医療情報室レポート
 

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2002年2月1日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:株式会社の医療経営参入
           −その1−

昨年12月11日、政府の総合規制改革会議が「規制改革の推進に関する第一次答申」を取りまとめました。医療は規制改革が積極的に推進されるべき重点6分野の一つとして位置づけられ、具体的施策が提言されています。この中で、経営の近代化・効率化のため「株式会社などを含めた医療機関経営の在り方を検討すべき」とし、市場原理による改革を推進しようとしています。
今回の答申内容は、3月に見直しが予定されている政府の「規制改革推進3カ年計画」に反映され、検討されることとなりますが、日医・厚労省は医療機関経営への株式会社参入には反対しています。
今回は、株式会社の医療経営参入に対する各機関の見解等についてお知らせします。

現在の法制度

  医療の非営利規制
 

 

医療法第7条第5項
  営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、前項の規定にかかわらず、第一項の
  許可を与えないことができる。
  第一項の許可:病院、診療所を開設しようとする際の都道府県知事の許可
  営利:○財産上の利益を目的として、活動すること。かねもうけ。<広辞苑(岩波書店)>
  財産上または収入上の利益を上げるようはかること。利益の獲得を目的にして活動すること。利潤を追求する
    行為。金もうけ。<日本国語大辞典(小学館)>

  株式会社の定義
    商 法
 
第52条
  本法に於て会社とは商行為を為すを業とする目的を以て設立したる社団を謂う。  
 
  営利を目的とする社団にして本編の規定に依り設立したるものは商行為を為すを業とせざるも之を会社と看做す。  
 
第53条
  会社は合名会社、合資会社及び株式会社の三種とす。  
※ 商行為:
営利のために行われる行為で商法が定めるもの。絶対的商行為・営業的商行為・付属的商行為に
    分ける。<広辞苑(岩波書店)>
 
営利活動に関する行為。形式的には、商法および特別法にそれと規定されている行為をいう。
    基本的商行為である絶対的商行為、営業的商行為および付属的商行為に分けることができる。
      <日本国語大辞典(小学館)>

総合規制改革会議答申


   
医療における主な具体的施策
 
(1)医療に関する徹底的な情報開示・公開
 
    ・広告規制の緩和(許される広告の内容・範囲の大幅拡大)<13年度中に措置>  
 
(2)IT化の推進による医療事務の効率化と医療の標準化・質の向上
 
    ・レセプトのオンライン請求を中心とする電子的請求の原則化(紙中心のレセプトを原則電子的請求へ)  
    <計画を13年度中に策定し、速やかに実施>  
  (3)保険者の本来機能の発揮  
    ・保険者によるレセプトの審査・支払(支払基金等を通さず保険者自ら審査・支払を行うことを選択できるようにする)  
    <13年度中に措置(速やかに実施)>  
  (4)診療報酬体系の見直し  
    ・出来高払い中心の制度から、包括払い・定額払い方式(診断群別定額報酬支払い方式:DRG/PPSなど)の拡大<段階的に実施>  
    ・公的医療保険の対象範囲の見直し(特定療養費制度の対象範囲の拡大、患者の選択による公的保険診療と保険外診療の併用)  
    <13年度中に措置(逐次実施)>  
    ・「205円ルール」の廃止(薬剤名等の内訳を省略した請求の廃止)<13年度中に措置>  
  (5)医療分野における経営の近代化・効率化  
    ・医療機関経営に関する規制の見直し<13年度中に措置(速やかに実施)>  
    ・理事長要件の見直し(合理的な欠格事由を除き理事長要件を廃止)<14年度中に措置>  
  (6)その他  
    ・医療関連業務の従事者の派遣に関する規制の見直し<13年度中に措置>  
    ・医薬品販売に関する規制緩和<14年度中に措置(逐次実施)>  

医療機関経営に関する規制の見直し
    医療機関の経営形態に関する規制の根拠は、公益性が強い医療サービスについて、営利主体の参入を抑制することにより医療サービスの質を維持するためと考えられてきた。しかし、持分のある医療法人の財産は、社会福祉法人と異なり、出資者に帰属しており、その資金調達方法は銀行などからの借入れに事実上限定されている。直接金融市場からの調達などによる医療機関の資金調達の多様化や企業経営ノウハウの導入などを含め経営の近代化、効率化を図るため、利用者本位の医療サービスの向上を図っていくことが必要である。このため、今後、株式会社方式などを含めた医療機関経営の在り方を検討するべきである。

   ※総合規制改革会議「規制改革の推進に関する第一次答申」全文は、首相官邸ホームページに掲載されています。
      http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2001/kisei/1211kisei.html

日本医師会 医療政策会議報告書『医療と市場経済』

日本医師会は、総合規制改革会議に代表される改革論議が市場原理の導入を主眼に行われていることに対し、その論理に様々な問題点があることを提示し、昨年9月、医療政策会議が報告書「医療と市場経済−国民が安心できる医療−」をまとめました。   
報告書では営利企業による医療経営参入について、次のとおり問題点を提示しています。

営利企業による医療経営参入の問題点
    医療に市場原理を適用すべきであるとする論脈に沿うかたちで、営利企業による医療経営参入の問題が提起された。営利追求のなかで培われた組織運営や経営管理のノウハウを医療経営に適用することで、医療提供の効率化を達成することが可能であるとの趣旨のようである。まず、医療は非営利であるべきとする法体系との整合が求められるが、株主へ配当を第一として医療において利潤を追求することは、医療の基本理念に悖ることにほかならず、広く国民的合意を得ることはきわめて困難である。仮に参入が認められたとしても、収益性の高い領域を選別し、不採算部分を切り捨てざるを得ない営利病院の活動は、地域医療に深刻な矛盾と混乱を招く恐れが強い。現に医療の理念を受け止めながら、昨今の厳しい社会保険診療体制において練磨された多くの医療機関の経営は、営利企業の経営者が外部から見たほど脆弱なものではなく、開設者が医師であればこそ、医療の成果と経営の成果を見事に両立させた、優れた経営の事例も少なくないことを認識すべきである。

平成13年度医療政策会議報告書「医療と市場経済」全文は、日本医師会ホームページ「メッセージ」の中に掲載されています。
  その他医療制度改革に対する日医の見解等が以下に掲載されています。
  ・日本医師会の主張・提言:http://www.med.or.jp/message/messagef.html
  ・平成13年度医療政策シンポジウム「医療と市場経済」:http://www.med.or.jp/nichikara/sympo13/index.html
  ・日本の医療の実情(日医ニュースでも連載中です):http://www.med.or.jp/etc/ishihara.html

 
<医療情報室の目>

★市場原理と競争原理
 市場原理における評価の決定は、提供物の質の評価とともに価格の評価が重要な要素となります。公定価格である社会保険診療報酬と保険種別に基づく一定の自己負担割合が決められている現実にあって、市場原理が働くことは考えられませんし、働かせようとすればこれは即ち混合診療の導入を意味すると考えます。混合診療は、保険外診療が拡大される可能性を秘め、負担能力により享受できる医療サービスが限定されるといった格差が生じ、更に医療費の高騰を招きます。このことが社会保障の理念に適うのか、国民皆保険体制にどのような影響を及ぼすのかなどを含めた慎重な議論が必要と考えます。
 医療は、その技術水準等、質の評価による競争原理を働かせ、より機能を向上させることが主目的であると考えます。営利企業の参入によらずとも、現行制度において競争原理を働かせることができると考えます。また、現在医療が抱えている諸問題や改革が必要な項目が、営利企業の参入により解決するとは考えられません。医療の質的向上を図るために必要な競争を市場原理を通して行おうとする今の論理が、医療の主権者は病人であるとの認識に立てば、本質的に間違っていることを社会に対し発言し、注意を喚起していく活動を我々医療人が行わなければならないと考えます。

★改革論議が適正な土俵・多角的な視点で行われているか
 改革論議の主舞台である総合規制改革会議の議長・議長代理はそれぞれ規制緩和に伴う新たな市場に参入しようとする企業の経営者であり、かつ他の委員の中に医療の専門家が入っていないため、論点を側面(経済的視点)からしか捉えていないと思わざるを得ません。
また、現在の医療が非効率で無駄が多いとの考えに立ち議論がなされておりますが、国際的な評価を見るとWHOの保健報告(2000年)で日本の医療制度は総合評価で第一位、医療費の対GDP比(1997年)はOECD加盟29カ国中20位に位置していることなどからも、低医療費で高い医療成果を上げていることになります。はたして国際的に評価を受けている医療制度が非効率なのか、規制改革が必要なほど構造不況に陥った原因なのかということも、今後の「規制改革推進3カ年計画」の見直しの際は改めて検証すべきではないかと考えます。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 百冨 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 江 頭 啓 介・入 江  尚


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