医療情報室レポート |
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2002年7月26日
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1501・FAX852-1510
特集:自立投資とは
『自立投資』概念の導入については、21世紀医療の中期的ビジョンを描いた「2015年医療のグランドデザイン」の中で、今後予測される医療技術革新等への対応策として提案がなされたが、今年3月に公表された「医療のグランドデザイン−補遺2016年版−」では、税制支援策、低所得者に配慮した基金の設立など『自立投資』についてより具体的な内容が示された。
今回は、「医療のグランドデザイン−補遺2016年版−」に沿って、日医が独自に提唱する『自立投資』の基本的な考え方などについて紹介する。
自立投資概念の導入 ―その背景と定義― |
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21世紀中盤に向け、遺伝子治療や臓器移植等の先進的医療技術が飛躍的に進歩し国民の医療に対するニーズの拡大が進む中、公的保険だけでは財源を賄いきれなくなることが予測される。 |
○ |
国民個々人の備蓄(あるいは保険)を財源とし、個人の選択と責任において、健康保険で給付されない医療(例えば遺伝子治療、再生医療、臓器移植等)の先端的な医療を受けられることを基本とした仕組み。 |
○ |
独立した個人が、主に未だ健康保険に採用されていない先端的な医療技術の適用を自らの選択によって受けることを目的としたファンドを、税制上適切な支援を得ながら備蓄し、そのような機会があった場合に必要に応じて自らの判断で健康を対象として投資し、その結果について責任を持つという考え方。 |
自立投資対象の選定方法 |
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○ |
健康保険給付から除外されたもののうち、選択性の強い医療 |
【高度先進医療の一部、臓器移植、遺伝子治療、生殖補助医療、再生医療など】 |
※自立投資対象医療の審議・決定のための具体的手段 |
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・ |
国が関与しない機関(センター)を設置 |
・ |
関係者(医療提供者、ファンド投資者、ファンド管理者)の代表、学識経験者により構成する審議会を設置し、自立投資対象医療を選定 |
・ |
ひとつの自立投資医療に対する医療機関間の医療費の格差が大きくなることを回避するため、審議会により自立投資対象医療算定基準を設定 |
<健康保険給付の医療> |
・ |
対象患者数が希少な疾病であっても、対応する診断・治療法が限定されているもの |
・ |
対象患者数が多数の疾病であっても、対応する診断・治療法が複数あり、その中で医学的有効性・安全性の比較の観点から一定の比率で選択されるもの |
【従来の保険診療、高度先進医療の一部、従来認められてなかった有効な治療や検査、薬剤等予防的な医療など】 |
<医療周辺部分> |
・ |
治療を目的としない入院時の食事、患者のアメニティに係るもの |
【差額ベッド、予約診察、患者都合による時間外の診察、入院時の食事など】 |
今回のグランドデザインで提唱された税制的支援策 |
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貯蓄の目的:自立投資対象の医療費で、必要相当と認められるものの支出に限定 |
A |
運用管理等の受託機関:民間金融機関 |
B |
払い込まれたファンドの適用:国債引受けに限定 |
C |
受給権の帰属:契約者本人およびその配偶者、ならびにその子どもに給付事由が発生した場合に限り受給可能 |
D |
解約および目的外取崩し:税制上の特典が受けられなくなることを前提条件に可能 |
E |
目的取崩し:自立投資対象医療に対する適切な支出か否かを「センター」がチェックするシステムを確立 |
F |
契約者死亡時の積立金残高の帰属:遺族による相続が可能 |
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払込額の全部または一部を所得税・住民税の計算上、所得控除の対象とする |
A |
控除額の決定方法については、年間払込額のうち一定額を所得控除する方式、もしくは一定の算式を用いて求めた金額を所得控除する方式を併用 |
B |
運用段階で発生した運用益に対しては、所得税・住民税は非課税とする |
C |
自立投資医療の費用のために積立金を取り崩す場合に限り、以下の特例措置を講ずる |
・ |
元本部分の払戻し・運用益部分の払い戻し分についても、所得税・住民税とも非課税とする |
・ |
払い戻して医療機関に支払われた自立投資対象の医療費については、医療費控除の対象とする |
D |
死亡時の未消化残高を遺族が相続した場合 |
・ |
運用益に対する所得税課税を非課税とし、貯蓄残高総額の相続税も非課税とする |
・ |
経済的な理由によりファンドを持つことのできない個人が対象 |
・ |
医療に限定したものという性質上、創設にあたっては日医をはじめとした医療関係団体が主体となることが望ましい |
自立投資と混合診療 |
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「2016年医療のグランドデザイン」では、自立投資と混合診療との違いについて具体的に詳述されており、自立投資医療と健康保険診療の区分については、自立投資対象医療を採用・実施した時点で自立投資財源による給付に全面的に切り換え、以後、健康保険適用の治療を併用することになっても、その費用も含め全て自立投資財源で賄い健康保険の適用はないものとしています。 |
自立投資は個々人の備蓄を原資としており、健康保険診療とは切り離して考える必要がある。健康保険診療との区分の条件としては、その時点で代替する手段がないこと、自立投資対象医療を選択・実施以降は、当該疾病に係る継続的な診療を健康保険診療に戻さないこと等がルールとして考えられる。 |
健康保険診療における一連の診療のなかで、健康保険診療と保険外診療(自由診療)を併用することが、いわゆる混合診療といわれており、特定療養費制度のような一定のルールに基づく場合を除いては、原則として認められていない。 |
特定療養費の取り扱い |
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一定の有効性が客観的に証明されている診断・治療法や薬剤については、「普遍性」と「選択性」をキーワードとして健康保険給付の対象とするものと自立投資の対象とするものに区分されていますが、2016年医療のグランドデザインでは、自立投資導入の際の「特定療養費制度」の位置付けについても考察を加え、高度先進医療から予約診療の予約料までその対象が幅広い特定療養費制度については、項目に共通する理念が見えにくいと指摘し、将来的には廃止する方向に向かうべきであると結論づけています。 |
<医療情報室の目> |
『自立投資』は、公的医療保険制度という従来のシステムの安定を堅持しつつ、医療技術革新への対応を図るという二律背反の事態を統合するために案出された概念であるといえる。 |
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