医療情報室レポート
 

bU0  
 

2003年 4月25日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

印刷用

特集:高齢者医療制度について

 政府は本年3月28日、医療制度改革の基本方針を閣議決定した。医療制度改革の基本方針は、@保険者の統合・再編を含む医療保険制度体系 A新高齢者医療制度の創設 B診療報酬体系の見直し を柱に2008年度の実現を目指す。
 今回の改革の焦点である高齢者医療制度の案では、「前期高齢者」(65歳以上75歳未満)「後期高齢者」(75歳以上)の二本建ての制度に再編し、それぞれ給付率を「前期」8割、「後期」9割にすることを前提に議論が進められている。(現行の制度では70歳以上の給付率が所得により8割または9割となっている。)
 昨年10月の高齢者一部負担金の定率化(1割または2割)、本年4月からの被用者保険3割負担等、国民の負担増ばかりが先行する改革の中で、最大の課題である高齢者医療制度が今後どのように変わっていくのか、今回のレポートでは新高齢者医療制度の内容と方針、また、日本医師会の見解等について特集する。
  


医療制度改革の基本方針

 ★高齢者医療制度の基本方針について

今回、政府は3月28日、医療制度改革「基本方針」の新高齢者医療制度について、次のように閣議決定した。
個人の自立を基本とした社会連帯による相互扶助の仕組みである社会保険方式を維持する。
年金制度の支給開始年齢や介護保険制度の対象年齢との整合性を考慮する。
一人当たり医療費が高く、国保、被用者保険の制度間で偏在が大きいことから、65歳以上の者を対象とし、75歳以上の後期高齢者と65歳以上75歳未満の前期高齢者にそれぞれの特性に応じた新たな制度とする。
老人保健制度及び退職者制度は廃止し、医療保険給付全体における公費の割合を維持しつつ、世代間・保険者間の保険料負担の公平化及び制度運営に責任を有する主体の明確化を図る。
現役世代の負担が過重とならないよう、増大する高齢者の医療費の適正化を図る。

具体的な内容

 今回の改正案では、現行の老人保健制度と退職者医療制度を廃止し、後期高齢者については「独立保険」、前期高齢者については「制度間の医療費負担の不均衡調整」(財政調整)の2本建てとすることとなっている。
<後期高齢者>
 加入者の保険料、国保及び被用者保険からの支援並びに公費により賄う新たな制度に加入する。
<前期高齢者>
 国保又は被用者保険に加入することとするが、制度間の前期高齢者の偏在による医療費負担の不均衡を調整し、制度の安定性と公平性を確保する。


財源と負担について

 高齢者医療制度の保険運営を行う保険者の考え方について、坂口厚労相は「後期高齢者の部分だけ別枠の保険者を作って、そこだけを別に運営していくのではなく、現在の国保のなかで後期高齢者、前期高齢者の運営をしていただく」と述べ、将来的には65歳以上の高齢者の保険者は地域保険に統合することを示している。また、地域保険に統合しても公費・若年層からの支援・自己負担・保険料の割合は前期高齢者と後期高齢者で相違があることも指摘している。
 保険料については、前期高齢者については負担してもらう方針だが、後期高齢者の保険料水準については決定していない。
 公費負担の在り方については、後期高齢者には公費5割を投入するが、前期高齢者については今後の検討課題となっているとのことである。
 前期高齢者については国保または被用者保険にそれぞれ加入し、その上で財政調整するところまでの方針しか示されていない。坂口厚労相は、国保と被用者保険の財政調整まで終わった段階で、次のステップとして国保と被用者を各地域ごとに統合して「地域保険」とし、改革の最終段階で後期高齢者の地域保険と併せるとしている。
 
 今回示された高齢者医療制度の患者自己負担について、後期高齢者(75歳以上)は1割負担、前期高齢者(65歳以上75歳未満)は2割負担とする前提で審議されることに決定した。(下図参照)


坂口厚労相は、今回の改正案について、「3割負担、2割負担、1割負担と、だんだん高齢になるにしたがって自己負担割合を減らすのは、考え方としては非常に傾聴に値する意見だ」と前向きに受け止める考えを示している。

改革のスケジュール

この基本方針に基づく医療保険制度体系に関する改革については、平成20年度(2008年度)に向けて実現を目指す。
法律改正を伴わずに実施可能なものについては逐次実施、法律改正を伴うものについては、概ね2年後を目処に順次制度改正する。
この基本方針に基づく検討に当たっては、社会経済情勢の変化、医療保険及び国・地方の財政状況の推移等を十分に勘案する。また、地方公共団体、保険者、医療関係者などを含め広く国民の意見を聴いた上で具体的な内容をとりまとめるものとする。
医療保険制度の改革に当たっては、年金制度、介護保険制度等の関連する社会保障制度改革や政府の経済財政運営の方針との整合性を確保する。その実施に当たっては、現行制度から新制度への円滑な移行がなされるよう十分に配慮するものとする。

日本医師会の見解

 日医では高齢者医療制度について、「75歳以上の後期高齢者を被保険者とする」「都道府県あるいは広域連合体を保険者とする」「財源として公費を90%、保険料と自己負担を10%前後とする」といった提案をしてきた。
 今回の制度改革案について、坪井栄孝会長は3月30日、日医定例代議員会の会長所信表明で、65歳から74歳の医療費自己負担を2割とする方向で政府与党間の調整が進む見通しであることに触れ、「(日本医師会の)部分的な勝利」と述べた。
<日本医師会「JMA PRESS NETWORK」ニュース(2003.3.30)より>
 また、日本医師会の青柳俊副会長は4月1日会見し、高齢者医療については、年金生活者の制度設計に十分配慮する必要性を指摘し、65歳から74歳の医療費自己負担を2割とする方向を支持。「ある程度の方針が決まり、予算面の解決が図られ、法改正ができるという時期がくれば、そこから対応すべきだ」と述べ、前倒し実施を示唆した。
<日本医師会「JMA PRESS NETWORK」ニュース(2003.4.1)より>

<医療情報室の目>

 従来から日医では、「75歳以上を対象にした独立型の制度を創設し、74歳未満は一般世代と同様、国民健康保険か健康保険に加入する」ことを主張してきた。今回の高齢者医療制度案については一部日医の主張が認められたことになる。
 また、「保険者の整理・統合を推進」「質が高く、患者にとって最適の医療を効率的に提供するという視点で診療報酬体系を見直す」としてきた日医の主張についても、今回の制度改革に盛り込まれている点については評価出来る。
 しかしながら、財源の問題や負担のあり方等、まだまだ検討を要する課題が残されている。更に、日医では医療保険と介護保険を結合して新しい高齢者医療制度を創設することも唱えている。現段階では基本方針が閣議決定されたのみで、今回紹介した制度の内容については未だ案の段階であるので、今後、後期高齢者が加速度的に増加していく中でこれらの課題について 国民の側に立った視点で議論が進められ、持続可能な制度が構築されるよう、日医のより一層の活動に期待したい。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 長 柄 均・江 頭 啓 介・入 江  尚


  医療情報室レボートに戻ります。

  福岡市医師会Topページに戻ります。