医療情報室レポート
 

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2001年10月26日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:小泉内閣の構造改革と
      日本医師会の見解 −その2−

9月25日、厚生労働省より平成14年度医療制度改革の試案が公表されました。
内容は経済財政諮問会議、総合規制改革会議における論議を考慮してか、財政中心の考え方であり、患者負担の増加のみが際だっています。
日本医師会は同日、「厚生労働省の医療制度改革試案に対する意見」を発表し、厚生労働省案の主な問題を指摘するとともに、日本医師会の考え方を示しました。
今回は、年内にも決定される政府案の「たたき台」とも言える厚労省の試案と日本医師会の見解についてまとめました。

日本医師会の意見

  日本医師会は、「医療改革を断行するに当たって最も留意すべきは、医療の本質を認識することと、現行制度の客観的評価を行うことである。」として、今回の厚労省試案が当面の財政収支の修復に終始しているに過ぎず、「医療の本質を理解せぬまま、財政偏重の誤った改革を遂行すれば、将来、必ずや国民の健康不安を招来するばかりか、国家のあり方をも誤った方向に誘導しかねないことを政府は強く認識すべきである。」と次のとおり主な問題点を指摘している。

   医療保険制度の改革

   1. 医療保険制度全体の給付の見直し
  過去の医療保険制度の見直しは、患者負担の増加と給付率の引き下げの繰り返しであり、医療費財源における公費、事業主負担の家計への転嫁に過ぎなかったという反省を忘れてはならず、国家財源配分の見直しとともに、全体的な負担割合をどのように設定すべきかという根本的な議論が行われないままに、いたずらに社会保障の給付率を引き下げるべきではない。 
 

日本医師会は、一般世代の医療保険は、地域保険への統合を視野にいれながら、8割給付に一本化することを強く提案する。

   高齢者医療制度の改革

   1.制度設計
    日本医師会の提案は、疾病に対するリスクの高い者を加入者として保険が構成されることから、保障的色彩を強め公費を90%投入すること、自らが被保険者として保険料を納めることにより、制度への参加意識を高め、発言の機会を得られるようにすること等が、制度設計の背景にある。
高齢者医療制度は、加入者の絶対数の増加は避けられないものの、若年世代からの予防医療の充実、生涯保健事業の体系化、合理的な診療報酬支払方式の開発・導入などによって、また、一般世代に比べれば、疾病構造の相違から技術革新を反映する部分は相対的に小さいであろうということから、受診者1人1日当りの医療費単価の伸びを低く設定し、出血を可能な限り抑えることを日本医師会は提案している。
厚生労働省案は、単に75歳以上にすることによって加入者を縮減し、財政的な対応を図ろうという姿勢しか感じられない。つまり、日本医師会の提案とは「似て非なるもの」と言わざるを得ない。

   2.老人医療費伸び率管理制度  
諸外国との比較においても、わが国の医療費水準は決して高いものではない。医療費の行過ぎた管理は、いずれ必要な医療の提供を量的にも質的にも阻害し、患者の健康に大きな不安を与えることになる。

   診療報酬・薬価基準等の見直し

   1.診療報酬体系
    国民の生命・健康を守るという極めて根源的な行為を担当することから、医療機関は社会資本として明確に位置付けられるべきである。
厚生労働省案においては、医療技術や医療機関の運営コストが適切に反映される体系への見直しが提案されており、そのこと自体は評価できる。

   保険者に関する規制緩和等

   1.保険者による直接審査・個別契約
医療機関の保険請求や審査・支払に事務の煩雑化を派生させ、医療コストの増加を招くだけでなく、国民皆保険体制下の基本である平等性、公平性、フリーアクセスを国民から奪うという根本的問題がある。また、守秘義務という視点や、的確な医療費統計の分析を阻害するという課題も内包している。

厚労省「医療制度改革試案」の概要

   医療保険制度の改革

   1.医療保険制度全体の給付の見直し(平成14年度実施)
給付率の一元化
  ・給付率を7割に統一
  ・老人医療の対象者 9割
  ・70〜74歳の者   8割
  ・3歳未満の乳幼児 8割
高額療養費の見直し
薬剤一部負担金制度の廃止
   2.保険料の見直し(平成15年度実施)
総報酬制の導入
政府管掌健康保険の保険料率の引き上げ
   3.国民健康保険制度の財政基盤の強化(平成15年度実施)

  高齢者医療制度の改革

   1.老人医療費の伸び率管理制度の導入(平成14年度実施)
    経済の動向と大きく乖離しないよう老人医療費の伸び率目標を設定し、その範囲に抑制する枠組みを構築する。
   2.対象年齢の見直し・公費負担の重点化(平成14年度から5年間かけて段階的に実施)
対象年齢の引き上げ
・現行70歳から75歳に段階的に引き上げ。
公費負担の重点化
  ・現行3割から5割に段階的に引き上げ。
   3.患者一部負担の見直し(平成14年度実施)
    患者一部負担割合の見直し
  ・老人医療の対象者   1割負担 
  (一定以上の所得の者 2割負担)
  ・70〜74歳の者     2割負担
    自己負担限度額の見直し等
  ・自己負担限度額を引き上げ。
  ・低所得者については据え置き。あわせて、対象者の範囲を拡大。
   4.老人医療費拠出金の算定方法の見直し(平成14年度実施)

  診療報酬・薬価基準等の見直し

   1.平成14年度改定の課題
    療養病床に係る報酬体系の見直しや長期入院に係る給付の在り方の見直し
    包括払いの拡大等支払い方式の見直し
    生活習慣病等に対する生活指導の重視
    医療技術の進歩等に対応した特定療養費制度の拡大
    薬価や保険医療材料価格の適正化
   205円ルールの見直しなど医療事務の透明化

  保険者に関する規制緩和等

   1.保険者による直接審査等
    保険者自らが審査支払を行うこと及びその民間委託を可能とする(平成13年度)
    社会保険診療報酬支払基金の審査業務の在り方の見直し(平成13年度より順次実施)
   2.保険者と医療機関の契約
    診療報酬に係る個別の契約を締結することを可能とする(平成14年度)
   3.レセプト電算処理の推進
    レセプト電算処理を容認する地域や医療機関を個別に指定する省令の廃止(平成13年度)


<医療情報室の目>

★厚労省の改革試案の問題点−反対署名運動により阻止を−
 厚労省の試案は、患者負担増により受診抑制を図り医療費を抑制しようとする意図が見えます。平成9年の社会保険被保険者負担1割→2割への引き上げの際と同様、その効果が一時的であることは容易に想像できます。重要なことは、医療が生命・健康に関わる極めて公共的な存在であるという本質を認識し、国家としての責務の範囲を明確にして改革を推進していくことではないかと考えます。
 また、医療サービスの効率化に名を借りた株式会社の参入、老人医療費の伸び率管理、保険者による直接審査・個別契約は「経済財政諮問会議」「総合規制改革会議」の意を受けたものであり、国民皆保険、現物給付制度、フリーアクセスを阻害するものに他なりません。
 日本医師会はこの度、厚労省の患者負担増を伴う改革を阻止するため、全国一斉に反対署名運動を実施し国民世論に訴えようとしています。会員の先生方皆が危機感を持って本運動にご協力いただきますよう、よろしくお願いいたします。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 百冨 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 江 頭 啓 介・入 江  尚


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