医療情報室レポート 
 

bS1  

2001年10月1日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:小泉内閣の構造改革と
          日本医師会の見解 −その1−

『骨太の方針』 『聖域なき構造改革』 『改革なくして成長なし』
国民の圧倒的支持を受け、小泉内閣は日本再生のための構造改革に積極的に取り組む姿勢を打ち出しています。検討されている場所は主に、内閣府に設置された『経済財政諮問会議』『総合規制改革会議』であり、6月には経済財政諮問会議が「基本方針」を、7月には総合規制改革会議が「中間とりまとめ」を公表しました。
それぞれ医療制度の改革が盛り込まれていますが、経済効率のみを優先した財政主導の考え方であり、その独走には自民党内や厚労省からも批判の声が上がっています。
日本医師会も「声明」を発表し、財政主導の改革に医療制度崩壊の危機感を表しています。
今回は、新聞紙上や日医ニュース等で既に数多く報道されている、経済財政諮問会議の基本方針と日医の見解についてまとめました。

経済財政諮問会議とは

  中央省庁再編に伴い、経済財政政策に関し有識者の意見を十分に反映させつつ、内閣総理大臣のリーダーシップを発揮することを目的として内閣府に設置された合議制機関で、内閣総理大臣を議長とする11名の議員で構成される。
 経済全般の運営の基本方針、財政運営の基本、予算編成の基本方針その他の経済財政政策に関する重要事項についての調査審議等を行う機関。

  <構成メンバー>
小泉純一郎(内閣総理大臣) 福田 康夫(内閣官房長官) 竹中 平蔵(経済財政政策担当大臣) 片山虎之助(総務大臣) 塩川正十郎(財務大臣) 平沼 赳夫(経済産業大臣) 速水 優(日本銀行総裁) 牛尾 治朗(ウシオ電機椛纒\取締役会長) 奥田 碩(トヨタ自動車且謦役会長) 本間 正明(大阪大学大学院経済学研究科教授) 吉川 洋(東京大学大学院経済学研究科教授)

『骨太の方針』の概要

 経済財政諮問会議は、6月21日に「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」いわゆる『骨太の方針』を取りまとめ発表、政府は26日の臨時閣議で正式決定した。
 医療制度改革については効率化と医療費の抑制の方針を強く打ち出している。

   −持続可能な制度に向けて−

 国民皆保険体制と医療機関へのフリーアクセスの下で、サービスの質を維持しつつコストを削減し、増加の著しい老人医療費を中心に医療費全体が経済と「両立可能」なものとなるよう再設計することが重要。
 持続可能性を持つ「価値」ある保険制度の確立を通して国民の信頼を取り戻す。

   −「医療サービス効率化プログラム(仮称)」の策定−

    @医療サービスの標準化と診療報酬体系の見直し
      ・根拠に基づく医療(EBM)の推進、支払方式の見直し(包括払・定額払の拡大等)など
    A患者本位の医療サービスの実現
      ・情報開示、相互評価・チェック体制の充実による適正な診療の確保・広告規制の緩和など
    B医療提供体制の見直し
      ・病床数の削減、病院・診療所の機能分化の促進など
    C医療機関経営の近代化・効率化
      ・株式会社方式による経営などを含めた経営に関する規制の見直しなど
    D消費者(支払者−患者・保険者)機能の強化
      ・保険者と医療機関との直接契約、レセプト審査・支払事務等の抜本的効率化など
    E公民ミックスによる医療サービスの提供など公的医療保険の守備範囲の見直し
      ・混合診療に関する規制の緩和など
    F負担の適正化
      ・適正な患者自己負担の実現、保険料負担の設定

   −医療費総額の伸びの抑制−

  特に高齢化の進展に伴って増加する老人医療費については、経済の動向と大きく乖離しないよう、目標となる医療費の伸び率を設定し、その伸びを抑制するための新たな枠組みを構築する。

日本医師会の見解

  経済財政諮問会議の「骨太の方針」の発表を受け、日本医師会は翌6月22日に「声明」を出し、基本方針に対する日医の考え方を明らかにした。

   −声明−

 小泉内閣は各分野における構造改革に積極的に取り組む姿勢を打ち出している。
日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会は、社会保障制度、とくに医療構造改革の問題の重要性と緊急性に鑑み、その姿勢を高く評価するものである。
 構造改革の推進に当たって、昨日、経済財政諮問会議からその「基本方針」が公表されたが、経済財政改革ばかりに重点をおくことによって、わが国の社会保障制度の崩壊を招くことがないよう、以下に指摘する点に留意されることを強く望む。

1. わが国の社会保障、とくに医療保障の基本は「自助、互助、公助」からなっており、そのバランスの議論はあり得るとしても、基本理念が失われてはならない。 (医療の基本理念)

2.

わが国の医療及び医療制度は、国民の健康増進と生命を守ることを通じて、全ての国民に公平で平等な生活を保障し「安心できる」社会を作ることを目標とするものである。(国民皆保険体制とフリーアクセス)
3. 医療及び医療制度の第一義的目的は、本来経済性や営利性の追求ではなく、人命の尊重と保護であり、いわゆる市場経済原理が必ずしもなじまないことを確認すべきである。(医療の非営利性)
4. 改革に当たっては「安心できる」社会の基盤となる安定的で継続性のある医療体制を作ることが重要であり、医療については治安や防災、教育などと同様に公共財としての位置付けを明確にすべきである。(医療の公共的使命)
5. 医療従事者は、高い倫理観と専門性をもって医療行為を行う重い責任と義務を負う。(医の倫理とプロフェッショナルフリーダム)


   −「基本方針」の主な論点と影響−

    1.株式会社の医療参入
     ○非営利法人との会計構造の相違から派生する医療費の増大
     ○実利追求型の企業論理の横行 → 医療倫理の崩壊
    2.医療費総額の伸びの抑制
     ○経済波及効果大の産業の成長阻害 → 経済全体へのマイナス影響
     ○医療の質の低下 → 国民の健康へのマイナス影響
    3.公的保険による診療と自由診療との併用
     ○混合診療の容認 → 現物給付制度の崩壊 → 患者負担の増大 → フリーアクセスの阻害
    4.保険者と医療機関との直接契約
     ○平等性の崩壊 → フリーアクセスの崩壊


<医療情報室の目>

★基本方針の主な論点について
 株式会社の医療参入は、競争原理の導入により質の向上と効率化を進めることを目指すものですが、「医療の質」が競争により向上するかは甚だ疑問です。過剰なサービスによる患者の奪い合いなど、“悪貨が良貨を駆逐する”事態が危惧されます。
 医療費総額の伸びの抑制は、日医がかねてから主張しているように真に必要な医療が提供できなくなる恐れがあります。また、他方では医療を含めた社会保障の分野が多くの雇用が期待できる成長産業であると認めているにも拘わらず、その分野への投資を抑えるということになり、矛盾を生じています。
 混合診療の解禁、保険者と医療機関との直接契約は、わが国の優れた医療制度として国際的に高い評価を受けている国民皆保険体制、“いつでも、どこでも平等な医療が受けられる”フリーアクセスが経済的な理由などで阻害される恐れがあります。
 いづれも、医療を受ける側である患者にとって良策であるはずがなく、患者の視点に立った主張を日医が関係諸団体と共同して行うことを期待します。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 百冨 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 江 頭 啓 介・入 江  尚


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