦情の処理(31条)
○ | 個人情報の取扱いに関する苦情の適切かつ迅速な処理 |
G主務大臣の関与(32条〜35条)
医療情報の取り扱い |
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★個人情報保護法における診療情報の取り扱い
カルテなどの診療記録は個人情報保護法に於ける「個人情報」に該当するとされ、診療記録を保有する医療機関(延べ5,000件を超える個人情報を取り扱う医療機関)は「個人情報取扱事業者」として法案に規定する義務を負うことになる。 違反した場合は、主務大臣による中止勧告・命令等が行われ、さらに従わない場合は罰則規定もある。 |
★医療分野におけるガイドライン
厚生労働省の「診療に関する情報提供の在り方に関する検討会」報告書では、個人情報保護法を補完するガイドライン案を定めており、「診療情報」の定義等については次の通りとしている。 |
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<医療情報室の目> |
★情報の電子化 現代社会の中では「情報の電子化」が益々進み、医療分野における情報についても例外ではない。医療情報の電子化・ネットワーク化により、診療録等における診療情報(氏名等の個人識別情報、診察経過、検査結果、看護記録、既往歴など)は、医師だけではなく、看護師や事務職員なども含めて多くの医療従事者により同時に取り扱われることとなり、また、医療従事者と患者が同時に共有できるという利便性をも生んでいる。 しかし、共有できることの利便性の反面には、大量の個人情報が第三者へ流出するという危険性の一面もあり、個人情報の管理には従来にも増した細心の留意が必要である。 ★医学研究に与える影響 医学研究の目的は、医学的知識を得てより良い医療を求めることであるが、研究の基盤となる個人情報とは切り離すことが出来ない。医学の研究・進歩のためには、基盤となるデータが必要であり、基盤となるデータには個人の正確な情報が必要である。個人情報の保護は「個人の情報を自己がコントロールする権利を尊重すること」であるが、個人情報の利用・提供を全て本人の同意を得る原則に沿うことは、莫大な時間の浪費と事務処理上の問題、また統計データの不確実性をも招くことになる。 個人の医療情報を研究のデータに提供することは医学発展に繋がり、引いては個人の医療情報の提供が社会に還元されるといった公衆衛生向上の側面があることについて国民の理解が必要である。 |
※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
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担当理事 長 柄 均(広報担当)・江 頭 啓 介(地域医療担当)・入 江 尚(情報担当)