医療情報室レポート 
 

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2001年4月27日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:高齢者医療制度の行方
2002年度に予定される医療保険制度抜本改革の柱である高齢者医療制度については、政府与党、厚生労働省、日本医師会をはじめとする関係団体がそれぞれ具体的検討を行っています。
日本医師会では1997年に「医療構造改革構想」を公表したのを皮切りに、1999年に「医療構造改革の具体化に向けて」、2000年には「2015年医療のグランドデザイン」を公表し、医療の担い手として常に改革の必要性を訴えていますが、この度これまでの内容を整理・再編集した「医療構造改革構想−国民が安心できる医療制度をつくるために−」を公表し、抜本改革の具体的方策として掲げる5つの項目の中で高齢者医療制度の創設を最優先課題と位置づけています。
今回は、検討が進む高齢者医療制度の行方について、日本医師会の考え、厚生労働省が示した見直しの視点、関係団体の動向などについてお知らせします。


日本医師会 医療構造改革構想

日本医師会医療構造改革構想では、3つの改革目標と4つの基本理念、5つの抜本改革の具体的方策を示しています。
改革の目標
国民皆保険制度の維持  現物給付制度の確保  医療の質の維持向上
改革の基本理念
意識構造改革  制度構造改革  コスト構造改革  情報構造改革
抜本改革の具体的方策
 
高齢者医療制度の創設
  診療報酬体系の改革  薬剤制度の改革  医療提供体制の再構築 生涯保健事業の推進


日本医師会が提案する高齢者医療制度

制度の概要
75歳以上の後期高齢者を被保険者とする。
都道府県あるいは広域連合体を保険者とする。
保障的性格を有する制度とする
財源として公費を90%、保険料と自己負担を10%程度とする。
医療保険各保険者からの拠出金を廃止する。
診療報酬は、慢性期は医療度、自立度を加味した合理的包括払い方式を導入する。
独自の高額療養費制度を設定し、患者の負担が大きくならないよう配慮する。
将来的に介護保険制度との統合を検討する。
終末期医療については、在宅医療技術やホスピスケア等の普及を図ると共に、「看取り」の医療に対する国民的合意形成を推進する。
患者及び家族とのインフォームドコンセントをより強く推進する。
経過措置
 一般医療保険制度の再編と合わせて、激変緩和措置として対象年齢、公費投入率を徐々に引き上げ、保険者拠出金を徐々に引き下げる段階的実施を想定する。
一般医療保険制度の再編
財源は保険料80%、自己負担20%とする。
現行の医療保険各保険者を保険者とする。
国保に対する公費投入による財政調整を実施すると共に、市町村国保の広域化を図る。
組合健保間の財政調整を促進し、保険者の整理・統合を図る。
70〜74歳の被保険者に対する保険料、自己負担の軽減措置を設定する。


厚生労働省の視点

  厚生労働省者は3月に「医療制度改革の課題と視点」をまとめ、高齢者医療制度について現在まで提案されている4つの案の考え方や問題点を提示し、更に独立保険方式と突き抜け方式について独自の財政試算を公表している。
高齢者医療制度の見直しの4類型
@ 独立保険方式
  全ての高齢者を対象として各医療保険制度から独立した制度を創設する。(日医・経団連が提案)
A 突き抜け方式
  被用者OBを対象とする新たな保険者を創設し、その医療費を被用者保険グループ全体で支える仕組みを創設する。
  (健保連・連合が提案)
B 年齢リスク構造調整方式
  現行の保険者を前提とし、保険者の責によらない加入者の年齢構成の違いによって生じる各保険者の医療費支出の相違を調整し、保険者間の負担の不均衡を調整する。(民主党が突き抜け型との混合型を検討)
C   現行の医療保険制度を一本化し、すべての者を対象とする新たな医療保険制度を設ける。(国保中央会が提案)
財政試算
独立保険方式と吹き抜け方式による4つの類型について独自の前提を置いて財政資産を提示
独立保険方式(若年世代からの支援を行わない場合)
75歳以上の医療費の大半に公費負担を投入するので、現行制度に比べて大幅な公費(税)負担増。(+2.4兆円)
70〜74歳の医療費が調整対象から外れることから、市町村国保は大きく負担増。(一人あたり+1.1万円)
独立保険方式(若年世代からの支援を行う場合)
75歳以上の医療費に対する公費5割投入による公費負担増の一方、70〜74歳の医療費が調整対象から外れることによる公費負担減で公費(税)負担はやや減少。(▲0.1兆円)
70歳代前半の医療費が調整対象から外れることなどから、市町村国保は大きく負担増。(一人あたり+1.9万円)
突き抜け方式(年齢リスク構造調整を行わない場合)
現行で概ね国保35:被用者65で負担している老人保健拠出金が、突き抜け制度により国保45:被用者55となることから、被用者は負担減、市町村国保は大幅な負担増。(一人あたり+1.9万円)
突き抜け方式(年齢リスク構造調整を行う場合)
負担調整が若年者の医療費にも拡大されることから、加入者の年齢構成が比較的若い保険者(健保組合等)は負担増、加入者の中高齢化が進んでいる保険者(国保等)は負担減。(一人あたり健保組合+0.9万円、国保▲0.3万円)
国庫負担率50%の国保が負担減となることに伴い、公費(税)負担も減少。(▲0.5兆円)

関係団体の動向

○日経連: これまで健保連、連合とともに「突き抜け型」を提案していたが、2002年5月の経団連との統合を控え、70歳以上の被用者と被扶養者を部分的に突き抜け扱いとする折衷案などを提示している。
○健保連: 75歳未満の前期高齢被保険者を8割給付、75歳以上の後期高齢被保険者を9割給付とする「突き抜け方式」を提案。
○経団連: 65歳以上の高齢者を対象とする「独立型」を提案。
 
改革のスケジュール

  坂口力厚生労働大臣は、3月24日の閣議後の会見で、高齢者医療制度を含む改革法案を来年の通常国会に提出する考えを改めて強調、財源的問題を含めて5月〜7月の3カ月の間に大枠をまとめる考えを示した。
  尚、政府与党では社会保障改革協議会ワーキングチーム(座長:宮下創平自民党社会保障調査会長・元厚相)を設置し、具体的検討を進めている。

日本医師会の「医療構造改革構想」、厚生労働省の「医療制度改革の課題と視点」はインターネットにより内容が紹介されていますのでご案内します。
  日本医師会「医療構造改革構想」       http://www.med.or.jp/nichikara/index.html
  厚生労働省「医療制度改革の課題と視点」 http://www.mhlw.go.jp/houdou/0103/h0306-1/h0306-1.html


<医療情報室の目>
★財源論を含めた抜本改革を期待
  急速な高齢化の進展と低迷し続ける経済状況の影響を受けて医療財政基盤が危機的状況を迎えた今、高齢者医療制度をはじめとする医療制度改革は喫緊の課題でありますが、いまだに経済財政諮問会議などでは「はじめに『医療費抑制』ありき」で議論がなされています。
  今回の制度改革の時期こそ、かねてより日医が主張する国の財源の配分を国民の幸福や生き甲斐に直結する医療・福祉や文化に重点を置くよう強く訴えるとともに、広く国民の理解を得るための方策を講じることについて今一層の努力を日医に期待したいと思います。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 百冨 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 江 頭 啓 介・入 江  尚


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