医療情報室レポート |
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bU2
2003年6月27日
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1501・FAX852-1510
特集:新医師臨床研修制度
平成12年11月に医師法が改正され、来年(平成16年)以降に医学部を卒業し医師免許を取得した者は、今まで努力目標とされてきた卒後臨床研修を、一定の要件を満たす施設で二年間研修に専念しなければならないことになっている。
研修制度の改正としては、昭和43年にインターン制度から現行の研修制度へ改正されてから実に35年ぶりであるが、新たな研修制度下では医師会の関わり方・地域医療の役割・さらに医局制度・大学教育制度にまで大きな影響を与えると考えられ、本会でも福岡県医師会が設置する新医師臨床研修制度委員会で検討を始めているところである。しかし制度自体が未だ不透明で、研修医の処遇の問題や財源の問題も積み残されたままである。
そこで今回は、現時点で判明している新医師臨床研修制度の概要や、問題点、現行制度との相違点などについて特集する。
医師臨床研修制度の流れ |
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| ★インターン制度〜現行の医師研修制度 |
| 昭和21年(1946年)「国民医療法施行令」の一部改正によりインターン(実地修練)制度が創設され、昭和23年 (1948年)に成立した現行医師法により明文化された。インターン制度では医科大学(医学部)を卒業後に医師国家試験受験資格を得るため、一年以上の診療及び公衆衛生に関する実地訓練を受けることが義務付けられていた。 |
| しかし、このインターン制度は、実地修練生の地位や身分の不安定、研修体制の不十分、修練病院に対する不十分な助成策などの理由により、昭和36年(1961年)頃から医学教育関係者などから批判が起こり、現行制度に改正されるに至った。 |
| 昭和43年(1968年)に医師法が改正・施行され、インターン制度は廃止、現行の臨床研修制度が発足するに至った。 |
| 現行の制度では「医師は、免許を受けた後も、二年以上大学の医学部若しくは大学付置の研究所の付属施設である病院又は厚生労働大臣の指定する病院において、臨床研修を行うように努めるものとする」とされ、義務から努力義務規定となっている。 |
| ★現行制度の問題点 |
| 現行制度については、早い段階から種々の問題点が指摘され、様々な変革を経て今日に至っているが、専門性が強すぎることや大学医局中心の制度であることが弊害として指摘されている。 |
| 現制度では、医師としての第一歩から専門的な研修を行うため、多様な疾病に対応できる医師としての広範な能力やいわゆるプライマリケア技術・知識を身につけることが出来なくなり、医療の受け手が求める医師の姿と、医師養成の方向がずれてしまったと言われている。 |
| また、大学病院を中心に研修が行われており、実際に研修対象者の約4分の3が大学病院に集中している。厚労省はローテート研修が行われるよう補助金の支給に工夫をしてきたにもかかわらず、専門医の短期養成に目が向けられ普及しなかった。 |
| さらに、臨床研修が学習であるとともに労働であるという性格を有するという認識が、研修を行う側、研修を受ける側の双方にとって薄く、研修医に対して適切とは言えない処遇がなされている例が数多く見られることなど、研修効果や医療安全の面でも問題が多いことが指摘されている。 |
新医師臨床研修制度の概要 |
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| ★基本理念 |
| 新臨床研修制度では、現行の努力義務規定に変わり、再度義務規定となっている。本制度の基本理念について、厚労省によれば、単に専門分野の負傷又は疾病を治療するのみでなく、患者の健康と負傷又は多様な疾病に対応できる医師の育成が期待され、医師と患者及びその家族との間での十分なコミュニケーションの下に総合的な診療を行うことが求められていることとされ、適切な指導体制の下で効果的に幅広く医師として必要な診療能力(態度・技能・知識)を身につけることが基本理念とされている。 |
| ★医師法 現行制度との比較 |
現 行 | 平成16年4月以降 | |
臨床研修 |
医師は、免許を受けた後も、2年以上大学の医学部若しくは大学附置の研究所の附属施設である病院又は厚生労働大臣の指定する病院において、臨床研修を行うように努めるものとする。
(医師法第16条の2関係) |
診療に従事しようとする医師は、2年以上、医学を履修する課程を置く大学に附属する病院又は厚生労働大臣の指定する病院において、臨床研修を受けなければならない。
(医師法第16条の2関係) |
専念規定 |
− |
臨床研修を受けている医師は、臨床研修に専念し、その資質の向上を図るように努めなければならない。
(医師法第16条の3関係) |
| ★制度の基本設計 |
研修プログラム | 研修プログラムは2年間をプライマリケアにおける基本的な診療能力を修得する期間とするとともに、研修目標を達成できるプログラムでなければならない。 | |||||||||
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| ※ | 厚労省は本年6月12日に臨床研修病院の指定要件を緩和する省令改正を告示している。 |
| | (緩和措置については2006年度末までの経過措置とする方針で、継続するか否かを含めて検討する場を設けることとしている) |
施設基準 |
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処遇 | 研修医がアルバイトをせずに臨床研修に専念できるよう、国は責任をもって適切な処遇が確保される制度を設ける。 一方、研修施設も研修医のアルバイトを禁止するものとする。 |
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実施後5年以内を目途にこれらの条件を見直すとともに、第三者的な臨床研修の評価機関を設置すること。 |
大学病院・地域の医療機関への影響 |
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| 新制度の関わり方について、大学病院や地域病院等各方面に亘り様々な動きが出てきている。 |
| ★大学病院 |
| 新制度の影響により、医師数の確保のため、「医師の引き揚げ」問題が生じてきている。大学病院においては、研修医は患者の診察や当直をこなす貴重な「労働者」であり、医療サービスの低下を招きかねないといった不安があり、採用数を大幅に削減される事を懸念し、今から必要な常勤医師を確保しておこうという動きがある。 |
| ★民間病院 |
| 大学病院からの医師引き揚げを「医師の貸し剥がし」と嘆いている。特に医師が不足している病院では研修医による診療の応援は不可欠で、臨床研修を行うために病院群を作ろうとしても、大学病院は国公立病院と連携する傾向にあり、民間病院は新制度においては研修病院の指定を受けにくいという現状がある。 |
| 民間病院からは、今後の医師確保については紹介業者に依存せざるを得ないという意見もある。厚労省では「医療分野における規制改革に関する検討会」において、医師や看護師などの医療資格者の派遣を容認する最終報告書をまとめているところではあるが、いずれにしても民間病院は、今後、大学医局に頼らない医師確保策を考えていく必要性が生じるであろう。それに伴い、従来から医師の派遣・紹介により地域医療を支えてきた大学医局制度にも多大な影響があると予想される。 |
日医の取り組み |
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| 従来から日医では大学病院主体の卒後研修のあり方を疑問視しており、地域において患者・住民から求められている医師を養成するという見地から数回にわたる検討を行ってきた。日医の主張は、「大学や教室というこれまでの権威に頼ることなく、現役医師が次世代の医師を育てて、次代の医療を担わせることが重要であり、そのためには、例え手間がかかっても、人が人を育てるという臨床研修本来のあり方を確立すべきだ」というものであり、地区医師会が主体となった独自の研修制度のモデル事業を提案・実施・援助をしている。日医のモデル事業では、栃木県医師会、大分県医師会、岡山県医師会にて実施されている。 |
栃木県医師会 |
地域臨床研修委員会を設置。研修医は平成14年度から1名、平成15年度からも1名参加。 昨年度は栃木県医師会立塩原病院および宇都宮社会保険病院を中心に各診療科のローテート研修を実施。 今年度は獨協医大、自治医大、診療所、精神病院、老人保健施設、大田原赤十字病院、保健所等で実施予定。 |
大分県医師会 |
大分県医師会地域臨床研修委員会を設置。平成15年度から1名参加。 大分市医師会立アルメイダ病院にて6ヶ月間は内科系を中心に研修予定。 |
岡山県医師会 |
平成15年度から1名参加。プログラムやカリキュラム等について現在調整中。 |
残された課題 |
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| 本制度においては次の問題が課題として残されており、制度実施に向けて早急な検討が必要と思われる。 |
○ | 研修医の処遇(研修医の経済的・身分的保障) |
○ | 財源確保(制度運営上の財源が未定) |
○ | 制度運営上の主体(行政が主導となるのか?医師会が主導となるのか?) |
○ | 地域医療への影響(従来、研修医が行ってきた非常勤・当直医の不足) |
○ | マッチングシステムの運用(研修希望者と研修病院にシステムが浸透しているか) |
○ | 研修指導者の確保・手当 |
○ | 研修施設の整備・確保 |
<医療情報室の目> |
★医師会の役割-今後の展望- 厚労省は臨床研修病院の指定要件を緩和し、制度をソフトランディングさせることにしているが、残された問題は上記の通り山積みで、地域医療の現場では新制度への不安と混乱が生じているのが現状である。本会においても、福岡県医師会が主催する新医師臨床研修制度委員会に協力し、制度の運営に関して早急な対応策を検討しているところである。 研修制度は県単位で運営されることが予想されるが、地域の医療機関及び大学病院間の調整等については地域医師会が主導となって行っていくことが必要であり、本会としても意欲的に取り組んでいきたいと考えている。また、本制度をより充実したものへと発展させるためには、診療所や老健施設などの多くの医療機関及び医師が臨床研修協力施設としてこの取り組みに積極的に参加することが必要であり、次の世代の医療を担う医師を養成するために、会員の先生方には是非本制度へのご協力をお願いしたい。今後も本制度の詳細が決まり次第、随時紹介していきたいと考えている。 |
※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
(事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
担当理事 長 柄 均・江 頭 啓 介・入 江 尚