医療情報室レポート 
 

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2001年3月30日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:規制緩和の流れと医療
「我が国経済社会の抜本的な構造改革を図り、国際的に開かれ、自己責任原則と市場原理に立つ自由な経済社会としていくこと」を基本として、平成7年3月に「規制緩和推進計画」が閣議決定され、今日まで各産業分野において規制緩和が推進されてきました。
医療の分野においても、平成12年12月に政府の規制改革委員会がまとめた「規制改革についての見解」の中で、競争原理の導入を積極的に進めるべきといった提言がなされております。
今回は経済の活性化を錦の御旗に推進される規制緩和が、今後医療にどのような影響を及ぼしてくるのか、検討されるべき課題・問題点などを特集します。


これまでの医療分野における主な規制緩和

○臨床研修病院の指定基準の弾力化(1998年10月)
○臨床研修病院の指定基準の弾力化(1998年10月)
○指定訪問看護事業者への民間企業の参入(1999年3月)
○診療録の電子保存を認める(1999年4月)
○行政手続き(病院等の使用前検査及び使用許可)の簡素化・弾力化(2000年7月)
○広告できる事項の追加(2001年3月)

医療法の一部改正に伴う広告規制の緩和について

医療機関が広告できる事項として新たに追加されたもの
@診療録その他の診療に関する諸記録に係る情報を提供することができる旨
A財団法人日本医療機能評価機構が行う医療機能評価の結果
B医師又は歯科医師の略歴、年齢及び性別
C共同利用をすることができる医療機器に関する事項
D費用の支払方法又は領収に関する事項
E予防接種の実施
F健康診査の実施
G保健指導又は健康相談の実施
H介護保険の実施に伴う事項
 ・指定居宅サービス事業者又は指定介護療養型医療施設である旨
 ・訪問看護に関する事項
 ・紹介することができる他の指定居宅サービス事業者、指定居宅介護支援事業者、指定介護老人福祉施設、
  指定介護療養型医療施設又は介護老人保健施設の名称
I対応することができる言語
J薬事法に基づく治験に関する事項
K労災保険二次健診等給付病院又は診療所である旨

規制改革委員会「規制改革についての見解」

医療分野における競争政策
@医療の質を支えるシステムの整備
EBMの推進、安全対策、人的資源・質の確保
※EBM(Evidence-based medicine):あやふやな経験や直感に頼らず、科学的evidence(証拠)に基づいて 最適な医療・治療を選択し実践するための方法論。患者の診断・予後・治療などに関するデータを疫学的・ 生物統計学的手法で解析し、個々の患者に最も適切な臨床的判断を下す方法論・学問である臨床疫学を臨床 問題解決のために再構成した概念。

A患者による選択を支えるシステムの整備
 医療機関の第三者評価の充実、医療機関の広告規制の在り方、情報開示とインフォームド・コンセント、 患者の意思決定支援
B新たな選択肢の導入による競争の促進
 参入規制の緩和、医療機関の機能分化、株式会社の病院経営
C医療保険システムの在り方
 競争政策の観点からの医療費体系の見直し、混合診療の在り方、医療機関・保険者の経営分析の充実、 保険者機能の再構築
安心と安全の再構築
医療システムの新たな展開

営利法人の参入についての各機関の見解

規制改革委員会
(参入を推進)
医療計画による参入規制を大幅に緩和し、医療機関の競争を促進する方策について検討する必要がある。
例えば@事業を病院経営およびその周辺事業に特化した企業とするA利潤の使途の制限について適切な努力義務を課すほか、配当について適正な制限を設けるB経営状況、財務状況に関する情報公開を義務付けるC撤退について一定の条件づけを行う−などの条件を検討して、できるだけ早期に株式会社の参入を実現すべきである。
厚生労働省
(参入に反対)
@患者自身が必要なサービスを事前に十分判断・選択することが困難であり、一般の商品やサービスにおける選択とは異なる性質を有しているA収益性の高い部分に集中し、コストのかかる患者が敬遠される恐れがあり、救急医療や僻地医療等の不採算医療を期待することが難しい。また、医療費の高騰を招きかねないBわが国の医療施設の整備状況は、地域的偏在が残るものの量的整備がほぼ達成されており、新たに営利法人の参入を認めることにより市場から資金を集め、量的な整備を進めるという状況にない−ことから、医療提供の適正化・効率化に必ずしもつながらず、規制を行って行くべきであると考える。
日本医師会
(参入に反対)
医療および医業は、直接、人の生命の保全並びに健康の回復および維持を目的とするものであり、このような医療には、救急、僻地医療などの不採算部門が存在するが、営利企業が参入すれば、そのような不採算部門を切り捨てる危険がある。企業倫理は、あくまでも経済活動上の倫理であり、直接、人の生命、健康に携わる医師、医療の倫理とは、本質的に異なる。
わが国の地域医療は、当該地域の医師、医療機関が協力し合って、その推進に努力してきたが、これは医療および医業が非営利であるからこそ可能なのであり、ここに営利企業が参入してくれば、わが国の地域医療制度は混乱、衰退し、ひいては国民の健康にも重大な影響をおよぼす。

規制緩和に伴う弊害

介護保険への民間企業の参入の結果
平成12年4月より施行された介護保険制度は民間活力の導入を奨励し、介護市場を新たなビジネスチャンスとして捉え様々な異業種企業が参入した。あるホームヘルプサービス企業は、制度開始に先駆けサービス拠点を全国に展開したが、業績不振に伴い不採算事業所を統廃合しサービス拠点を約半数に削減した。
企業は、当面大都市部を中心に採算の採れる地域に絞った展開に方針転換し、いわゆる僻地等のサービスが切り捨てられる結果となった。
米カリフォルニア州の電力危機
本年1月、米カリフォルニア州でサンフランシスコなど一部の地域が停電した。同州は、電力の規制緩和を推進し、州の電力卸売取引所から各電力会社が電力を仕入れ、消費者に販売する方式を採用しているが、燃料価格の高騰、電力需要増などにより卸売価格が高騰し、州の2大電力会社が経営難に陥り、電力需要を賄いきれない状態となった。
規制緩和の推進、競争原理の導入が必ずしも成功するとは限らないことの事例となった。


<医療情報室の目>
★医療は社会的共通資本
 日医雑誌第125巻第4号(平成13年2月15日)に掲載の宇沢弘文氏と坪井会長の特別対談「21世紀の社会保障を考える」の中で、医療は道路・電力・水道・交通機関などのインフラや教育などと共に「社会的共通資本」という考え方で述べられており、市場原理導入の危険性が指摘されています。
 市場原理の導入は、介護保険で立証された不採算部門の切り捨てによる適正な医療提供体制の崩壊を招く恐れがあります。また、利益第一主義は患者の選別といった状況を引き起こし、弱者切り捨てになる可能性も否定できません。また、アメリカの例のように返って医療費のコスト増につながって、患者さんの負担増になってしまう恐れがあります。「社会的共通資本」である医療に市場原理は受け入れられないと考えます。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 百冨 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 江 頭 啓 介・入 江  尚


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